忘れないお話

地元の話をすると、絶対思い出してしまうことがあります。

人間、誰しも2度と忘れられない体験というものがありますよね。

僕も中学1年生の時に、忘れられない体験をしました。
きっとあの日ほど後悔することは、これから先ないでしょう。

今回の記事は、全然お笑いじゃないです。
読むか読まないかは自己責任です。


僕の育った柊野には、棒踊りという踊りがあります。
棒を持った男の人達が、前3人、後ろ3人の6人が民謡のような唄に合わせて、棒を打ちつけて踊る踊りです。

だいたい6人1組のチームを3つ4つ縦に並べて、踊ることが多いので、24〜30人ぐらいが踊りに参加します。

この踊りは、前の記事でも出たふるさと大運動やひがん花祭りで踊られます。

ひがん花祭りとは、ひがん花が咲き乱れる9月の中旬に行われる柊野のお祭りです。

柊野は、なぜかひがん花を売りにしてます。
ひがん花祭りのために、7月頃にひがん花の球根をみんなで植えます。

そんなひがん花祭りの棒踊りに参加できるのは、中学1年生からです。

1番下は中学1年生
1番上は60代近く

計30人ぐらいが踊ります。

そして、中学1年生になった僕もこの棒踊りに参加することになりました。

小学生の時に、棒踊りは大体教わります。

ただ与えられる位置によって、踊り方が異なってくるのです。

だから、ひがん花祭りの2週間前ぐらいから柊野小学校の体育館に集まって、棒踊りの練習が行われるのです。

そして、ひがん花祭り前、最後の練習の日。

僕は、この日忘れられない体験をします。

いつものように学校終わりの学生、仕事終わりのおじちゃん達が体育館に集まり、棒踊りの練習をします。

練習といっても、最後の練習の日なので本番と同じ位置取りで何回か通して踊るだけです。

そして、3回ほど通して踊り、みなさん本番がんばりましょうということで解散。

体育館の時計は、もう21時を指しています。

僕の親は割と厳しかったので、23時には寝ないといけないのです。

早く家に帰って、お風呂に入って、宿題をしないと今日はゲームをせずに寝ないといけなくなるのです。

僕は、荷物をまとめて急いで体育館を出ました。

すると、
「バイバイ。」と声をかけられました。

後ろを振り返ると、中学3年生の友達が、体育館の入り口に立っていました。

この中学3年生の友達は、昔からとてもクールです。
野球部に入っていて、足も早くて運動も出来て頭も良い。
さらに、男前です。贔屓目なしに。
でも、決してそんなこと鼻にかけない。
どんな時も落ち着いていて、2歳しか違わないのにとても大人に見えていて、僕はどこか憧れていました。
案の定、かわいい彼女もいた。

前回の記事に書いた通り、柊野小学校は全校生徒13人です。

みんなが友達で、みんなが兄弟のように育っています。

だから、いつものように元気に「バイバイ。」って手を振り返そうとしました。

でも、「バイバイ。」が出てこないんです。

その時、僕の頭に浮かんだのは

「もっと話したい。」
「今日は、ずっとこの友達と一緒にいたい。」
「バイバイ。って言いたくない。」

もちろんこの友達のことは、大好きです。

でも、こんな気持ちになったのは初めてでした。

この気持ちをうまく言葉に表現できない中学1年生の僕は、ずっとその友達を見つめるだけでした。

時間にしたら、何秒か何十秒かわかりません。

僕からしたら、ずっと見つめていました。

すると、棒踊りに参加してた僕の父親が、
「おい、帰るぞ。」
と車から声をかけます。

後ろ髪を引かれる思いをしながら
「バイバイ。」
と手を振り、車に乗り込みました。

「なんだったんだろう。」
そんなことを車の中で考えたりもしましたが。

お風呂に入って、テレビを見ながらご飯を食べたら、そんなことも忘れて眠りました。

そして、起きて、中学校に行きました。
いつも通りの日常。

なにやら昼休みに、職員室がざわざわしてるとのこと。

そして、帰りの会。
担任の先生が、みんなに言いました。
「3年生の◯◯◯くんが、亡くなりました。
今日は、全部活動中止です。みなさん下校です。土日の指示は、顧問の先生に仰いでください。」

はあ?

いやいやいや。

昨日の夜、元気に棒踊りを踊っていたんだけど。

僕、ちゃんと見たんだけど。

気づいたら、泣いていました。

担任の先生が、僕を気遣って、同じクラスで同じ部活の子に
「フォローしながら、顧問の先生の所に連れて行ってあげて。」
と言うのだけ遠くの方で見えました。

自らだったんですって。

その中学3年生の友達が、最後に会った友達が僕ってことだよね。

昨日まで元気だったんだ。
昨日思ったんだ。「バイバイ。」したくないって。
僕のせいだ。
昨日、僕がそのまま帰らずに一緒に話していれば。
僕が、「バイバイ。」って言う前に、いつもみたいに冗談でも言って笑わせていれば。
僕、そのまま何も言わず帰っちゃったんです。

そんなことを顧問の先生に、必死に伝えようとしても。
全然言葉になりません。
顧問の先生に、背中をさすられて嗚咽を洩らすばかり。

そして、中学校の玄関で、小学校からの同級生の女の子に会いました。

卒業式の時に、校長先生からみかんの木をもらっていたあの女の子。

その女の子も同じように泣いています。

そして、顔を見合わせて、また拍車をかけるようにお互い泣き出しました。

その同級生の女の子には、お姉ちゃんがいます。

そのお姉ちゃんは、中学3年生。
昨日まで元気だった友達の小学校からの唯一の同級生。

その唯一の同級生の男の子と女の子は、誕生日も一緒でした。

どこか天然な同級生の女の子を、いつも呆れながらフォローしていた昨日まで元気だった友達。

唯一の同級生の女の子は、しばらく学校に行くと気分が悪くなるほど落ち込んでいました。

柊野のひがん花が、真っ赤に咲き乱れる頃のお話。

ひがん花の花言葉って、「悲しい思い出」とか「また会える日を楽しみに」って意味があるんですって。

皮肉ね。








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