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女の業 怪~ayakashi~『化猫』

1.女というものについての予備知識


 さて、この作品を味わうにあたって、女というものについての予備知識が必要である。

 まずは予備知識を書いておこう。
 ただの私見ではあるが、女性であれば多少なりともうなずいてもらえるところがあるのではないかと思う。

 私は今年40歳になるが、私の若い頃の大阪(しかも治安が悪い方)という地はこんな感じだったということで、受け取っていただきたい。もっとひどい地域や家庭の人もいれば、全然ましの地域や家庭の人もいるだろう。

 さて。

 女というものに生まれると、人間という種の「弱い方」にいきなりぶちこまれる。
 そんな恐ろしいことに、女に生まれるとしばらくして気づく。
 たしかに可愛がってくれる人は可愛がってくれるのだが、それはこちらが弱いからだ。

 子供であれば男性も可愛がられる。しかし男性はいつか可愛がられることから外される。「弱い方」から脱却できるのだ。
 しかし女性は一生弱い方なのだ。
 そもそも腕っぷしが弱い。腕力で男性に勝てない。
 腕力で弱くても戦闘技術を徹底的にたたき込めば技術で勝てるのだが、なぜか「女性は強くならなくていい」といわれ、「男性が守るものなのだから」ととにかく強くなることから徹底的に遠ざけられる。

 なんとなく「弱くても守ってくれるのか」と思って育つとひどい目に遭う。
 とにかく性犯罪に大量に遭うのだ。
 しかも性犯罪に遭ったことを、警察に訴えろとは言われない。
 ちなみに男性は守ってくれたり守ってくれなかったりする。バクチのような確率である。
 そういえば自衛自衛と聞くが、なぜか「自衛のために全女性、戦闘技術を学ぼう!」とはなっていない。
 なぜか。なぜなのか。なってない。なぜだ。
 戦えなければ自衛なんてできないにも関わらずだ。解せぬ。

2.怪~ayakashi~『化猫』のあらすじ

 さて、前置きが長くなったが、『化猫』のあらすじだ。ネタバレもする。そもそも私は一回しか見てない。セリフもうろ覚えだ。なんとなく把握したもの、ということをお断りしておく。

 とある借金に困った没落寸前のようなお屋敷から、その家の若い娘が嫁入りをする。借金を肩代わりしてくれる男性のところに嫁ぐのだ。

 そこにふとやってくる薬売り。
 そして花嫁が唐突に死ぬ。
 娘が死んだことで半狂乱になる母親。他にも娘の祖父のご隠居、父親、おじさん、家来の侍たち、下働きのおばさまと若い娘さん、下働きのおじいさんたちが集まる。
 花嫁はどうやら何ものかに傷つけられて死んだ。
 さらに下働きのおじいさんが血まみれになって死んだことで皆恐怖する。

 さて皆で集うところに、花嫁やおじいさんを殺した化猫の魔の手が伸びてくる。
 薬売りは結界を張るが、結界も長くは持たない。

 薬売りは怪異を斬れる退魔の剣を持っている。
 そして、怪異のかたち・まこと・ことわりを知らないと退魔の剣は抜けない。

 薬売りは怪異が発生した理由を一同に訊く。
 すると祖父のご隠居が「数十年も昔、嫁入り途中の若い娘を攫ってきた。抵抗したら帰してやるつもりだったが進んで身を任せてきたので、手籠めにした」と話をする。

 しかし怪異の化猫は収まらず暴れ狂う。
 化猫が薬売りの傍にきたとき、過去が見える。

「祖父が昔、攫ってきた娘は抵抗していたが、暴力的に無理矢理手籠めにされ、さらにおじも手を出していた。娘は絶望して、絶食していたが、猫がまぎれこんできたので、猫を可愛がって自分のご飯を猫にやっていた。やがて祖父は娘を持てあまして殺させてしまった」

 というのが「まこと」だった。
 そのときの猫が化猫になって、嫁入りの娘を殺し、屋敷の者たちを殺し、暴れ狂っている。

 薬売りの退魔の剣は抜ける。
 薬売りは化猫を斬る。

 祖父のご隠居はまだ生きている。
 でも花嫁がいなければ、借金は肩代わりしてもらえぬだろうし、早晩、この家は潰れることだろう。
 屋敷の後ろ暗いことに無関係の、下働きの元気な娘さんは実家に帰ります!といい、若い侍はどうしようかな……となっているところで、薬売りさんが「好きにしたらいいんですよ。誰にも誰かを縛ることや命じることはできない」と言って去っていく。

