日本サッカー界の課題(2015年と2020年のJリーグGKデータの比較から)

今後の日本サッカー界の課題は、いかに優秀なGKコーチを育成年代に送り込めるか。それも一部のカテゴリーやクラブに限定せずに送り込むことができるかだと考える。

① 調査の目的 

「Jユース」か「部活」か。 
 時代を問わず度々議論になるテーマがサッカー界にはいくつか存在します。そのうちの代表できなものが「Jユースvs部活」です。私も昔日本代表選手はどちらの出身が多いかというデータが出ていたのを見たことがあります。一昔前は「テクニック育成のユース」「メンタルと人間性育成の部活」という対比もよくありました。
 しかし、そのいずれも「GK」にフォーカスを当てたものではありませんでした。そこで、育成年代のGKコーチとして「ユースvs部活」をGKで分析してみたいという、超個人的な誰得研究をはじめることにしました。

② 調査の方法

「2015年開幕前」と「2020年開幕前」の選手データから、J1.J2,J3の全GKの「所属経路」をそれぞれ収集した。集計したGKの人数は下図の通り。なお、J全体を比較するとともにJ1のみの比較も行った。

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③ 調査結果

 ⑴ 「Jユース(JY)」か「部活(高体連)」か (Jリーグ全GK)

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結果⇒Jユース(JY)出身GKと海外出身GKの増加
 上図2つを比較すると2020年時点だけを見るとJユース出身GKと高体連出身GKの割合はほぼ同じ。ただ、2015年からの推移で比較すると、高体連出身GKが減っている(-16%)に対してJユース出身GKは増加している(+8%)。特に、ユースからプロに加入するGKは大きな変動はない(-1%)ものの、下図を見るとJユース出身GKが大学を経由してJリーグに加入する割合が増えている(+7%)。海外出身GKの割合は大きく増加している(+9%)。2020年は24人の海外出身GKがおり、その内訳をみると15人が韓国、9人がその他となっている。

 ⑵ 「Jユース」か「部活」か (J1全GK) 

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結果⇒高体連出身GKの減少と海外出身GKの増加
 J1に限定してもやはり高体連出身のGKが減少(-15%)し、海外出身のGKが増加(16%)している。Jユース出身GKの割合は変動なし。

 ⑶ 「Jユース」か「部活か」 J全体とJ1の比較

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結論⇒J1に限ると2015年からユース出身者は変わっていない
 
Jリーグ全体(上図)で見ると2015年よりも2020年の方がJユース出身者は増加している。しかし、J1に限定する(下図)とJユース出身者の割合は変動がない。高体連出身者はどちらも減少している。


 ⑷ GKの加入年代について

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結果⇒高卒GKの減少
 Jユース出身・高体連出身を問わず、高卒加入と大卒(大卒後)加入を比較した。大卒GKの割合はJ全体(-1%)もJ1(±0%)で見ても変動はない。しかし、高卒GKはJ全体で8%、J1に限定すると16%も減少している。

 ⑸ 2020年J1・J2開幕戦 先発GK (おまけ) 

*J3はコロナウイルスの影響で開幕戦が延期
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結果⇒開幕戦のスタメンGKだけを見ると高体連出身GK優位 

ただし・・・

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開幕戦のGKのうち20代のGK(40人中17人)に限定すると約半数がJユース出身となる。

 ⑹ 出身チーム

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結論⇒U-18世代で安定的にJリーグにGKを輩出しているのはJユース

④考察

高体連出身GKの置かれている状況はこの5年で大きく変わった。大きな要因は2つ。
 ⑴ 海外出身GKの台頭。
  特に「アジア枠」の導入もあり、身体能力で優る韓国人GKはJクラブにとって魅力的な存在となっている。 
 ⑵ JユースのGKの増加。
 そもそもJクラブの数が増加しているのもあるが、所属人数・指導者の質・スカウト活動・練習環境などが整
ってきているというのもあるだろう。また、大学経由で加入するJユース出身のGKが増えているのもある。
 
