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【CHC】球界に衝撃を巻き起こした電撃人事~Craig Counsellが監督になった日~

いったい誰がこの展開を予想できたのだろうか。

日本時間の11月7日深夜、カブスはブルワーズでの任期を終えて FAとなっていたCraig Counsell氏を、来季より5年総額$40MというMLB監督史上最高額で契約合意したと複数のメディアより発表がありました。

今季のナ・リーグ最優秀監督ファイナリストにノミネートされ、就任9年間でチームを5度のポストシーズン進出に導いた同地区のライバル球団監督を引き抜く衝撃の人事。噂されていたメッツやガーディアンズ、さらには家庭事情によりブルワーズ残留のスリーオプションが既定路線とされていた中でのカブス移籍は多くのMLBファンのみならず、MLB関係者並びに選手やフロントにも多くの激震を与えたことでしょう。そういう拙者も驚きと動揺を隠せない深夜テンションポストを残しています。

これにより今期まで監督を務めていたDavid Ross氏は、2024年まで(2025年はクラブオプション)残っていた契約を破棄される形で電撃解任となりました。
その後カブス側から他の役職でのオファーはなく、108年ぶりの世界一を現役ラストイヤーで成し遂げ、そして大変革を迫られた時期のカブスを指揮した功労者と袂を分つことが決定的だという結末を迎えました。

今回はCounsell氏の監督就任を様々な角度からリサーチし、これがカブスにとって何を意味するものなのかという部分を軸に執筆していこうと思います。


ファーストインプレッション

Counsell氏はMLBでも非常に優秀な監督としての評判が高いことで知られています。先述の通り、2015シーズン途中からブルワーズを率いて9年間で通算1332試合で707勝625敗、勝率.531と大幅に勝ち越して5度のポストシーズン進出に貢献。その人柄やクラブハウスでの働き、さらには球界屈指のプラトーン起用やブルペン運用など采配に関しても徹底したものがあり、スモールマーケットと資金が少ない球団ながらも選手の力を最大限引き出す能力に長けた部分がトレードマークとも言えるでしょう。

そんな優秀な監督を同地区の、しかもライバル球団から引き抜いたカブス編成総責任者のJed Hoyer氏。シーズン終了時の会見ではRossのクラブハウス内での働きや、監督として4年間常に聞く耳をもってトライアルアンドエラーを繰り返して改善されてきていると絶賛したにも関わらず、たとえ功労者とて目の前に優秀な人材が現れればその変化を厭わない姿勢を持つことを鮮明に示しました。
思えば2014年オフにも前任のTheo Epstein氏の右腕GMとして働いていたHoyer氏は、当時レイズで輝かしい功績を築き上げたJoe Maddonを監督職へと引き込んでRick Renteria氏をわずか1年で解任する急速なムーブを目の当たりにしていたので、当時からファンだった方にはどこか既視感を覚える交代劇だったのかもしれません(筆者がカブスファンになったのは2015WCゲームから)。

そしてもう1つ話題になったのが、その年俸でしょう。
カブスがCounsell氏と結んだ5年総額$40Mは、単純計算すると単年あたり$8M。これはブレーブス所属のTravis d'Arnaudら4選手の今季AAVに値する額で、同チーム所属のOzzie AlbiesのAAV$7Mよりも高く、何なら今季のアスレチックスの選手総年俸にも匹敵するレベル。もっと言えば自身が選手時代に稼いだ総額約$22Mのおよそ2倍。もちろんMLB監督史上最高額です。

かねてからCounsell氏はMLBの監督に対する待遇が悪化していることに対して、「監督年俸市場のリセット」「監督待遇の向上」を目指していたと言われています。現役時代にはMLBPAの代表者(現在はメッツのFrancisco Lindorが務めている)も歴任していて選手の待遇改善に目が向いていただけに、ブルワーズで結果を残した9年間の先に訪れた絶好のチャンスで自らの価値を証明した形となる金額です。

その他にも

・ビックマーケットチームでの指揮に憧れを持っていた?
・自宅のあるミルウォーキーからシカゴまで約1時間の移動時間
→4人の子ども(高校生2人と大学生2人)の成長を見守ることができる
・代理人のBarry Meister氏を通じてカブスの今後を魅力的に感じた?
→代理人本人がHoyer氏のプランや提示条件に感銘を受けていたとの報も

