【CHC】今永昇太の”Philosophy”はカブスを救うのか
お疲れ様です、イサシキです。
日本時間の午前9時ごろ、複数のインサイダーより、NPB:横浜DeNAベイスターズからポスティングシステムでのMLB移籍を目指していた今永昇太投手をカブスが獲得したとの報道が出ました。
翌11日にはフィジカルチェックも問題なくパスし、正式にカブスへの入団が決定しました。
昨年9月には横浜スタジアムにカブス編成総責任者のJed Hoyer氏が直接足を運んで視察するなど、オフシーズン当初からそれなりの関心を寄せていた選手との契約。カブスは2020年まで在籍したダルビッシュ有投手(現パドレス)以来、実に4年ぶりの日本人投手をロースターに加えることとなりました。そして今オフ待望のFA補強第一号選手です。
今回は今永投手の契約内容やNPB時代の活躍を振り返りながら、カブスで求められる役割とMLBで生き抜くためのポイントを探っていこうと思います。
また、今永投手の獲得に関しては今月10日(獲得報道日)にMasatoさん、フェグリーさんとお送りしたカブスラジオでも触れていますので、まだという方はぜひお聴きください!
リスクを軽減できた契約内容
無事フィジカルチェックをパスした今永投手。カブスとの契約が報じられた翌日には、契約の詳細が出てきました。
当初は2年総額$30Mをベースとして、複数のオプションとエスカレーター、インセンティブによって最大4年$80M程度まで膨れ上がる契約ではないかと予想されていましたが、結果的には4年総額$53Mが保証される契約に加え、2年後となる2025年、そして2026年オフにクラブオプションを付け、最大5年$80Mまでエクササイズできる全体像が見えてきています。また、2,3年目終了時のクラブオプションが行使されない場合、今永投手にオプトアウトの権利も付与となっているようで、最短で2年、最長5年というブレ幅のある契約期間が予想されています。
加えて4球団に対するノートレード条項も付与されており、こちらも球団オプションが行使された段階で29球団へのノートレード条項へと拡大することになるようです。また、ロールモデルでも触れたインセンティブやエスカレーターはサイヤング賞や新人王に連動していますが、決してべスティングオプションではないので今永投手にとってはボーナスをもらえるようなものと言っていいでしょう。
オフシーズン当初は4~5年総額$65~85M程度と各媒体で予想され、直近では5球団以上の争奪戦で$100Mを超える可能性も高まっていたことを考えると、非常にリーズナブルな契約で獲得できたのではないでしょうか。
元よりミドルスターターとしてローテーションの3~4番手クラスの評価を受け、WBCでの投球からアップサイドの大きさや高品質のフォーシームなど随所で片鱗を見せていた中でのこの契約には、今永投手にとって未知のリーグで4年間の契約保証を獲得したことに加え、たとえクラブオプションを破棄されたとしてもその時の活躍次第でオプトアウトを選択し、よりよい契約にたどり着ける可能性もあります。
一方のカブス側も、当初想定されていた契約総額を大幅に下回る価格で今のローテーションにはいないタイプの投手を1枚確保したこと、そして今永投手が仮に怪我や不振に陥ってしまったとしても、チーム編成に大打撃を与えるようなペイロールの圧迫を避けられる形になりそうですので、お互いにとって過度なリスクを軽減させた形となったでしょう。
また、この契約におけるポスティングフィーはおよそ$9.825Mと推定され、日本円にして約14億2500万円がベイスターズに入る予想となっています。
30歳という年齢や、2020年に受けた左肩のクリーニング手術の影響もあってのディスカウントかもしれませんが、大きなポテンシャルを秘めた選手を獲得したことに変わりはありません。
安定感抜群のNPB時代
「大学ナンバーワン左腕」の前評判を引っ提げて迎えた2015年のNPBドラフトでベイスターズから単独指名を受けた今永投手。駒澤大学在籍時に痛めた左肩の影響も心配される中、その不安を諸共しない投球をルーキーイヤーの2016年から発揮し、実働8年間で通算防御率は3.18、WHIPが1.12と抜群の安定感を披露し、2022年にはノーヒッターを達成するなど、まさにベイスターズのエースとして相応しい活躍を披露し続けてきました。
また、今季最多奪三振のタイトルを獲得したことに代表されるように、WBCでも最高品質のstuff+を示したフォーシーム、左右の打者に対してスライダーとスプリットで空振りを奪うスタイルで、K%は29.2%と驚愕の数値を誇ります。そして四死球も少なく、BB%は4%と支配的な投球も期待できる内容となっています。
そして毎年130~140イニングを消化するイニングイータぶりも魅力ですが、通算でのHQS率が54.5%を誇る点においても、ただイニングを消化するのみならず、先発登板した試合の半分以上においてゲームを支配する投球ができていた裏付けにもなるでしょう。まさにNPBを代表するスターターサウスポーですね。
今永昇太が本当の"Pitching Philosopher"になるために
①フォーシームのクオリティとデリバリー
前述の通り、今永投手の最大の武器はフォーシームにあると言えるでしょう。
WBCではアメリカ代表との決勝戦でこそ先発起用されたものの、基本的にはショートイニングで高出力だったため、球速もアベレージが93.7MPH、スピンレートも平均2577回転と文句なしに高品質です。
