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秋の和歌3

松虫の声をとひゆく秋の野に露たづねける月の影かな(藤原定家)

松虫の声を追って秋の野に出たら露を訪ねて月がきていたよ。

対句になっててリズムがよいせいか、そんなに湿っぽくない、秋だけどからりとした情緒と開放感のある歌。松虫から始まって秋の野、露、月と秋の美しい情景が完成する。


跡もなき庭の浅茅にむすぼほれ露の底なる松虫のこゑ(式子内親王)

それにひきかえ同じ松虫でもこの歌ときたら。
跡もなき庭ということで人はいない。人の気配もなく荒れ放題生い茂り絡み合った草と露の中に潜む松虫の声だけしている。
鬱屈して閉塞感のある暗い情景。
「露の底なる」いい表現ですね。
この露は涙でしょう。式子内親王らしい暗い情念と孤独を感じます。先程の歌と違いこの松虫を訪う者はいない。

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