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キンタナさんは言うほど許されないのか?【MLB】

お疲れ様です、イサシキです。

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さて、ここに今季エンゼルスへと移籍し、いろんな意味で日本でも知名度が上がったホセ・キンタナという投手がいます。彼は元々ホワイトソックス、カブスで先発ローテを務め、今シーズン途中からはジャイアンツへと移籍しています。

私個人の意見で恐縮ですが、おそらくカブスファンの方でキンタナのことが好きだという人はほとんどいないと思います。ただ表面上の成績を見てもごくごくありふれたイニングイーターですし、カブスに移籍してからは3年連続で2ケタ勝利を挙げており、そこまで嫌われる理由もないかと思われる方がいるかもしれません。

そこで今回は、カブスファンからキンタナがどうしてここまで嫌われてしまっているのかという理由について考えてみたいと思います。

理由①:さすがに年俸が高すぎた

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画像:キンタナの年俸推移(https://www.spotrac.com/mlb/san-francisco-giants/jose-quintana-10660/)より

キンタナがメジャーデビューを果たしたのは2012年。そこから2年間で58試合、主に先発として登板し、2年目となる2013年にはシーズン200イニングを投げ抜くなど、通算336.1回を投げて15勝、245奪三振を記録。ホワイトソックスもこの活躍を評価すると同時に、このままだと2014年シーズン終了後に年俸調停の期間が1年早まる「スーパー2」を取得する可能性があることを考慮したのか、その年の3月にキンタナと一度単年契約に合意した後、その2週間後に5年総額26.5M+2019年/10.5M・2020年/11.5Mのクラブオプションが付いた大型契約を結びます。

その後もホワイトソックスで先発投手として活躍し、チーム成績がずっと低迷する中で毎年200イニング以上の投球回を投げ抜き、防御率も3点台前半奪三振も160~180個と役割を全う。同時期に在籍していたクリス・セール(現レッドソックス)と共に投手陣を引っ張っていました。また、自身も2016年のオールスターゲームに事務局投票で選出されています。

そんな彼は2017年のTDL前に、先発補強が急務だったカブスへと4対1のブロックバスタートレードで移籍することになります(後述)。もちろんホワイトソックス時代に結んだ契約は継続の状態です。

カブス移籍後も勝ち星こそ稼ぐものの、後に説明する球威不足コマンド能力の低下年々減っていく投球回数、そして2020年に起きた事故などによって、到底年俸に見合う活躍をする投手ではなくなっていきました

加えて、カブスは基本契約の5年目が終了する2018年、2019年のシーズンオフにしっかりとキンタナに対してクラブオプションを行使しました。この頃もカブスは相変わらず先発投手のやりくりに苦労していたので、イニングを稼いでくれるキンタナにオプションを使うのは一応納得できます。

結果的にカブスがキンタナに支払った金額は、3年半で総額約26.7M(約29億円)。単純計算で単年約8億3000万円ほどとなります。

年齢を重ねることによって元あった能力が衰えていくのは仕方のないことだと思いますが、これがキンタナが良く思われていない1つの要素かなあと思います。

理由②:年々悪化する成績とStatcastの指標

理由①でも述べた通り、4年連続で200イニングを達成しているイニングイーター投手とはいえ、キンタナは比較的高い奪三振率と被バレル与四球率の低さが売りの投手でした。

ところがカブスに来てからはその長所が鳴りを潜めてしまいます。まずは下の画像をご覧ください。

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これはキンタナがオールスターに選出された2016年シーズンの投球データです。この年は被バレル率が4.2%(MLB9位)与四球率が6.0%(同20位)(参考:同年のCY賞投手、マックス・シャーザーはそれぞれ6.1%、6.2%)と比較的優秀ということがわかります。(※ランクデータ:Fangraphsより)

続いてカブス移籍2年目の2018年の成績を見てみましょう。

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...まあ、真っ青といって差し支えない投球データかと思います。この年はフォーシーム、カーブ、チェンジアップの平均球速がそれぞれ1マイルずつ低下PitchValueでも2016年度との比較でフォーシームが29.9→6.8カーブが13.2→-0.3と大きく下げていました。この年は13勝を挙げたものの、防御率4.03、FIP4.42(MLB49位/59人)など、成績上では散々。自身の売りであった被バレルも5.9%(MLB31位/57人)、与四球率に至っては9.2%(MLB47位/57人)とそれぞれ悪化してしまいました(翌年には改善)。ただWARはしっかりと稼いでおり、カブスに在籍した3年間半でbWARが4.6fWARも5.0以上と、チームの勝利に対する働きは優秀だったかもしれません。