さらにはツインズ下部組織で5年間投手コーチを務めた経歴のあるJared Gaynor氏によると、今永投手のフォーシーム(Fastball)にかかるIVB(縦方向への変化量)は19.8インチをマークしているとのことで、センチメートル換算すると約50cmのホップ成分を含んでいると言える他、そのRel.Height(リリース位置)が5'5"(5フィート5インチ≒165cm)とMLB投手にしては低い位置から出てくることにより、打者視点において大幅なホップをする感覚に襲われる球種となる可能性は高いと思います。球速もMLBでは決して秀でているわけではないことから、おそらくスピードガン以上の体感速度も持っているでしょう。
となると、MLBの舞台でもカギを握るのは唯一無二とも言える浮き上がるフォーシーム。これが最大の効力を発揮するのが「高めへのコマンド」と言われています。
今永投手のフォーシーム軌道やリリースポイントからくる独自性ある球種、そして150km/h前後の球速帯に位置することから、「高めのフォーシームで空振りを奪う」というピッチングスタイルに十分適しているという意見も数多く見られますが、私も同等の意見を持っています。
NPB時代より、右打者に対するフォーシームでのインコース攻めは今永投手がアイデンティティとしている一部でもあったように思いますが、どちらかと言えば高めよりも打者のベルト付近に集中し、そのコマンドがずれてど真ん中付近への失投となったフォーシームを痛打される印象があります。
現在でもMLBでは高めにフォーシームを投じるトレンドは廃れておらず、WBCでTrea Turnerに浴びたホームランも、低めのフォーシーム(Savantではカッター判定)が少し真ん中寄りに入っただけでいとも簡単にスタンドへと運ばれてしまうことを考えれば、このフォーシームのゾーンを上げて勝負すること、そしてなるべくインハイ寄りに投げることによって、後述する被本塁打の抑制になり、パークファクター的にもツーベース以外の長打指標が平均を上回っているカブスの本拠地:リグレーフィールドでもリスクを軽減するピッチングができるでしょう。
②被本塁打と打者に対するウェポン
今永投手と契約合意する前日、Foul TerritoryのYouTubeライブにてEno Sarris氏が今永投手のフォーシームについて言及し、「コンタクトヒッターの多いNPBの打者にも多くの被弾を許したのは、フォーシームを集めるゾーンが低いからではないか」との考察が出ているように、今季の今永投手は計17本の被弾のうち、14本はフォーシームを捉えられたものとなっており、ハイスピンレートを誇る投手の宿命とも言える一発病が懸念点であることは明白です。
実際にWBCで計測した各種投球データも、全てショートイニングのもの。先発での起用となれば常にあの数値を維持できるとは思えないですし、それによる被本塁打増加は対策なしで免れられるものとは思いません。
ということで、勿論フォーシームの配球や質といったところもキーになると思いますが、NPB時代にも猛威を振るったスプリットも大きな武器となるでしょう。
正確には「スプリットチェンジ」と呼ばれる球種で、130km/h前後で打者の膝元に鋭く落ちる性能を持っています。同チームに所属していた東克樹投手から伝授されたチェンジアップの握りから生まれたボールであることも有名ですね。
カブスの試合を放映するMarquee Sports Networkでアナリストを務めるLance Brozdowski氏のYouTubeでも、フォーシームの特質に加え、スプリットやスイーパー(NPB時代はスライダー)にもフォーシームと同様の価値があるボールとして紹介されています。
今季右打者に対してのスプリットでWhiff%は41.9%と非常に高水準で、左打者に対してもスイーパーでWhiff%33.9%と容易にこの2球種がマネーピッチになり替わる想像もできます。
MLBでもフォーシーム、スプリット、そしてスイーパーの3球種をメインに据えて活躍してほしいです!
③Steeleとはまた違うサウスポーに
今永投手のモデルとして、昨季ブレークアウトを果たしたJustin Steeleが挙げられています。
Steeleも質の高いフォーシームと横滑り&縦割れの大きいスライダーを武器としている投手であり、どちらも右打者に対するインコースへのフォーシームに高い価値を持っています。
ただ今永投手がこのSteeleと全くタイプの同じ投手だとは考えていません。それは、「フォーシームの質」に明確な違いがあるからです。
Steeleのフォーシームは上記画像の通り、平均僅か1インチながらも右打者に向かって変化する、いわゆる「真っスラ」系統のフォーシームであり、今永投手とはまた違ったインコースの使い手と言えるでしょう。
そしてスライダーもWhiff%31.1%、K%33.8%をマークする十分なウェポンで、主に左打者のアウトローへと逃げる軌道の球種となっています。
そんなSteeleとの差をつけるとするならば、今永投手の場合はホップ成分の強いフォーシームと左投手にしては珍しいスプリット系の球種があることでしょうか。なので決してグラウンドボーラーの多いカブスの先発陣に染まらないアイデンティティを持っているので、Steele(元を辿ればJohn Lester)のピッチングをMLBで生き抜くためのバイブルにしつつ、大きな飛躍につながる可能性のあるピッチデザインを描けると良いなあと思います。
”Hey Chicago what do you say?"
