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みんなでお茶を:1日目


100パック入りのティーパックを買った。これを使い切る頃にはいろいろなことが変わっていることを信じて、もう一度、日記を書くことにした。

せっかくなので、わたしの主宰していた劇団・少女都市のマガジンとして、連載と言う形で出すことに決めた。

マガジンタイトルは『また劇場で会いましょう』意味は言わずもがな。また劇場で皆さんと会える≪未来≫を夢想して、名付けた。

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2月の末から3月の中旬にかけて、わたしは毎日、日記を更新していた。当時はコロナが中国国外へと流行し始めた頃で、「これはたいへんな事になったぞ」とわたしは日記をつけることにした。

「きっとこれから大変なことが立て続けに起きるだろう。苦しい思いをする人もたくさんあらわれるだろう。そんな人たちの心の支えになるように、≪未来≫を語るような小さな文章を書こう。」

こういった決意は、どこかで≪コロナ禍≫というものを舐めていたことのあらわれだな、と今になっては思う。わたし自身が苦しい思いをして未来を信じられなくなるとは、当時の自分はほんの少ししか想像していなかった。

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わたしが日記を書けなくなったのは、弟がインフルエンザの検査拒否をされたことがきっかけだった。3月11日のことである。遠くで働いている弟が救急車に乗った。高熱が数日続いているのに、病院から「来ないでくれ」と言われたため、診断を受けられなかった。薬ももらえなかった。ついに心配した寮母さんが救急車を呼んだのだ。
結果から言うと弟は陰性で、大事には至らなかったのだが、その出来事がわたしを変えた。悪い方向へ変えた。つまり、≪この国で生きる気力≫をすっかり衰えさせてしまった。

これまではなんだかんだあってもわたしは日本で生きていくのだと思っていた。だから理不尽に見舞われても立ち上がってきたし、既存の価値観や競争の中で勝つために努力していた。

その努力の1つに、政治的な意志を持って発言をすることがあった。これを意外に思う人もいるかもしれない。だけどわたしにとっては大人としての当たり前の振る舞いだった。歴史を学び、権力を監視すること。逆説的だが、既存の価値観が変わらずにあり続けるために、為政者の手にわたしたちの生活が渡らないように、常に目を見開き続けること、口を挟み続けること。これが、わたしが母から受けた教育だった。

しかしそれは日本で生きていくことを前提にした振る舞いだった。この国で生きていくことを前提にしているから、より日本をよくしていくために、せめて悪くならないように維持していく。そのために、上記のような行動が必要なのだ。しかし日本という国が沈みゆく船だったら?一介のネズミにできることは、今すぐそこから逃げ出すことだ。泥船の中の待遇改善なんてやってる場合じゃない。

姉のわたしより何倍もまじめに働いて、納税してる弟が、インフルエンザの検査を何日も受けられなかったこと。それが病院からの拒否だったこと。そして国すらもそれを推奨していること。その事実がわたしをぐらぐらにさせた。既存の価値観では、もはや現実は機能していないのだ。

「それってすでに医療崩壊してるじゃん?」と友人に指摘され、おそろしくなったのが3月11日。それから1か月で、医療現場はもっと切羽詰まった様子に変わったのは、皆さんご存知だと思います。

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今日は恐ろしい動画が朝から流れてきた。あれを見てから、わたしの頭は上手く動かなくなった。言葉がきちんと紡げない。いや、ちがう。紡げないのは言葉ではなく、論理的な文章だ。言葉は出てくる。「ありえない」とか「つらい」とか「悲しい」とか。だけど、文章にならない。あの動画を見て感じたことをテーマに、伝えたい意志を明確に持って、文章を書く。そういった≪コロナ禍≫以前にはできたことが、今はできない。だからツイッターのタイムラインがリツイートばかりになる。誰かの言葉を借りて、自分の意見を言った気になる。それでも言わないよりはマシだろうと信じて。

2000字に満たない文章の中で、ありきたりな未来や希望を語って閉めるのは、もはや必要が無いと思うので、わたしはやらない。ただ、どうやったってもこの国から出ることができなくなった今、一介のネズミであるわたしがせめてやれることをやろうと思うのだ。

つまり、歴史を学び、権力を監視すること。既存の価値観が変わらずにあり続けるために、為政者の手にわたしたちの生活が渡らないように、常に目を見開き続けること。それがもはや機能しない幻想のものとなってしまっているなら、なんとかもとに戻すこと。そのために口を挟み続けること。

思いのほかきちんとした文章が書けたところで終わる。このNoteはとにかく続けることだけが目標だから、何ともないような文章の日もあるかもしれない。それでも続けていきたい。

それではおやすみなさい。明日も君が君らしくいれますように。

劇団・少女都市 主宰
劇作家 Mary Yoshi (葭本未織)


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