ただ結局のところ、2018年はまだ各試合でそこまで大崩れする試合はありませんでしたが、翌年の2019年には好不調を繰り返して安定感の無さが露見。またトレードで獲得した2017年のポストシーズンで中継ぎ含めて4試合登板しますが、トータルの防御率は7.20。特にNLCS第5戦目でキンタナが先発し、3回持たずに降板(自責点6)。その試合で対戦相手のドジャースがWS行きをWrigleyで決めたので、余計心象が悪くなっているのかもしれません。

理由③:トレードの見返りという大きな代償

おそらくキンタナがヘイトを向けられている最大の要因ではないかと思いますし、誰が振り返ってみてもカブス史上最悪のトレードの1つとして数えられることは間違いないと思います。

前述の通り、2017年にホワイトソックスからトレードで来たキンタナですが、勿論実績あるキンタナを獲得するためには、プロスペクトを放出しなければなりません。そこでトレードに4選手出されましたが、そのパッケージに含まれていたのが、今やホワイトソックスの主力選手である、エロイ・ヒメネス外野手とディラン・シーズ投手でした。

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ヒメネスは今シーズン怪我こそあったものの、既にホワイトソックスのレギュラーとして実績を持っている

簡単に2選手のカブス時代について説明しますと

エロイ・ヒメネス(24歳):広角に飛ばす技術を兼ね備えた大型外野手の卵。かつてはアマチュアFAプロスペクトランク1位に輝く有望株で、2013年にカブスと契約。2016年のサウスベンド(カブス傘下A級)時代に圧倒的な成績を残してフューチャーズゲームに選出され、そこでもホームランとホームランキャッチを記録するなどの大活躍を見せていた。翌年も2年連続でフューチャーズゲームに選出。(※年齢は2021年9月18日付)

ディラン・シーズ(25歳)最速100マイルを超えるフォーシームスピンの効いたブレーキングボールで三振を奪いまくる若き剛腕投手。2014年MLBドラフト6巡目(全体169位)でカブスが指名し、そのまま契約。その直後にトミージョン手術を受け、2015年より本格的に選手生命がスタート。その年と翌年の2016年はルーキーリーグ(16年はShortA)、2017年からはヒメネスと同じサウスベンドでプレー。当時から防御率も2点台前半でWHIP等も良かったが、120.2イニングで165奪三振というのが大きく目を引いた。(※年齢は2021年9月18日付)

簡単な説明だけで、いかにカブス時代に彼らが将来を期待されていたかということがわかるかと思います。

無論そんな選手たちが無名なわけもなく、2017年開幕前時点でのMLBプロスペクトランキングTOP100に、ヒメネスは14位と高順位にランクイン。シーズも77位にランクイン。2選手ともカブスの中で投打のトッププロスペクトでしたので、その存在は確かにカブスの未来を担ってくれると思っていました。

その2人が、1人の投手のために一緒に放出されてしまったのです。

ただ、カブスのその当時のムーブメントも理解はできます。2017年シーズンと言えば、前年カブスが108年ぶりとなるWS制覇を成し遂げ、今シーズンも当時若手のコアだったブライアント(現ジャイアンツ)やリゾ(現ヤンキース)らの打線+強力投手陣を維持するカブスが大本命状態でしたが、ヘンドリックスをはじめとする相次ぐ投手の怪我に加え、エースのレスター(現カージナルス)や15年CY賞のアリエッタ(現パドレス)の不振が響き、トレード当日までで首位ブルワーズに5.5ゲーム差を付けられた2位に位置していました。この状況であればどんなGMでも「先発ローテを強化したい」と思いたくなるのは当たり前の話です。当時カブスの編成責任者であったセオ・エプスタイン氏も例外ではありませんでした。しかもオフシーズンには「贅沢税」のルールも改正され、キンタナがよりトレード市場で価値のある存在になっていきました。

