偽エクソシストが出現?

キリスト教、特にカトリックでは、「悪魔(悪霊)」は、架空の観念的なものではなく、実在するものである、と考えられている。聖書においてもイエスキリストが悪魔と戦っている場面が多く描かれているが、「悪魔」や「悪霊」など、現実的には存在しないと思っている方も多いかもしれない。

プロテスタントでも奥山実牧師は、占い(呪術者、霊媒等)や(医者で病気が治らないとき等に頼む)拝み屋、ニューエイジ(スピリチュアル)等の新宗教(真光や真如苑、等)、お守り(お札)、こっくりさん、ウィジャ盤、等により誰でも悪霊に取り憑かれる危険がある、と警告を発している。申命記18.10-12には、「占いをする者、卜者、まじない師、呪術者、霊媒をする者、口寄せを行ってはならない」とある。悪霊に取り憑かれると、精神に異常をきたし、精神病院に入れても治らない。(注:「悪魔」や「悪霊」は様々な怖いイメージに描かれることがあるが、キリスト教では純粋に目に見えない「知的存在」である)

人に取り憑いた悪魔を祓う人は、悪魔祓い師(祓魔師)と言うが、英語ではエクソシスト(exorcist)である。この言葉は、1973年に公開され映画『エクソシスト』が世界的に大ヒットしたため、中高年以上の人なら知らぬ者はいないであろう。この映画は、1949年に米国で発生した実際のケースを題材にしたものである。また昨年2023年7月には、『ヴァチカンのエクソシスト』が公開されている。これは実在のエクソシストであるガブリエル・アモルト神父の回顧録『エクソシストは語る』を基に制作されたものである。

因みに、先代の教皇ヨハネ・パウロ2世は、1982年に教皇としては初めて自らエクソシズムを行っている。さらに現教皇フランシスコも、悪魔祓いに対して肯定的な発言をしており、2017年には、必要に応じてエクソシストに頼るよう指示する発言を行っている。同教皇は歴代教皇よりも悪魔に言及することが多く、悪魔はこの世に存在するとの考えを明らかにしている。カトリック教会では、悪魔祓いを行うことができるのは、司祭だけであり、その目標は霊魂の救いである。

ところでイエス・キリストは、史上最初のエクソシストである。主の祈りの最後の行にある「私たちを誘惑におちいらせず、悪からお救いください」という言葉は、悪魔祓いの一形態であると見なされている。またマルコの福音書には悪魔・悪霊に言及する部分が複数あるが、例えば、1.32-34には、「人々は病人や悪霊に憑かれた人をみな、イエスのもとに連れてきた。こうして町中の者が戸口に集まってきた。イエスは様々な病気にかかっている多くの人を癒し、また多くの悪霊を追い出された。・・・」とある。マルコはさらに、イエスの名声が広まったのは、この悪魔祓いのためだったとも述べている。イエスは治療行為を通して、個人あるいは世界に内在する不調和(病気や精神疾患、不幸等)は、悪魔に雇われた悪霊に起因することを明らかにしている。後の章で述べるが、戦後、キリスト教を凌駕する勢いで、新興宗教(特に仏教系)が興隆するが、病気や精神疾患を治癒したり、不幸から脱却したいという人々の願いにうまく対応できたことも興隆の一因であると言われている。

現代社会では、統合失調症やうつ病などの精神病を患う人が多いと言われるが、その治療には抗うつ剤の投与が行われる。この背後では、巨額の利益をあげる製薬会社が問題視されている。また精神病院については、日本では、薬漬け、長期入院、身体拘束が諸外国に比べ多く、問題となっている(⇒滝山病院事件=精神科における患者虐待事件、等)。カトリックの本場イタリアでは1978年の法律により精神病院を全廃したが、病院で多量の薬を処方されても治らなかった精神病患者が、最後の拠り所としてエクソシストのもとへ駆け込むケースが徐々に増えていると言う。病院の精神科に通うよりもエクソシストの元に通ったほうが良いとする人が増えているのだろう。

2004年、ヴァチカン市内の学校にエクソシスト養成講座が開設され、毎年一回、5~6週間の期間開かれているという。70年代、イタリアではわずか20人程度にまで減少したエクソシストの数が、現在300人(2010年現在)を超えるまでに増加したというが、彼らが暮らす教会や修道院には電話が殺到し、要請に対応しきれないほどであるという。エクソシストの数よりも儀式を必要とする人のほうが圧倒的に多いからである。ある調査によれば、イタリア国内でだけで約50万人もの人々がエクソシストのもとへ相談に訪れているという。いつの日か日本でもヴァチカン公認のエクソシストが生まれ、社会的機能の一部として活躍するような日が到来することを望むものである。この件については後の章で詳述する。

偽エクソシストが出現

今回、この記事のための資料探しを行っている時、たまたま「悪魔祓い師」でネットを検索をしたところ、驚いたことに「EXORCIST******」なるサイトが1件ヒットした。主宰者の「悪魔祓い師」は若い男性であるが、「和製エクソシスト」を自認、自称している。サイトには何故かダビデの星(六芒星)や十字架が配置されている。「悪魔祓い師」という言葉が、一部の社会層にとっては既に、耳慣れた言葉になってきた証左であろうか?

