「遠近法の理解 ~半球を用いた透視図法~」9

【9】 遠近法に関する二つの誤解

縮小拡大は直線的であるという考え方に基づいて図8-5を見たとすると、誤解が生じるかも知れない。図8-5のABの変化とEFの変化を比較すると、両者の間で変化の割合が異なるように見える。その事について、二種類のパースがあるとか、誇張されて描かれているなどの誤った解釈が取られるかも知れない。しかしすでに図8-3で示したように、画角は曲線的に変化する。視点に近い場所と遠い場所の間において、変化率が異なる事について、複数の種類のパースがあるというように解釈するのは適切ではない。

画像1(図8-5の再掲)

視点に近い場所においては、少し近付くだけでも急激に大きく写るので、一見すると不自然と思える程に誇張させて描く方が正しいと言える(正しいかどうかは何を正しいかとするかによるが)。しかしそのような絵を見れば、作為的に誇張されて描かれているように思えるので、俗にオーバーパースとか嘘パースなどと呼ばれるのであろう。

また画角は直線的に縮小するという考え方から生じる誤解として、望遠レンズのみが圧縮効果をもたらすという主張がある。図8-5において、CDの縮小に比べて、EFの縮小の割合は小さく、EFはほぼ同じ大きさに写っている。繰り返すが、その点について、複数の種類のパースがあると考えるのは誤りである。またそれを望遠レンズに特有の効果であると解釈するのも誤りである。画角の変化は曲線的なのであり、遠くの物は近くの物に比べて縮小の割合が小さくなる。図8-3で示したように、視点から遠くに位置する49本目と50本目の電柱の画角の大きさにはほぼ差は無い。

拡大縮小の割合については、図8-3のような曲線で理解するのが正確である。しかし曲線は色々と面倒なので、近似として直線を用いるのは合理的である。曲線と直線の両者を比べると、中程度の画角においてはよく一致している。しかし視点から非常に近い場所と非常に遠い場所においては、乖離が顕著になる(図9-1)。そのような二ヶ所の乖離が原因になって、上記のオーバーパースと望遠レンズについての誤解が生じたというように考えられるであろう。

画像2
(図9-1)

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