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#08 TOKって何者?どう攻略すべき?

皆さんこんにちは、今回はTOK(Theory of Knowledge)について見ていきたいと思います!

この記事はどちらかというと現12年生向けというより、これからTOKに挑むことになる高等部生の皆さんや、TOKの実態についてより具体的に知りたいという保護者の方々に合わせた内容となっています。もう少し早く仕上げられていれば TOK Essay を書く際に少しでも参考にしていただけたかもしれないのですが…更新が遅くなってしまいすみません!なお、後ほど説明しますが初等部時代からの経験がTOKの成果に影響を与えると言っても過言ではないので、低学年の生徒・保護者の皆さんもぜひ目を通してみてください。

ちなみにですが、今後も基本的には週1回くらいのペースで記事を投稿していく予定です。しかし、必要に応じて頻度を高めるかもしれませんし、場合によっては間が空いてしまうこともあるかもしれないのでご了承ください!

そもそもTOKとは?

TOKに関しては多くの方がある程度の知識は持っているかもしれませんが、改めて説明すると、IBDPの core(核)の一つとして位置付けられている全員必修の要素です。たまに「哲学のようなもの」と平たく表現されてしまっているのを聞くこともあるのですが、これはあまり正しいとは言えません。

説明するのは難しいのですが、TOKは私たちが学校で習ったり、日常生活で目にしたりする知識がどのように生み出され(production)、獲得され(acquisition)、活用されるのか(application)、その方法論や視点などを考察する科目です。その際に、AOK(Area of Knowledge)という5つの学問分野間での比較・対比を行ったり、実在する物体を問いに結び付けたりと、必ず机上の空論ではなく現実世界での例を通して議論する必要があります。これだけでは実態をつかみづらいと思うので、後ほど具体例を紹介します。

今回は、具体的なシラバスの内容や評価基準については割愛しますが、現行のシラバスでは TOK Essay という 1600 word のエッセイと TOK Exhibition という 950 word の記述によってAからEの5段階評価が決まります。以下の図がTOKの全体像を映しているので、興味のある方は参考にしてみてください。

Figure 1. TOK Overview (Rohol, 2022)

上に並んでいる5つの四角が先ほど紹介したAOKで、下に並んでいる5つの四角はその中から2つを(先生が)選んで学習する、という optional theme です。私たちが実際に学んだ2つを白くハイライトしました。

以上がTOKに関しての、前提となる簡単な説明です。

TOKの攻略法とは?

記事タイトルにも「どう攻略すべき?」と書きましたが、結論から言ってしまうと「TOKに攻略法はない」と考えています。「タイトル詐欺かよ!」という声が聞こえてきそうですが、「こうすれば高評価が得られる」というその場しのぎの必殺技は正直存在しません。その一方で、意識しておくとTOKとの相性の良さが大きく変わるポイントはいくつかあるので、ここではそれらを紹介します。

そもそも、なぜ攻略法がないのか理由を説明すると、先に述べたようにTOKでは「現実世界での例を通して議論」する必要があるからです。自分の考えの裏付けとなる、現実世界での例を思いつくためには、ひらめきが必要です。しかし、自らの意思で「ひらめき」を起こすことはできないため、それがいつ、どのようにやって来るのか分かりません。そう考えると、TOKにおいてうまく現実世界での例に結び付けた議論ができるかどうかは運にかかっている、ということになってしまいます。
しかし、これはTOKに限ったことではなく、例えば試験においても自分の得意分野が出題されるかどうかは運次第ですし、研究を行った際に自分が期待する結果が得られるかどうかも同様です。つまり、究極的には運があらゆる場面で絡んで来てしまうと言えなくもないのですが、だからと言って全てを運任せにして努力を放棄するべきでしょうか?試験の例をとると、全ての分野を等しく得意になることは不可能ですが、不得意な分野をなるべく減らす、あるいは得意分野をさらに伸ばして不得意な分野を補うといった対策が考えられます。研究の例をとると、方法論を工夫したり、試行回数を増やしたりすることで求めていた結果が得られる可能性が高まります。要するに、自分ではコントロールできないことでも、望ましい結果が得られる確率を高める努力は行える、ということです。これをTOKに当てはめるとどうなるでしょうか?

