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明るい人がたくさんいますー南阿蘇③

南阿蘇滞在2日目、といえど最終日です。

1日目では、事前にお知らせされていた『車内チャイム』としての役割で自作音源を聴くことができなかったので、平日の今日こそは!と気合を入れ、10:30の初電に間に合うように宿を出ました。

高森駅の北側の宿から、南下して駅に向かう道中、南阿蘇鉄道様の車庫が見えてきました。
そばに寄っていくと、菜の花が倉庫の周りに隈なく咲き誇っていました。
反対側の線路の先端へ行くにはもう少し時間がかかるけど、こちら側の先端は既に花で埋め尽くされている、そんな光景を少し時間をかけてじっくりと眺めていました。

車庫を後に駅へ進むと、
『ファンッ!』
と紳士的な警笛が聞こえてきました。
この音は…やはりMT-4000形でした!
本線に出るために、立野駅並みのスイッチバックを繰り返して、ホームに進入。

するとそこへ、韓国からいらっしゃった団体のお客様がゾロゾロとフランキー像の前で(ゾロの像ではない)記念撮影をした後、新型車両に乗り込んでゆきました。
私自身社員でも何でもないのですが、お客さんで賑わっている様子を見るて、自然と目頭が熱くなりました。

その時…
列車の外にいる割にはかなり大きな音量で自作音源が鳴っているのが聞こえ、冷や汗…。
車内放送ではこんな音量がデカくなるのかな、やはりミックスの段階で何か問題があったのか…と心配が重なっていきましたが、よく見聞きすると、
車両備え付けのスピーカーから鳴っていたのです。
これはビックニュースでした。
車内だけでなく、車外にも自作音源が響き渡るとは、夢にも思っておりませんでした。

メロディが鳴り終わると、

『本日は、南阿蘇鉄道をご利用くださいまして、ありがとうございます。』

とアナウンスが流れ、社名を名乗る放送の前に流れる自作音源は、いっそう格別に聞こえてきました。惚気話はこの辺で、、、

列車に乗り込み、まもなく発車。
すると高森駅を出てすぐに列車がカーブに差し掛かると、車内チャイムが聞こえてきました。

『♪〜 ご乗車、ありがとうございます。この列車は、立野行きです。』

普段、家のスピーカーや携帯電話から何度も垂れ流してきた音源が、自分の所持物ではない公共のスピーカーから何度も流れてくるのは、やはり新鮮。

今後のメロディ作りの参考にするため、スピーカーの近くで録音したり、スピーカーから遠い場所で録音したり、様々な視点から聞こえ方を調査しているうちに、あっという間に中松駅に到着です。

MT-4000形(左)とMT-3000形(右)

てっきり反対側の列車もMT-4000形だと思っていたら、南鉄イエローことMT-3000形が停車していました!
こちらの車両は少しだけ年季が入っており、車内の至る所に平成初期のような色合いや香りが漂っております。
この車両の車内メロディは、熊本県民謡『おてもやん』の一節。
単旋律で、音色は何と表現すれば良いのか分かりませんが、耳障りの良い、柔らかい音色です。
こうして、新型車両と一緒に走っている期間も、そう長くは無いそうなので、大変貴重な機会になりました。

南鉄イエローで再び中松駅に戻り、高森行きとしてやってきたMT-4000形に再乗車しました。
私は次の日に授業に備え、昼頃に南阿蘇白川水源駅から路線バスで帰る予定だったので、このMT-4000形と触れ合えるのも残り数分間。

すると、昨日から何度かお見かけしていた職員の方から何度か視線を感じ、
(2日連続で営業列車を全往復してる変態だと思われて目をつけられてるのかな…(汗))
と心の中で大焦りしているところ、
大変優しい声色でお声がけ頂きました。
『昨日から何度もご乗車いただきありがとうございます!』
『いえいえ、あ、実は私、車内メロディを制作した柳…』
『あ、知っていますよ☺️』
昨日一度お邪魔しただけのはずが、すでに知られていたことに驚いたと同時に、自慢したみたいで恥ずかしくなりました笑

この方は、南阿蘇鉄道を離れ、今年3年ぶりに出戻られたそうです。
この時は運転の指導をされていましたが、この車両に私しか乗車していなかったため、貴重なお話をたくさんお聞きすることができました。

私がこのお話の中で心に残った言葉が、
『明るい人が、たくさんいます。』。

私はこの抽象的な言葉を聞いたその瞬間、果てしない想像がはたらきました。
本当に心から明るいのだろうか。

しかし、そういうことではないのかもしれません。

南阿蘇を訪れる前まで、私はこの土地に対して『被災地』という意識を強く抱いていました。
自分の想像を絶する被害はもちろん、様々な傷を抱えた方々が色々な立場で存在している場所だと。
これはもちろんその通りだと思います。

しかし実際この土地を訪れて、私も乗務員さんと同じような感想を抱く節々が多々ありました。
何なら、自分が元気付けられてしまうような場面も。

自分が訪れる前に抱いていた想像も、きっと間違えではないと思います。
しかし、非当事者である私がこの土地を訪れて、当事者からのお言葉を聞いた時、ハッとさせられました。
勝手に評価して良いことではないと。
当事者の方々が向かっていく方向を、一生懸命尊重すること、私たちはそれを一番に考えるべきだと。

旅の最後の最後。
『全線開通したら、また来てくださいね!』
『絶対来ます!』

最後に列車を降りると、例の警笛を鳴らし、運転士さんと乗務員さんが車内から満面の笑みで手を振ってくださいました。
私の心を、救っていただきました。
これも一つの恩恵です。

列車は踏切を渡ると、気動車特有のエンジン音を響きせながら、菜の花が咲き誇る高森駅に向かって、元気よく走り去ってゆきました。

今回、南阿蘇で過ごした時間は、人生の宝物になりました。

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