といった地理的・家庭的要因も含めてカブス入りを決心したのではないかとも言われています。

カブスにしては久々に見せた「本当の金満」とも言えるムーブ。しかしどれだけ監督に年俸を払おうともCBTには関係がないので、カブスオーナーであるTom Ricketts氏の本領が発揮された一幕とも見て取れるでしょう。

Counsell就任までの経緯とその理由

詳しい内容は上記リンクより(有料記事ですが…)ということになりますが、元々スモールマーケットチームであるブルワーズを巧みに運用して安定した成績を残し続けてきたCounsell氏に対してHoyer氏は興味を示しており、それはここ数日間で思い浮かんだことではなかったそうです。
それにMaddon氏の招聘もスモールマーケット球団であるレイズからの引き抜きだったので、Counsell氏にもその幻影を重ねている側面はあるのではないでしょうか。

とはいえCounsell氏の契約が切れる今オフは各球団から引っ張りだこになること間違いなし。まだ監督職に困っているわけでもなく、そもそも家族のことを考えればCounsell氏はミルウォーキーに留まるとHoyer氏は考えていたようで、本格的にFA解禁となる11月1日(現地時間)には既にある程度去就が決まっているものだと思い、積極的にアプローチすることはないものだと思っていたような話も掲載されています。

その他にもシカゴ極秘会談Hoyer氏の綿密なる情報統制Counsell氏の就任を伝えるべく向かったフロリダのRoss氏邸への訪問など、一通りのことが書かれていますので、気になる方はお読みになってください。

私から1つ言えることがあるとするならば

Hoyer氏は11月1日にCounsell氏と面談する前から、カブスの監督にCounsell氏を迎え入れる決心をつけた状態で臨んでいた

ということでしょうか。

また、Counsell氏の監督就任を決定づけた裏側に、9月開始時点で90%以上のポストシーズン進出確率を誇っていた状態からの転落劇を引き起こしてしまったRoss氏の選手起用法がHoyer氏の琴線に触れてしまったのではないかとも言われています。

決してRoss氏との関係も悪くない状態でむしろ良好ともいえる評価をメディアに発信し続けてきたHoyer氏ですが、実はシーズン終了後の記者会見で

The nature of it is to question the moves(以下略)

(1) Jed Hoyer's End-of-Season Press Conference - YouTube

と語ったシーンがあり、フロントの動きも改善する部分がある一方でRoss氏の采配面に対して少なからずとも疑問を呈する場面があったという部分が言語化されていると言っても良いでしょう。

Hoyer氏も「自分の仕事は短期的にも長期的にもチームを1つでも多く勝たせることが仕事」と語っているように、明らかな感情度外視に見えるTransactionを決めてもそれがチームの勝利につながるなら変化を恐れない冷酷な面を持っていることが鮮明になり、拙者はある種の「やり手」だなあと感じましたが、そればかりではありません。
Theoからその職を受け継いですぐに訪れたCovid-19による緊縮財政の影響で2020年オフにダルビッシュ有をトレードしたりKyle Schwarberのノンテンダーを遂行したり…さらにチーム成績の悪化に伴って世界一を知るKris Bryant、Anthony Rizzo、Javier Baezらをトレードしたり…。あの頃のカブスにはもう夢も希望も何もないただの荒野が広がっているものだと思っていましたが、そこからわずか2年で162試合目までポストシーズンを争えるチームを築いたその手腕を少し信じたくなってきたのも事実です。

「王政復古の大号令」ではない

日本史において1868年は大政奉還が行われた歴史的西暦。1月3日には京都御所の御学問所にて明治天皇より発せられた「王政復古の大号令」により、262年続いた江戸幕府は廃止されて天皇を中心とする明治政府樹立宣言がなされたとされています。いわゆる「明治維新」の始まりです。

方や長期政権とは言えない4年間ではあったものの、選手に慕われてその関係性を高く評価されていたRoss氏がいなくなるカブスにとって、この監督交代劇は決して劇薬でもなければ、「維新の始まりでもない」と思います。