本来、エクソシストの資格は、ヴァチカンにより認可されるものである。この「和製エクソシスト」は、お祓い、魔よけ、悪魔祓いや降霊を行っているようであるが、驚いたのは、「奇跡の体験談」として多数の人(若者が主体)から非常に多くの体験談が寄せられていることである。また数多くのYouTube動画をアップしていて、若年層からかなりの支持を受けているように見える。つまりこの「和製エクソシスト」のもとには、病気や精神疾患、不幸(不運)の解決のために多数の人々が訪れているということである。

しかしこのサイトに問題が無いわけではない。悪魔祓いの対価として、20万円から数十万円の、明らかに法外な金員を要求しているからである。因みにイタリア等のカトリック教会で行っている悪魔祓い儀式は、基本無料である。また各種関連資料を調べた所、現在、実際の悪魔祓いの儀式は、精神科医の立会いの下で行い、実際に悪魔・悪霊が取り憑いている霊は、ほんの1~2%に過ぎず、同サイトにあるように申し込まれたほとんどのケースに対して悪魔祓いと称する行為を行ない、多額の金員を要求するのは、明らかに金銭目的の詐欺的行為と言えるかも知れない。

日本には、伝統的に霊を自分に降霊(憑依)させて、その意志を語る口寄せを行うイタコ(東北地方)や、ユタ(沖縄地方)やノロなど、土着宗教(シャーマニズム)に基づく祈祷師(呪術師、霊媒師)がいる。前記「和製エクソシスト」は、これら祈祷師に似ているが、(前記イエス・キリストが言っているように)「全ての不幸(病気)は悪魔が作り出している」として、「悪魔祓い師」を自認して、主にネットや口コミを通して宣伝を行っている。同サイトには、「科学的、医学的、霊的な処置(除霊・霊障相談)も色々試したが改善されない、どこへ行っても解決しない方はご依頼・ご相談ください」としている。前記悪魔祓い師には、各種病気・精神疾患や困りごとについて、最後の解決の拠り所となる自信があるのかもしれず、それが大きな支持の要因になっているようである。

聖書には艱難期(かんなんき)には偽のイエスキリストや偽預言者が現れるから気をつけなければならないとある。カトリック教会というキリスト教の主流が衰微している現在、偽エクソシストなるものは、既に日本中に数多く跋扈(ばっこ)しているかもしれない。由々しき事態である。
(⇒マタイ福音書7-15「偽預言者たちには気をつけなさい。彼らは羊のなりをしてやって来るが、うちは貪欲な狼である」。)

新興宗教の勃興と心霊主義の蔓延

日本では、戦後、キリスト教の布教活動は、史上かつて無いほど全国規模で盛り上がり、クリスチャンの数は急増したが、近年、その数は漸減傾向にあり、最近の調査によれば、人口比でわずか1.5パーセント(カトリック教徒は0.5%前後)程度にまで低下したという。この減少傾向はヨーロッパでも同様らしい。

人々の教会離れ、つまりキリスト教本流の衰退現象と反比例するかのように、戦後興隆しているのが、いわゆる新興宗教である(平成19年末時点で、法律で認可されている宗教法人の数は18万以上ある)。「エホバの証人」、「モルモン教」および「統一教会」などは、相当の信者を獲得しているが、カトリック教会では、これらをキリスト教と見なしておらず、「三大カルト」として警戒していることに注意すべきである。

これらカルト教は、終末思想を基本としており、この世が悪魔の支配下にあり、やがて到来する世界の終末には天の軍勢と悪の軍勢の戦いが起こると説いて人々の不安を煽る。この結果、世界各地でカルト教による集団自殺等の悲劇が起きている。

近年、大量生産・大量消費主義の下で、経済的には繁栄したが、伝統的な道徳精神文化・価値観が衰えている。このような背景の中で、新興宗教に走る人々が増加し、魔術や呪術、タロット占い、霊媒などを通じて霊を呼び寄せようとする心霊主義が息を吹き返していると言われる。心霊主義に依存するする人々のなかには、法外な報酬を求められたり、詐欺まがいの霊感商法に騙される人が後を絶たない。

1995年、地下鉄サリン事件により世界を震撼させたカルト宗教「オウム真理教」は、同事件の何年も前から日本沈没や世界戦争勃発、等、「世界の終末」を予言していた。そして「この世を汚染しているのは、物質主義である。従って精神性の有無に関わらず、物質的に豊かであったり、カネを持っていさえすれば偉くなれる。まさに悪魔の支配下にある地球である」と述べていて、先の3大カルト教と共通の思想の下、信者を不安に陥れて、狂気へと突き進んだ。

本物の信仰が陰るとオカルトの木が育つ

上述のように現代社会は、表面的には経済的に繁栄しているように見えながら、実際には詐取や詐欺事件の多発、等、悪徳が蔓延している。人々は拝金主義に走り、悪魔に魂を売って世俗的な冨、名声、知識および権力を手に入れ、悪魔の裏をかこうとするが、遂には悪魔には負けて死ぬ。しかし悪魔に対しては、大天使聖ミカエルの取次を願うことを通してイエス・キリストによって打勝つことができる。

「教会離れ」(*)進行する時代では、『本物の信仰が陰るとオカルトの木が育つ』と言われる。「オカルト」とは、目や感覚以外の手段により知識を取得しようとする行為であるが、より具体的には占い、霊感商法、幽霊、都市伝説、陰謀論、等である。若者たちの中には、魔術や占いに惹かれたり、スピリチュアリズムに傾倒する者が増えてきている。こうした世界的な規模の人心の乱れに対応するのが、宗教界、特にカトリック教の役割ではないか。それは長いエクソシズムの伝統があるからである。
*: ただしベトナムやアフリカ大陸、等、真面目なカトリック信徒が増加している地域もある。

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