そんな中でカブスもキンタナには目を付けていました。これは現時点でのローテ補強のみならず若手のコアがあと3年以上残ることや、キンタナがホワイトソックスと結んでいた5年契約のうち、クラブオプションを含めれば最大で3.5シーズン保有することが出来ることなどのメリットがありました。

ただ、そのメリットが存分に活かされることはありませんでした。

キンタナはその後先述したような活躍に留まりましたが、トレードされたヒメネスとシーズはその後大きく飛躍を遂げ、ヒメネスは2019年からホワイトソックスのレギュラー選手として定着して31本塁打、昨シーズンはメジャー2年目にして自身初のタイトルとなったシルバースラッガ―賞を受賞。シーズも2018年にフューチャーズゲームに選出されると、その翌年にメジャーデビュー。コマンド能力にはまだ課題を抱えるものの、同チームに所属するエースピッチャー、ジオリトの才能を開花させたり、ジオリトと同じ高校に通っていたカージナルスのフラハティの恩師でもあるイーサン・カッツ投手コーチの元で練習を積み、今シーズン既に212奪三振(MLB全体5位、ア・リーグ3位)を記録。勝利数12もア・リーグ3位タイ。さらに4月30日のタイガース戦でキャリア初の完封勝利を挙げるなど、間違いなくキャリアハイのシーズンを過ごしています。

結果的に、1人の投手を獲得するために2人のオールスター級のプロスペクトを放出してしまったということになります。

このトレードに関しては、ホワイトソックスGMのリック・ハーン氏が当時エプスタイン氏に対してどのような交渉をしていたのかといった部分も少々書かれていた記事のリンクも載せておきますので、もしよければご覧ください。

理由④:お皿洗いをしてシーズンほぼ全休

といった感じでキンタナの悪い部分が目立ってしまいましたが、実はカブスに移籍してから2シーズン半1回もIL入りすることがなく、非常に耐久面に優れていた投手でした。

ところが昨年の7月23日(現地時間)、開幕延期になっていたMLBがやっと今日開幕するという日に、キンタナが利き手である親指の神経を損傷して10日間のIL入りをするという事態が起こりました。

普通であれば、怪我の部位が投球に影響をもたらす利き手の怪我なので、今後の選手生命を心配する声があがっても良かったかもしれませんが、私はその怪我の理由を既に知っていたので複雑な心境になっていました。

実はキンタナ、その1か月前程にマイアミ州にある自宅で皿洗いをしている最中に親指を切ってしまい、5針を縫う怪我を負っていました。それどころか内視鏡手術で知覚神経への損傷が見つかり、投球練習再開まで最低2週間ということになりましたが、実際のところはいつ復帰できるかわからない状態でした。

結局復帰したのは8月25日。その後も左臀部の炎症で再びILに入るなど怪我に泣かされ、わずか4試合、10イニングの登板に留まる結果となってしまいました。

シーズンが終了すればFAとなる大切なシーズンでしたが、キンタナ自身のキャリアの中でワーストとなるシーズンになってしまいました。

結論

ここまでキンタナさんがどうして嫌われてしまったのかを見ていきました。正直私自身はカブスのファンであることに変わりはありませんが、個人として許す、許されないという決断をズバッとできるものではないなあと執筆しながら考えていたので、3つのポイントで自分の意見を述べておきます。

・MLBではよくあること

コンテンダーがWS制覇を目論む上で、どうしても補強は必要になります。そして、そのトレードによって将来有望な若手の選手を見返りとして差し出すのもMLBでは当たり前のように行われています。

・さすがにトレード相手が悪すぎた

キンタナの場合は、当時のカブスの投打のトッププロスペクト2人を差し出してカブスにやってきたので、その期待の大きさも重圧も大きかったと思います。正直このトレードに関しては、前任のエプスタイン氏が出し過ぎてしまったトレードだとも思っていますし、何もキンタナ1人のせいではないということも同時に思っています。

・とはいえその働きが十分とは言えなかった

確かに一生懸命ローテーションを守って投げて、チームの勝利には貢献したかもしれませんが、大事なポストシーズンで良い投球が出来なかったり、2度のクラブオプション行使にも見合った成績だったかと言われれば、その回答に詰まってしまうところはあります。

本日は以上になります。最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。



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