何が言いたいのかというと、カブスにとってCounsell氏の招聘が今オフの破壊的な補強劇につながるとは思えない、そしてこれが来季からDynastyを築く合図にはならないということです。

確かに”Intelligent Spending”と言い続けてきた2年間よりは、チームとしてのコア選手(Dansby Swanson/Nico Hoerner/Ian Happ/鈴木誠也)が骨格を作り上げ、選手層も厚みを増している状態。金銭的にもプロスペクトによる下からの突き上げも期待できる「好ましい状況」とも言えるでしょう。

とはいえその状況は盤石と言えるわけでもありません。既に今季バウンスバックを果たしてFA(QO提示済)となっているCody Bellingerとのエクステンションには大型契約を迫られる可能性が高く、プレイヤーオプション($21M)行使の可能性が高いだろうと目されていたMarcus Stromanも予想に反してオプション破棄を選択する決断に至っています。おそらく複数年契約を求めて市場に飛び立つことになるでしょうから、カブスに戻ってくることはほぼ0%とみて良さそうです。
また、既にHoyer氏とメディアが自他ともに認めているように、左右のハイレバレッジリリーバーの補強が急務。尚且つ今までカブスの投手育成プログラムを構築して多くの投手陣をMLBへと送り込んできた戦略手動担当ディレクターのCraig Breslow氏編成部門最高責任者としてレッドソックスへ出戻る人事もあり、後任が決まっていないことや彼ほどの優秀な人物が雇用されるとは考えにくいのでこれ以上マイナーからの突き上げが期待しにくくなっている状態でもあります。Hoyer氏の思考上、今オフFAのトップターゲットであるJosh Haderのように毎年タフに登板数を重ねて結果を残すリリーバーに対しての投資を嫌がる傾向があり、既に所属球団とエクステンションを結んだリリーバーのAAVが高騰している状況もあるため、おそらくトレードでの補強も視野に入ってくるでしょう。

という形で、とてもではありませんが来季ポストシーズンに確実に進める陣容とは言えませんHoyer氏自身も今オフが契約額のレコードを記録するほど大きなものになるわけではないということを強調していますが、現在のカブスの立ち位置を維持(向上)するためならできることはやるとも明言しているため、オフシーズンの動きには注目が必要です。

Ross氏にも当然の如く衝撃が走る

今回の人事は当然Ross氏にとっても寝耳に水。先述の通りクラブオプションを含めれば2025年まで任期を残していた中での解任に、心中穏やかではない様子が浮き彫りになっています。

個人的にもRoss氏への感情は特別なものがあります。彼がカブス入りしたのは2015年から。レッドソックス時代にバッテリー間の相性が良かったJon Lester氏の半ば専属捕手のような形で起用され、その後2年間にわたりカブスをフィールド内外から支えてくれました。

特に2016年は67試合出場ながらも2007年以来となる2桁本塁打をマーク。ワールドシリーズ7戦目で放った本塁打も、今季限りで引退する花道を飾った一発としてカブスファンの脳裏に刻み込まれています。

2020年にカブスの監督に就任してからの4年間は546試合の指揮で262勝284敗。勝率で言えば.480と決して優秀な数値ではありませんでしたが、2020~2021年にかけて行われた大規模なチーム解体を鑑みればよくこれだけの成績を残したなあという印象です。

現役時代から高く評価されていたメークアップと選手をまとめ上げる力、そして誰からも尊敬される人柄…"Rossy"の愛称で親しまれた彼がまたこの地に戻ってくるのは近い話ではないでしょうし、おそらくこのまま戻ってこない可能性だってあるでしょう。

Ross氏がシカゴをこのまま去ってしまうのは寂しいの一言に尽きますが、これもチームが再び栄冠に輝くためーそう思えば喜んでこの事実を受け入れようと思います。

Counsell氏の監督就任会見は現地時間11月14日の午前10:30に予定されています。どのような発言が飛び出し、どのような考えを持っているのかについて注目が集まります。またこの監督就任劇でカブスのオフシーズンがどのようなものになるのか目が離せなくなりました.

まだまだ話し足りないことはいっぱいありますが、今は球界屈指の名将がシカゴにやってきたことを祝しましょう

Welcome to Windy City,
"
Chicken"!!!



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