 幻影が見える。
 花嫁が屋敷を出ていく。よく懐いた猫が足元にじゃれついて、花嫁はとても幸せそうに。

 薬売りは去っていく。

3.女の業(『化猫』感想)

 まず、私は女の業なんてものは大ッッッッ嫌いだ。
 滅ぶがいいと思っている。

 特に、後宮・大奥・遊郭。
 あれらは見目を良くしただけで、実態はただの家畜小屋だ。
 人間扱いされていない。
 男の所有物として「モノ」扱いされている。

 美味しく食べるために良い餌を与えられているだけの家畜。
 監獄・刑務所のように罪があるから閉じ込められている場所ではない。
 ただ「食べ物」としてそこにぶち込まれている。
 家畜だ。
 女を綺麗なまま監禁するということはそういうことだ。

『化猫』をみてそれを如実に思い出した。
 喰うために閉じ込められた花嫁。
 喰いでがなくなったので殺処分される花嫁。

 でも花嫁自身は猫を飼っていた。
 花嫁は猫を家畜扱いはしていない。
 お前だけでも自由になって、お前だけでも生き延びて。

 花嫁は人間扱いというものを知っているのだ。
 自分は家畜にされたのに。
 花嫁は人間であり、猫をも人間扱いした。

 猫は恩義に感じたのだろう。
 ただご飯をくれて、自由にしてくれた花嫁に。
 花嫁は自分が閉じ込められているからといって、猫を同じように閉じ込めなかった。
 自分に希望を託して自由にしてくれた。

 だから、猫は復讐にきたのだ。
 自分を大事に慈しんでくれた花嫁を、家畜扱いしたものたちに復讐しにきたのだ。

 そういえば、猫を愛する人を見ていると、猫をとにかく自由にさせている。
 仕事を邪魔されてPCに乗っかられても、新聞の上にゴロンされても。
 猫はやりたい放題なのだが、大概飼い主は困ってはいるがどこか嬉しそうにしていたりする。
 猫は自由であってこそ猫だからだ。

 猫の自由さがおそらくは人間の本質的な自由さなのだろう。
 人は猫に希望を託しているのだろう。
 自由という、希望を。

 薬売りはその化猫を斬る。
 それで、本当に良かったの?

 いや、たしかに化猫を野放しにはしておけない。
 復讐といいながら、関係のないものまで殺していくからだ。
 殺されたあの祖父の孫娘がいい例だ。孫娘になんの咎もない。
 むしろ、孫娘は攫われてきた花嫁と同じ存在だ。
 借金のカタに嫁に行く。人間でなく、モノとして扱われている。
 若くて喰いでのある女は、金になるモノなのだ。

 でも、斬るべきは本当に化猫なの?
 祖父が化物を創ったのだから、創り主の祖父こそ斬るべきでは?
 諸悪の根源では?

 ……まあ、このお話の場合、祖父は借金で家が傾き、化猫騒動で社会的に外聞も悪くなり、二重に落ちぶれて惨めに死ぬ可能性が高いから……罰には、なるか……

 でも、私が薬売りなら祖父を斬りますね。
 あれこそが、怪異。
(無論、化猫も斬るけども)

 人間を人間扱いするのは、相手を自由にすること。
 本人が本人の生きたいようにすること。

 人間を酷い目に遭わせたら、人間扱いしなかったら、化けて出る。
 女の業といわれる代表格みたいなこの現象。

 でも。
 化けて出なくていいように。
 まるで、花嫁が猫を可愛がって、ご飯をあげて、そして自由にしてあげたように。
 人を人間扱いすれば、それだけで良かったのだ。

 人間扱いできない奴こそが「怪異」だ。

 そんなことを思った、『化猫』でした。

 お読みくださり、ありがとうございました。

浮き沈みはげしき吟遊詩人稼業を続けるのは至難の業。今生きてるだけでもこれ奇跡のようなもの。どうか応援の投げ銭をくださいませ。ささ、どうぞ(帽子をさし出す)