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レコード棚を総浚い #36:『Bob Dylan / THE BAND // BEFORE THE FLOOD(偉大なる復活)』

1974年1月にリリースされたザ・バンドとのリユニオン・アルバム『プラネット・ウェイヴズ』と同時に行われた全米ツアーのライヴ盤。

ディランの名曲たちを惜しげもなく数珠繋ぎで演奏するこのレコードは、ザ・バンドの素晴らしい演奏に包まれて『プラネット・ウェイヴズ』よりいっそう、ディランの難解な楽曲をメロディ・オリエンテッドなものにしている。

<SIDE ONE>から炸裂する『悲しきベイブ』は、もはや別曲。演奏が終わった後の観衆の熱狂的な拍手の気持ちが、その場にいなくても理解できる名演だ。代表曲と取り沙汰されることが多い『レイ・レディ・レイ』の真価を、僕はこのアルバムで知った。

<SIDE TWO>はザ・バンドのターンだ。『カフーツ』以降の新しいサウンドを纏った名曲の再演という趣。『ロック・オブ・エイジス』とは一味違うサウンドを披露して、やはりザ・バンドのこの変化の時代は「進化」であったのだと認識を新たにさせてくれる。

<SIDE THREE>は、アコースティック・サイドだが、あくまでも表現は激しい。ロックなディランが初期の傑作をまったく異なる表情を歌い紡ぐこのサイドは、ディランという表現者の底知れない奥深さに痺れざるを得ない。
後半はザ・バンドが戻ってきて、名曲『ザ・ウェイト』でこの面を閉じる。

<SIDE FOUR>は、数多くのカバーが存在する『見張塔からずっと』で幕を開ける。ロビー・ロバートソンのギターソロは、ちょっと弾いてみようかなどと思わせないほど独特のタイム感で、疾走感あふれるこの曲のスピードをさらに上げる。
そしてこの『ライク・ア・ローリングストーン』の別物感はどうだ。8年ぶりのライブとは思えない魂の歌唱。どこまでも吹き上がっていくザ・バンドのリズム。
そしていよいよアルバムのラストは『風に吹かれて』で締めくくられる。
ザ・バンドの剥き出しのコーラスワークに包まれた『風に吹かれて』を、面前で体験したオーディエンスのなんと幸せなことか。彼らは一生この瞬間を忘れないだろう。


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