見出し画像

【3S改善事例①】赤字から黒字転換(2773文字)

 ここでは徹底的な3S活動を決断して黒字転換した工場の改善事例を紹介いたします。

1.これぞまさに「The 昭和の工場」

 200X年4月、私は商品の競争力はあるのに慢性赤字と言う工場の改善に送り込まれた。そこで見たのは・・・ モノに溢れた倉庫のような生産現場・・・。

  • 壁一面の棚に詰め込まれた大量の治具や資材など

  • パレットに積みあげられた組立用部材

  • 床に直置きされている工具類や部材

  • 通路と作業エリアが明確に区別されていない。

 また、組立時に初めて部材欠品が分かるので現場では部品がないという声が常に響いた。言うまでもなくこういう生産現場の場合、モノ探しやモノや人の移動が多いため正味の稼働率は極めて低い。
 しかし、工場の管理者は「黒字化するには人件費下げるぐらいしか・・・」という認識。

2.赤札作戦の全面実施

 まずは徹底的に3Sと考えて「赤札作戦」(整理するために使わないモノに赤札を貼って現場から撤去する活動)を工場長に提案し承認を得る。そして現場の職長の隣に私の席を設置。
 職長の第一声「ほんまにやんのか?それなりにやったらええか?」。私は「本気で徹底的にやりましょう!」と言いましたがしばらくは様子見されていた。

  1. 実行計画の確定
    3か月で工場改革を実行する
    •4月決起集会と具体的な実施説明会。全員でA職場の赤札貼り
    •5月B職場の赤札貼り、A職場の赤札品の識別撤去、廃棄
    •6月赤札品の識別撤去、廃棄

  2. 実施前の準備
    •赤札作戦のポスターを作って工場中に掲示
    •撤去した赤札品(使わないモノ)を仮置きする場所を確保
    •赤札のラベルを手配

  3. 工場全員で決起集会
    生産停止して決起集会。工場長の意気込みと赤札作戦の説明を工場全員にして意識合わせ。これを現場だけですると失敗します。工場長以下全員がポイント

  4. 工場長以下、事務所、生産現場全員で「赤札作戦」を実施
     全員に赤いラベルを配り一か月以上使わないものに赤札を貼る。こうなるとどうやら今回は本気らしいと全員が思い始める。
     職長「なんでこんな壊れた治具がここにあるんや?」
     調達「この部品この前手配したけどここにちゃんとあるやん!」
     工程「この大量の接着剤、BOM間違っているやろ」
     班長「なに、こんなガラクタ大事に置いてるんや」
     生産課長「何十万もする部品がなんでここにこんなにあるんや」
     作業者「この余ってる副資材、うちで今欠品しているのやん!」
     工務課長「不要な支給品そのまんまやないか。在庫に戻さなあかん」
     生産技術「この治具古いし使ったらあかんやつ」
     工場長「あー、これで利益出るわけないわな」
    など想定外の盛り上がり。私はモノが分からないので見ているだけ

  5. 工場長以下の主要な人で連日休日出勤して赤札品を識別
     大量の赤札品を一つ一つ廃棄品、別保管品に仕分け。あちこちで勿体ないというつぶやきが聞かれる。そして職長が俄然やる気になり現場の抵抗を押し切って平日も赤札品の撤去を指揮しはじめてくれた。ここまで来ると私は見ているだけ。

  6. ひたすら廃棄
     5~6月は連日のように産廃業者のトラックが何台も入ってモノを運んでいくので近所の住民から「工場閉鎖するんですか?」と聞かれたそう。そして、皆さまご想像の通り大量の簿外品。これを苦渋の思いで廃棄する事で工場全体がこんなに勿体ない事をしていて今まで黒字になるわけがないと実感。← 工場長から末端まで同じ思いを持つここ重要

  7. 残ったものを棚に整頓して必要があれば使用
     そして一年後に残っているものを全て廃棄

3.生産現場の再レイアウト

  1. 生産現場のレイアウト変更・棚の撤去
     以下を行うことで倉庫のような生産現場はすっきり見通せる普通の生産現場となった。この時の私はコンセプトだけ示して後は全て工場の皆さんが知恵を出して取り組まれた。

    • 各作業エリアを間締めして次に必要な新製品の生産エリアを確保

    • 通路と各職場の作業場を明確にしてライン引きして区別

    • 壁面の棚を全撤去し、棚の高さを高さ1.6m以下に制限

    • 治工具、部材など全てのモノについて床に直置きを禁止

    • 工具の置き場所を明確にして必ずそこに戻す(個人工具箱廃止)

    • 各エリアの番地付け

    • 最後に通路は作業エリアと別の色で再塗装してきれいな生産現場に

  2. 現場の見える化
     それまで生産現場が何をしているか、どこに問題があるかがよくわからなかった。そのため、完成したモノを次工程に押し込むプッシュ方式から後工程が必要な時に引き取るプル方式にした。
     また、各作業エリアに工程管理版を設置し今日の業務と今後の生産予定を明示し、毎朝、生産管理の担当者を交えて進捗確認をすることとした。ここも私はちょこちょこっとヒントを出すだけで後は現場は事務所の担当者が創意工夫して自分たちで生産現場と見える化を進めていかれた。

4.念願の黒字化

 翌年3月、工場は黒字化した。なぜ長年赤字だったのにわずか一年で黒字化したのか、狐につままれたようであった。ただ、工場のメンバーがこの一年それまで以上に汗を流したのは事実である。
 黒字化の要因と考えられるものはいくつかある。

  • 現場の生産効率が大幅に改善
    モノ探し、運搬、移動の無駄が大幅に減ったことによる。ただ、原価構成の中ではごく一部に過ぎない。データを取っておけばよかった・・・。

  • BOM修正に伴う過手配、過出庫、過出庫撲滅による無駄な材料費削減
    これは現場に簿外品が発生しないための恒久的な再発防止にもなった。

  • 赤札品活用による材料費削減。治工具の再利用
    副資材主体とは言え実はこの効果が大きかった。また、あるのを知らずに手配していた治工具の発注を止めることができた。

5.赤札大作戦による成果(まとめ)

 多額の費用をかけてコンサルタントを入れても失敗に終わるケースは多い。なぜか、それは当該部署がトップから現場まで価値観を共有して行動を起こしていないからだと思われる。しかし、方向性を定めた上で上記の逆をして全面的に立ち上がれば生産改革は必ず成功する。
 この活動の成果は大きく二つある。
 一つは、モノが無くなったため、職場が倉庫に見える元凶であった背の高い棚を一掃、間締めした職場レイアウト変更、各エリアの番地付けと白線引きによる作業領域と置き場の明確化などがされ、倉庫から生産工場へと変革を遂げ、目で見る管理が可能になったことである。生産現場が整わずに利益が出ることはない。
 二つ目は、工場長から事務所、職場まで全員が涙を飲んで大量の不要品を廃棄したことで、今まで自分たちが気付かずに生んできたムダを肌身をもって痛感したことである。このムダを生んではいけないという強烈な体験が半年後の黒字化につながった。
 そして沈滞したムードの赤字工場が生まれ変われた成功理由は、トップと現場の全員参加で「まず、やってみる」と一人一人が汗を流して一つ一つの実行したきたことであろう。

ー 完 ー

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?