over fear

すべてを捨てて選んできたと思っていた『たったひとつ』が手のひらからするりと落ちた。

2009.08.24 朝起きたら、目が見えない。
右目、網膜剥離。左目は白内障でもとから見えていない(既に手術日は決まっていた)。網膜剥離の治療の後、予定通りに白内障の手術をし、右目の先天性のなにかよくわかんないそれは確たる治療法がないので爆弾として右目に埋まったまま、わたしは無事に職場復帰した。ラッキーな事に写真だけで食えてはいなかったので、写真とは関係のないその職場で、割とのびのび働いてもいたし、とりあえず生活はできた。

色々な意味で、余暇を楽しむ余裕はなかった。さすがに恐くて酒も煙草も止めた。光が恐い。テレビも映画もパソコンや携帯の画面も部屋の明かりも何もかもが恐くなった。右目が逝ってしまったのでファインダーを覗けなくなった。利き手と同じで、右がだめなら左って簡単にはいかないのだ。外に出ればカメラを持った人がやたら視界に入る。荒れに荒れた。

目を使わない娯楽は、音楽くらいしかない。とは言え、家にあるのはライブハウス手売りの「もう二度と聴きに行けない」バンドの音源ばかり。何を聴いても涙しか出ない。外に出れば(禁煙の苛々もあいまって)目に入るすべてに殺意を抱きそうになり、家に帰ると何もできずに泣くばかり。駄目だ、狂ってる。

考えた末わたしが出掛けた先は、ライブハウスだった。とはいえ、恐くてホールには入れない。受付でチケット代を払い、ホールに入る扉の前にそれなりの空間がある、そういうライブハウスに出掛けては、その防音扉の手前で必死に音を聴いていた。写真を撮れなくなって、生きるために切実に音楽を必要としていたその1年弱が、人生で一番「生き急いでいた」気がする。

そうやっているうちに、わたしはとうとうライブハウスが嫌いになった。

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