今永投手の代理人を務めるOctagon Worldwide社はミシガン大通りにオフィスを構えるスポーツ関連企業で、スポーツ選手のエージェントはシカゴ一帯でも巨大なネットワークを保有。かつては福留孝介氏やカブスを108年ぶりのワールドチャンピオンへ導く決勝タイムリーを放ったBen Zobrist氏らとのエージェント契約を結んでいたことのある企業です。そのため、元から今永投手は中地区を希望していた可能性があるのではないかと考えていました。
その中で本人は11月にシカゴ入りして様々な観光やシカゴブラックホークスの試合観戦(NHL)をしたとの報道もあり、クリスマス以降はシカゴに拠点を置いて生活をしていたようで、The Athleticの記者であるPatrick Mooney氏に対して、「カブスからオファーがくれば良いなあ(当時カブスは具体的な興味関心を示していなかった)」と半ば冗談を漏らすほど、カブスが意中の球団であることを自ら意思表示していたようです。他球団(おそらくレッドソックス)から、カブスの倍となる契約のオファーがあったようですが、それを蹴ってカブスに入団した意図も垣間見える一件となっていますね。
そしてカブスコンベンションが開催される前、日本時間の昨日午前5時から記者会見が開かれ、Hoyer氏が一通り話し終えた後の今永投手の一言目は、この通りでした。
カブスの球団歌である”Go Cubs Go”の歌詞を用いた今永投手。これには隣で聞いていたHoyer氏を含めて会見場が笑いと歓喜と拍手に包まれ、ばっちりとファーストインパクトを与えました。今永投手本人のしてやったり顔も、個人的にツボにはまる部分でした。
その後会見は進み・・・
?:カブスへの入団を決めた経緯について
?:鈴木誠也選手との情報交換は
?:WBCの経験はどのような影響を与えてくれたか
?:背番号「18」を選んだ理由は
といった質問に受け答えをしていました。印象深かった回答は、やはり背番号18を選んだ理由についてですかね。てっきり「日本ではエースナンバーだから」とか「和田毅さんがカブス時代に着用した背番号だから」といった理由かと思いましたが、まさかZobrist氏の名前が出てくるとは…。恐れ入りました。
そして記者会見終了後のカブスコンベンションに登場した際にはこの盛り上がりよう。
会場道中までにファンからのサイン攻めにあう姿は、既にカブスの一員となった気分がして嬉しいものですね。
”Intelligent Spending"の一員となれるか
昨年11月に電撃的な人事を行い、同地区ブルワーズの敏腕監督だったCraig Counsell氏を引き抜いてから早2か月。それまで一切のMLB契約がなかったカブスが今永昇太への投資を皮切りに、「プランB」での市場参戦が期待されます。
おそらく以前より頻繁に報道されているCody Bellingerとの再邂逅やRhys Hoskins、Matt Chapman、複数のリリーバーとの接触が過熱するでしょう。
今回の今永投手が結んだ契約でもAAVが$13.25Mと予想されており、おおよそジャイアンツのAlex CobbやレンジャースのJon Grayらに近いAAVであり、何よりMLBでの先輩サウスポーとなる菊池雄星投手(現ブルージェイズ)の契約がロールモデルになっている可能性もあるでしょう。今永投手を加えてもCBT閾値まであと$46Mとなる$191Mのペイロールなので、決して大幅にカブスの補強戦略を狭めたわけではないと言えるでしょう。これでもし同条件のGlasnowを獲得していたら…
個人的には今永投手に、怪我をしなかった世界線の和田毅投手がどのような活躍を魅せていたのか、という部分を少し期待しています。かつてオリオールズからカブスへと移籍し、TJの傷を抱えたままわずか2年間で21試合の登板に留まってしまった和田投手とピッチングスタイルが似ている部分が多く、今永投手も体力面が十分にケアされれば本当にやってくれるのではないかという期待が大きいです。
”Professor”ことKyle Hendricksに、名前に見合わぬパワー全振り野手のPatrick "Wisdom"、そしてNPB時代に浸透したネットミーム「投げる哲学者」ーすなわち”Pitching Philosopher”こと今永昇太の獲得によって、なんだかすごく賢そうな球団になってきたカブス。ドジャースから将来有望なMichael Buschら2選手をトレードで獲得した球団が次に見せる一手は、いったい何でしょうか。
↓Buschらのトレード記事はこちら!(Masatoさん執筆記事)
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