 一方の高体連にはプロ輩出を目的とする場合課題(=現状)が多くある。
 ⑴ 「部活動」という立ち位置
 部活動は厳密にいえば「教育活動の一環ではあるが教育課程外」である。語弊を恐れずにわかりやすく言えば「部活動=勤務時間外のボランティア」である。最近では「ブラック部活廃止運動」も起こっており、今後数年で部活動の在り方が大きく変わることも予測できる。これらがこの後に出てくる課題(=現状)の前提ともなる。
 ⑵ 指導者不足
 高体連チームの指導者を大きく分けると
 ・教員 ・学校職員 ・外部指導員 の3つとなる。そもそも、学校生活の中の一部という位置づけに部活動があるのでそこに対して人材を、まして費用対効果(1人の指導者で何人見れるかという意味)の薄いGKコーチを配置できる学校は限られる。また、GKコーチがいたとしてもFPを指導しなければならない状況があったり、GKコーチが教員であれば、学校業務が優先となるため毎日現場に出れる保証はない。(学校における部活動の存在意義にもよる)
 ⑶ 選手数と選手の質
 部活動である以上、選手の選考を積極的に行える学校は少ない。故に、人数が多いうえに能力差のある選手たち指導する状況が生まれやすい。また、U-18カテゴリーに上がる段階で身長や能力が秀でている選手はほぼユースに選抜されていく。ユースに上がれなかった選手が高体連に行くというのが一般的な現状だ。
 と、挙げればきりがないのだが、一言でいえば「部活動はプロ養成所ではない」ということ。(⑴⑵⑶は建前で、Jユース以上の環境を持っている強豪校も一部ある。)

⑤ 結論

そもそも、Jユースの立ち位置と高体連=部活動の立ち位置を鑑みれば、Jユース出身(大学経由含む)のGKがJリーグに増えることは極めて当たり前のことである。とはいえ、まだまだU-18年代はまだまだ成長期である。今の傾向が今後も続いて「Jユースにいけなかったらプロになるのはほぼ不可能」という状況を作ってしまうのは日本のGK界、ひいては日本サッカー界にとってマイナスである。Jユースに上がれなかった選手の可能性を引き出す役割を担うのは高体連であり街クラブである。ただ、今回の調査では高体連や街クラブのGKを取り巻く環境が良くなっているとはいえない。
一方で、海外出身のGKが増加し高卒の選手が減少している中、安定して選手を輩出している大学サッカーの存在もGK界にとって見逃してはならない。注目度で言うとプロや高校サッカーに劣りがちな大学サッカーにおいてGKが育成されているのは間違いない事実である。
 つまり、今後の日本サッカー界の課題は、いかに優秀なGKコーチを育成年代に送り込めるか。それも一部のカテゴリーやクラブに限定せずに送り込むことができるかだと考える。(「本当に優秀なGKコーチこそプロではなく育成年代に必要だ」とジョアン・ミレッ氏が言っていたのを思い出す。)

 プロになろうとなるまいと、早く優秀なGKコーチと出会うことはGKを好きになることに直結するし、サッカーから離れたとしても豊かな人生を送るヒントに触れることにつながると確信している。 

 ただでさえ数が少なく過酷な環境に身を置くGKが優秀なGKコーチに出会える環境が整うことを願う。そして、日本のサッカーの指導者がGKについて興味関心を持ってくれることも同じように願う。


*個人の趣味で集めたデータです。数値やデータに漏れや間違いがある可能性はあります。
*2015年のデータはゲキサカのページからデータをとりました。(だいぶ怪しい気がしてます)
*2020年のデータは市販の選手名鑑からとりました。
*ユースや国内の学校(朝鮮学校等)を卒業しているGKは海外出身の扱いをしていません(例:パクイルギュ)。なので、本来の「外国籍選手」の数とは若干のずれが生じています。
*プロを輩出するのが育成の目的や正解だとは1mmも思っていません。
*筆者が高体連所属なのでまとめは高体連目線で書きました。



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