今まさに「ひらめき」が必要!という時は…

まず、「ひらめき」というものは考えている中でふと浮かんでくるものなので、単純に考える時間を長くすることでひらめきが起きる確率を高めることができます。個人的におすすめなのは、普段これと言って何かを考えているわけではない時に TOK に関する brainstorming を頭の中で行うことです。例えば、歯を磨いている時は他の作業を並行してできないと思いますが、その行為自体に深い思考は必要ないため、TOKにおける現実世界の例を考えることはできます。
TOK Exhibition や Essay に取り組もうと机に向かった際に、現実世界の例が思い浮かばないが故にただ座っているだけになってしまい、全く執筆が進まないというケースも考えられます。案を思いつくまでは実際の執筆に取り掛かれないのでこれは仕方がないことで、じっくり考えること自体は良いことなのですが、時間がもったいないように感じてしまいますよね。それに対して、先ほど例として挙げたように、他の作業をしている時間を活用することでTOKについて考える時間を多く捻出できますし、「何も進まない時間」を削減できるので効率的です。

ひらめきを助けるための有効な手段として、色々調べてみる、ということも挙げられます。その際に、取り組んでいる問いをそのまま検索にかけるのではなく、そこから派生したキーワードや関連する概念を調べ、考えを膨らませていくのが効果的です。
例えば "Are some things unknowable?" という問いにアプローチする際には、まず "something unknowable" というキーワードが真っ先に思い浮かびます。実際に検索してみると、"7 Examples of the Unknowable" というサイトがヒットしました。内容を読んでみると、"Unfalsifiable Theories" が unknowable であることや、その代表例が "myth" である、という情報を得ることができます。ここから、よく知られている myth にはどのようなものがあるか調べて…というように、検索結果を次につなげていき、連鎖のような格好で思考を拡散させることができます。
ただ、特にインターネット上の情報は玉石混交なので、それらがどの程度正しいものなのか、実際にTOKに関連付けられるものなのかは自分で判断する必要があります。あくまでアイデア出しを手助けするツールの一つとして、必要に応じて活用してみてください。

「ひらめき」に苦労したくない!という人は…

多くの場合、TOKにおける現実世界での例は過去の経験や知識から浮かんでくるものです。そのため、様々な経験を積んだり、知識に触れたりするほど「ひらめき」につながり得る引き出しが増えます。実際、ある先生とTOKについて議論した際に、彼が TOK Essay を書くとしたら現実世界での例として挙げるのは大人になってから得た知識だ、と言っていました。つまり、高校生の段階ではまだ経験が比較的浅いため、なかなか問われている内容にピッタリ当てはまる現実世界での例を見つけ出すのは難しく、経験の豊富な大人にはかなわない、というのは事実です。しかし、低学年の頃から興味のある分野を探求したり、積極的に新しい物事に触れたりすることで経験を増やすことは可能です。これが、実は初等部の頃からTOKの基盤づくりは始まっているとも言える理由です。

これとは異なるアプローチで「ひらめき」を促進するためには、他の人とのディスカッションを積極的に行うという手段が挙げられます。授業中に先生や他の生徒が発言した内容が参考になることも多いですし、授業外でも自分以外の人の考えに触れることで確実に視野は広がります。ディスカッションを行う相手は生徒でも良いですし、先生がもし応じてくれるようであればその機会をぜひ活用してみましょう。単に自分が持っていなかった知識や経験にアクセスできるだけでなく、他者と共有するために自分の考えをアウトプットする過程で思考を整理したり、その妥当性を確かめたりすることもできるため、一石二鳥です。

また、日頃からTOKに結びつけられそうな思い付きをメモしておく、という工夫も有効です。この点に関しては、これから自分自身がTOKに結び付けられると最近感じた内容を実践例として紹介します。

TOKが見出せる場面とは?

最近、個人的にTOKとの関連性があると感じ、興味を抱いたトピックを2つ、具体例として紹介したいと思います。非常に Natural Sciences(自然科学)に偏ってしまっていて恐縮なのですが、特に Physics を選択しているIB生の皆さんにとってはシラバスと重複する範囲もあるので、ぜひ読んでみてください!

