ショートショート 「タイムカプセル」

「タイムカプセル!タイムカプセルだ!」

「ねぇねぇ、次はいつここ開けるの?」

「お父さん可哀想だよ」


「大丈夫、このタイムカプセルには、ご先祖様が居るからお父さんも寂しくないんだよ。それに、私もあと少しすれば入ることになるからね。楽しみなんだ、このタイムカプセルに入ってご先祖様に会えるのが」


「え?おじいちゃんも入るの?」


「お前も将来入るんだぞ」


「僕が?お墓のタイムカプセルに?」


「そうだ」


「いつ?」


「まだまだ先…と信じたいな」




 何か、懐かしい。頭がぼんやりしている。母さんが何か言ってるみたいだけど、何も聞き取れない。轢かれる前に聞いた高いブレーキ音は、おじいちゃんと父さんの叫び声に思えた。「まだ早いぞ!」と。

 俺がタイムカプセルに入る時は誰が入れてくれるのかな…なんて考えた事もあるけど、まさか母さんになるなんて。

 14年後は「まだまだ先」の内に入りますか?じいちゃん。どんな顔してじいちゃんと会えばいいのか…。入る頃には顔なんて無いだろうけど。





「!!!!!!!!!」




 母さんの叫びが伝わってきた気がする。やっぱり助からなかったか。タイムカプセル行き決定です。お医者さん、頑張ってくれてありがとう。母さんもお医者さんのことは責めないでね。そして、患者が死んだとき医者が腕時計見るって本当だったんだ。まぁ、そりゃそうか。死亡時間確認しなきゃいけないもんね。でもさ、もし本当に患者の回復を祈ってるならさ「この腕時計を見ることが無いように」って腕時計外しておくべきじゃない?…って思うのは俺だけかな。まぁ、腹時計で死亡時間言われるのも嫌だけど。

 
・・・・・・


 そんなこんなでお葬式です。こんなことになるなら遺影の写真指定しておけば良かった。1000円カットで失敗された時の髪型の写真選ばれちゃった…。葬式って主役が一切緊張しない珍しい行事ですね。みんな俺の顔じっくりと覗いてる。顕微鏡で微生物見るみたいに。いきなり目を開けたらどうなるんだろ…とか思ったけど目の開け方が分かりません。

 火葬場でもみんな俺の顔を覗いてくる。まぁ、最後のお別れだし。これから焼かれるわけだし。


 …行ってきます!


 ただいま!はぁ、火葬って意外と辛いんだ…。別に熱さは感じないんだけど、でも、皆が俺のために書いてくれた手紙がスゲー速さで燃えてくの。
読む前に燃やされた、仕方がないのでお手紙書いた…お手紙はどうやって書けば良いですか?


 タイムカプセルに入る時が近づくにつれて「もう終わりか…」なんて考える様になって…もうとっくに終わってるんだけどさ。
「タイムカプセルに入るまでが人生です!」みたいな?大事なことだけど2度は言いません。


 タイムカプセルだ!タイムカプセルだ!

 それじゃあ、行ってきます!



 
 …なんて事があったんだけどさ、あそこは「タイムカプセル」なんて名を付けるほど良い場所じゃなかったよ。俺は信じてたよ。あそこにはじいちゃんが居て、父さんが居て、ご先祖様が居て、そして、じいちゃんと父さんと思い出話をして、ご先祖様からじいちゃんと父さんが子供の頃どんなことをしていたのか聞いたりして…。文字通り「タイムカプセル」そのものだと信じていた。でも、真っ暗なだけだった。誰も居やしない。

 じめじめしてて、何か不気味で…墓地の悪いところだけをかき集めた場所みたいな。1人じゃ怖かった。だからさ、母さんを呼んだんだ。母さんなら俺の側に居てくれる気がして。すぐ来てくれるみたい。あと2、3日すればここに入ってくると思う。


 寂しくなった時さ、呼べばすぐ来てくれるよ。我慢する必要なんてない。

「こっちこっち!」

 こんな風に、無邪気な子供の頃の様な感じで。そうすれば、いつだって。我慢する必要なんてない。

 超大事な事なので2度言いました。



 早く母さんに会いたいな…

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