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工業の発展①日本初の近代製鉄所はド田舎に作られる・・・

2018年に閉園したスペースワールド…。行ったことありましたか?私は、4年間福岡県で生活したにもかかわらず一度も行けぬまま、閉園してしまいました。無念です。当時は、やたらポジティブなCMで話題になりましたね(笑)

このスペースワールド、どこにあったかご存知ですよね?北九州市八幡です。八幡といえば…?八幡製鉄所ですね〜。修学旅行で行ったことがある人もいると思います。かつての工場跡地にできたのがスペースワールドです。今現在、主に稼働している工場があるのは、もう少し北の方ですけどね。

この八幡製鉄所ができたのは1901年のこと。「富国強兵」を目指した当時の日本が初めてつくった大規模製鉄所ですが、当時の北九州市は「大都市」というほどではありません…。むしろ田舎と言っても過言ではありません…(失礼)

なぜ、そんな所に日本最初の大規模製鉄所をつくったのでしょうか?

◆ウェーバーの工業立地論◆

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工業の立地について考える時に、必ず理解しなければならないのがアルフレッド・ウェーバーが提唱した「工業立地論」です!これ、必須です!

個人的には、本格的に地理にのめり込むことになってしまったのがこの理論であります。懐かしい…。考えてみれば当たり前のことですが、この理論を通して様々な立地を見てみると、人間の経済活動が”理に適っている”ということを実感できます。それが面白い…!

(やはりNHK講座。めちゃめちゃ分かりやすい。)

工場は、生産にかかる費用がなるべく節約できる場所に立地しようとします。「生産にかかる費用」とはいろいろありますが、ウェーバーが着目したのは「輸送費」です。「輸送費」を最小にできる所に立地する!とまとめました。(まあ、現在ではそれ以外も考慮しなければなりませんが…)

139-04 ビール工場の立地

(出典:帝国書院)例えば、この図は主な「ビール工場」が、日本のどこにあるかを示しています。これを見て、「〜〜〜な所に立地している!」と述べることができるようになってほしい。

この場合でいうと、ビール工場の多くが「消費地(=人口が多い都市圏)」に立地しています。東京、大阪、名古屋、福岡、北海道などです。なぜならば、ビールの原料として「水」が使われるからですね!

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「水」は、基本的には産地が限定されずどこでも手に入ります。(普遍原料と言います)そして、ビールは沢山の人に飲んでもらえるように「大都市(市場と言います)」へ運びます。水はどこでも手に入るので、どうせ運ぶのならば近くでビールにしてしまうと輸送費が節約できますよね!このような立地傾向を「市場指向型」と呼びます。

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(出典:帝国書院)では、この「製鉄所」の立地を見て、どのような所に立地する傾向にあるのか説明できますか?しっかりと北九州市八幡にも印がついています。製鉄に必要な原料は、主に「石炭」「鉄鉱石」です。

138-02 銑鉄1tの生産に必要な原料重量の変化

(出典:帝国書院)図の通り、八幡製鉄所ができた当時は、合計およそ6トンもの原料を使ってようやく1トンの銑鉄をつくっていました(重量減損原料と言います)。加工してしまえば、総重量はたったの6分の1です。こうなると、石炭と鉄鉱石の産地に近い所でさっさと加工してから運んだ方が、圧倒的に輸送費を節約できます。このような立地傾向を「原料指向型」と呼びます。

さて、八幡製鉄所のお話。その当時、原料となる石炭と鉄鉱石をどこから仕入れていたかというと…石炭は主に福岡県の筑豊炭田、鉄鉱石は中国です(日清戦争の直後ですよね)。つまり、さっさと加工してしまう場所として、北九州というのは当時の最適地だったわけですね。そうやって、「北九州市八幡」という土地が選ばれたのでした〜

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ちなみに、戦後は事情が変わります。国内産の石炭を使わなくなります。手間がかかって高コストな上に、外国からの安価な輸入炭が使用されるようになったからです。そのようにして多くの炭鉱は閉山しました。(写真は、その例に漏れず閉山した端島 通称、軍艦島 ですね)

そうなると、より輸入に便利な海沿いに製鉄所は集まるようになると同時に、八幡製鉄所の「原料指向型」の立地は魅力が半減しました。国内の石炭を使わないからね…。

そうやって出来てしまった工場の空き地に登場したのが、スペースワールドなワケです。それすらも閉園してしまうとは…。時代は移ろいますなあ。

◆まとめ◆

ウェーバーの工業立地論をもとに、なぜ八幡の地が選ばれたのかを確認しました。大事なことは「輸送費」を最小にする、ということでしたね。そして、輸送費に関わるものとして、どのような原料なのか(普遍原料or重量減損原料)を見極めることがポイントです!

ちなみに、「生産にかかる費用」は「輸送費」の他にも「労働費」などもあります。それらも考慮すると、大きく以下の立地傾向に分類されます。

138-03 立地による工業の分類

(出典:帝国書院)マストでご理解ください🙇‍♂️

どのような立地をしているのかは、地域や時代ごとに異なります。しかし、ウェーバーの工業立地論を理解できれば、地域や時代で異なっても「考える」ことでそれぞれの立地を理解することができます。(現代においては例外はありますが、それでもほとんど説明できます)

これが地理の醍醐味です。「地理的思考力」を鍛えましょう。

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