ド・ブロイとアインシュタイン

ド・ブロイ(de Broglie)は20世紀に活躍した物理学者で、「電子が波の性質を持つ」という学位論文を発表したことで有名です(突然わけの分からない話を始めてしまいすみません、Physics HL の皆さんはこれを勉強することになりますが…)。今日では「物質波」という概念が量子力学の分野では当たり前となっていますが、ド・ブロイが最初にこれを提唱した時には物理学者らも「そんなばかな」という反応を示し、学位の授与すら危ぶまれる状況となってしまったそうです。しかし、審査員がその論文をアインシュタインに見せたところ、彼はその価値の高さを理解し、これが転機となってド・ブロイの業績は量子力学の多大なる進歩に貢献するものとなりました。

これがTOKに結び付くと考えたのは、自然科学における知識の創造(knowledge production)では personal knowledge(個人の知識)が communal knowledge(共有された知識)へと転換する必要があり、そのためには第三者の理解力が必要不可欠だ、という議論ができるからです。つまり、いくら革新的な理論が完成しても、その提唱者以外に誰もそれを理解できなかった場合、その「知識」は価値(value)のないものだと見なされてしまう、ということが言えます。ここから、知識の価値はどのように判断(judge)されるのか、という問いが浮上します。ド・ブロイのような、まだ学位をこれから取得しようとしていた権威(power)のない人(knower)が革新的な理論を発表しても相手にされなかった一方で、既に権威のある物理学者であったアインシュタインがその理論を自身の論文において引用することでド・ブロイの理論が認められるようになったことを鑑みると、権威が知識の創造において重要な役割を果たす、という主張ができそうです。

実際の TOK Essay では、権威より信ぴょう性(credibility)が重要となる場合もある、というような対立する立場も考慮して結論を導いていくことになるのですが、今回はあくまで現実世界での例がどのように主張の裏付けとして用いられるか紹介することが目的だったので、ここで一旦議論を切り上げ、次の例に移りたいと思います。この内容に興味がある方は、下のリンクより記事を見てみてください。

https://xtech.nikkei.com/dm/article/COLUMN/20150701/425861/?P=3

DHMO

これは比較的知名度の高い例なので、既に何回か見たり聞いたりしたことがある人もいるかもしれませんが、初めてこれを目にする人向けに書きます。

DHMOとは、毎年数多くの死者を出している化合物ですが、私たちの周辺でも検出されており、次のような特徴を持っていることが知られています:

  • 固体のDHMOとの長時間の接触は皮膚に深刻な損傷を与える

  • 気体のDHMOは重度の火傷を引き起こす要因となる

  • がん細胞から検出され、その増殖を促進している

  • 二酸化炭素よりも強い温室効果をもたらす

  • 土壌を侵食し、地形を変えることもある

  • 車・工場の排気ガスや酸性雨の主成分である

現在、日本においてはDHMOは規制されていないのですが、この状況を皆さんはどう捉えますか?

実はDHMOは Dihydrogen Monoxide(一酸化二水素)の略で、化学式で表すとH₂Oです。つまり、先ほど挙げたのは全て「水」の特徴、ということになります。確かに言われてみれば氷にずっと触れていると凍傷になりますし、酸性雨の主成分が水であることは当然です。しかし、上記6つの根拠だけを列挙された場合、「この物質を規制すべきではない」という結論にはなかなか至りづらいですよね。実際にアメリカではDHMOの規制を呼びかける署名運動が行われ、通行人の大多数が署名をしたという事例があります。

この例からは、ただ事実が存在していても、それだけでは主張を正当化するには不十分である、という議論が展開できます。水が確かに様々な悪影響を及ぼすポテンシャルを持っているというのは正しいのですが、それ以上に私たちが生きていくうえで欠かせない物質であるため、その危険性だけを誇張して取り上げて、規制すべきだという主張をするのはいくら偽りはないとはいえ正当だとは言えません。ここから、慣習が事実より優先されることもあり得る、という論を立てることもできますし、専門的な用語を用いることの功罪にもつなげられます。

改めて「攻略法」をまとめると?

この記事では、TOKにおける現実世界での例を「ひらめき」やすくするために実践できることを中心に取り上げました。しかし、説明が長くなってしまったので、要点を箇条書きで列挙します:

  • TOKについて考える時間を確保すること(効率的に捻出)

  • 色々調べてみること(情報の吟味は欠かさずに)

  • 他の人とディスカッションをすること(イン・アウトプットの双方向)

  • 積極的に経験を積んで日頃からメモを残すこと(IBDP開始前から)

なお、Exhibition と Essay は焦点を当てる範囲や形式こそ違いますが、本質的な考え方は共通しているため、今回紹介した内容はどちらに取り組む際にもに適応できます。今回は触れられませんでしたが、例えば TOK Essay においては各AOKの基本的な特徴を理解しておくことも重要なので、しっかりつかめていない概念は質問するなどして、確実に身につけていってください!

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