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9話*子猫のボルト

ボンさんたちと遊んでいると、どうもチラチラとこちらを伺う小さな存在に私たちは気付いていた。


子猫だった。


その子猫は孤児のようで、ボンさんとホウホウの仲間でもない。

一匹でいつもうろうろとしている子猫だった。


少しでも近づけば逃げるので、最初は姿が全く掴めず、

でも私達が来ると現れて、遠くからいつも私達を見ていた。

仲間に入りたそうにしているけど、近付けば逃げる。


すばしっこくて足が早いので、私達はボルトと名付けた。

そう、あの「ボルト」………(笑)


ボルトには、ご飯を時々あげていた。

だから、少しずつ少しずつ近づいてきた。


『一緒に遊びたい』、『仲間に入りたい』。


遠くからいつも感じるボルトの視線からは、そんな気持ちがダダ漏れだった。



ある時猫じゃらしで誘ってみたら、遊び盛りの子猫ゆえ、まんまと近付いてきた。


ボルトは、めっちゃくちゃ可愛かった。

性格はヤンチャで、とにかく元気。

【↑ボルトの遊びを見守るボン氏】



ボンさんとホウホウは、ボルトの面倒をみようとはしてた様に見えたけど、


一人でずっといたからか猫社会に対して無知なボルトは、本当に無邪気で生意気な子猫だった。


ホウホウの毛繕いを邪魔して怒られたり、ボンさんのトイレを邪魔して怒られたり…



トイレしてるボンさんの背後を狙ったボルトは、ボンさんに気付かれすぐ草の中に隠れたけど、

ボンさんが「トイレ中を狙うのはルール違反だろ、おい」と覗いた瞬間、ボルトは猫パンチを何発もボンさんの顔面に繰り出した。

ボンさんはパンチを浴びながら顔色ひとつ変えずノーダメージ。


無。


迫力にビビったボルトは逃げた。

ノーダメージすぎるボンさんの迫力がおかしくて、私達は爆笑した。



ボルトはなぜかボンさん達に絶対気を許さなかった。

絶対おしりを嗅がせなかったのだ。

ボルトは子猫なのに頑固だった。

まだ子猫だから最初は生意気さをスルーしていたボンさん達も、少し大きくなってくると教育し始めた。



あの穏和なホウホウでさえ、ぶちギレて何度もボルトを追いかけ回していたほど。


【↑ホウホウとボンさんに挟まれて絶体絶命のボルト】





ある時私とボンさんが散歩していると、戻って来る道の真ん中で寝転がって待ち伏せしていて、ちょっと私達をからかってるような仕草をした。




それをボンさんが凄く怒って一瞬で遠くまでボルトを追いかけ回してった。

さらにホウホウまでも追いかけて行って、

一瞬で誰もいなくなり、ポツーンとなったワタシ。



一人階段に座って皆の帰りを待ってたら、

しばらくして一緒に追いかけて行ったホウホウが最初に戻って来た。

私の少し離れた隣に戻って来て座って、


「にゃあ」と一言、呆れたように鳴いた。



「全く困った奴だよ…」と言ってるみたいに。


そのホウホウもなんだか人間みたいで面白かったな。




ボルトは、私達には途中から少しずつ慣れて触れるまでになった。



初めて撫でた時は、甘えたくなる自分の気持ちに戸惑ってたように見えた。


私達がいくと、よく手すりや壁に擦り擦りクネクネしながら近付いてきた。


私達とボンさんのとこに来たいけど、関係をうまくできないから遠くからいつもこちらを見てるのが不憫で、


抱っこしてボンさんがいる階段に連れてったらすごく嬉しそうな顔をしてはしゃいだ事があった。



ボンさん達への礼儀を学ばないうちだったので、結局ボンさんが怒って認めなかったけど……



ボルトはボンさんが膝に乗るのも羨ましかったみたい。




ボンさん達がいない時に膝に乗せたら嬉しそうで、フミフミするのを我慢していた↓



「俺ボンさんみたい」って喜んでたように見えた。



一度だけ奇跡が起きて、ボンさん達と一緒にご飯を食べた事がある。




まるでトトロ 。 笑




ボンさんたちもボルトが嫌いな訳じゃないようだったけど、



私達には分からない猫の世界のルールみたいなものがあって、ボルトはなかなか難しいんだろうなって感じだった。




ボルトはそんな困っている大人たちを気にすることもなく、
子猫で遊び盛りだったから、1人で芝生を元気に駆け回って土手で遊んでた。



印象に残っているのは、

ボルトがボンさんみたいに草の中でウンチして帰って来た時のこと、

おしりにウンチがついていて、

思わず「あ!ボルト、おしりにウンチがついてる」ってパートナーのTに言ってたら、

ボルトもまた人間の言葉が分かるようで、自分のおしりを見た。





そして私たちから離れて、恥ずかしそうにおしりを一生懸命ペロペロしだしたのだった。




デリカシーがなかった自分を悔いて、切なくなってボルトに近づいた。



ボルトは「見ないでよ」って逃げた。



逃げながらおしりを必死にペロペロし、

恥ずかしくてしょんぼりしたように見えたボルトに謝ろうとしたら、ボルトは1人で土手の向こうに行ってしまった。



ボルトはまだ子猫だからトイレがうまくできなかったのだ。



水の飲み方、ご飯の食べ方、トイレの仕方、親に教えてもらえなかったボルトは、ボンさんたちを見て一生懸命学んでいたのだ。



切なくて切なくて、追いかけたら、

土手の向こうにある階段にできていた水溜まりでお水を飲んでいた。



ウンチを拭ったから水飲んでるその姿がさらに切なくて、




「ごめんね。トイレ、きっとうまくできるようになるよ」



と、謝るとボルトは許してくれたようで、



『にゃあ』と鳴いて、一緒に階段を登って戻ってくれた。




それから、ボルトはトイレを上手にするようになっていった。

自分でおしりをちゃんといつもきれいにしていた。




【↑やんちゃすぎるボルトに何か真剣に話をし始めたボンさんとホウホウ】



そのうちボルトは自分で色んな経験をしながら生きる強さを学んで、違うエリアに移り住んだ。



イケメンだったし気が強いから、メス猫のアイドルみたいになってちょっとリーダーみたいにもなってた 。笑



時々見かけた時は、挨拶して撫でさせてくれた。





そんなボルトがしばらく見ないようになった。





エリアを変えたのか分からないけど、心配で探していたらよくボルトと一緒にいた猫に出くわしたので、



「ボルト知ってる?呼んできてくれないかな。お礼にカリカリあげるから」


と言ってカリカリをあげたら、


ずいぶん見なかったボルトが離れた場所からテクテク歩いてやって来た事があった。




びっくりした。本当に呼んでくれるなんて。




ボルトは、私たちのとこにやって来てくれ、

『ボルトー!元気だった?!心配したよ~~~~』と撫で、

ボルトも挨拶してくれて嬉しかったけど、



ボルトは随分大人びたようだった。


少し撫でさせてくれた後、「もう、いくね」と一人遠くに消えて行った。




それから、ボルトとは会えなくなった。



一番ボルトを可愛がってたパートナーのTは何度もボルトが交通事故にあって亡くなった夢を見たらしい。




生きてて欲しいから、私達は何度かボルトを探したけど、会えなかった。




野良猫は、いつ会えなくなるか分からない。




最初から分かっていたけど、それは容赦がなく、やっぱり淋しくて切なかった。

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