いつまでもかわいいままだと思うなよ


僕は、同級生に男の子がいないこともあって、小学校低学年の時には、よく6年生や5年生に遊んでもらっていました。

当時一番流行っていた遊びは、校庭で小学校1年生の小さい僕を、6年生が「たかいたかい」の要領で空高く投げるというものです。

1番りゅうたを空高く投げた人が勝ちです。

もちろんりゅうたが、綺麗に着地できる高さでないといけません。

ちなみに、1番りゅうたを空高く投げるのが上手いのは、6年生のカオル君でした。

カオル君に投げられて、何度か空中で「あ。今回は。」って思ったことがあります。

そして、その「今回」が、遂に来てしまうのです。

あれは、十五夜の日です。

柊野では、十五夜の日に子供達が、数班に別れて、柊野中の家に十五夜のお供え物やお菓子をもらいに行きます。

そして、カオル君と僕の班は、担当エリアを終えて、集合場所に帰ってきました。

他の班の帰りを待つ間に、いつものように僕を投げよういうことになりました。

「せーの」

いつものように舞い上がる僕

満月まで飛んで餅をついてやる

おや?

なぜ顔より足が上にある?

ドン。

目の前を赤いものが流れ落ちてきました。

他の班の子供達が帰ってきました。

「ぎゃあああ。」

僕を見て、逃げ惑う子供達。

泣きながら、みんなに助けを請うために追いかける僕。

ここで一句

十五夜に 迷い込みたる ゾンビかな

リアルゾンビメイクで、十五夜を一瞬にして、ハロウィンに変えちゃいました。

それ以外にも、他の6年生に、玄関でこちょこちょされて、中々靴に履き替えれないことも多々ありました。

そして、ある時、僕の心の中である声が聞こえてきました。

「なあ、まえのりゅうたよ。さすがにやられすぎておるのではないか?」

「いつもいつも6年生にされるがまま。情けない。」

「たまには、あの6年生に、目にモノ見せてやりたいとは思わぬか?」

ふむ。実に、興味深い話だ。
しかし、見よ。
この細い腕に細い足、そして小さなタッパ。
この体で、何が出来よう?
あの大きな6年生に敵うなどとは到底思えぬ。

「勝負と言っても、殴り合いをしろと言うてるのではない。頭を使うのじゃ。」

はて?頭を使うとは?

「学校には、6年生より大きな体格の者がいっぱいおるじゃろうて。」

何を言っておる。学校は、6年生が1番上なんじゃ。6年生以外に大きい者など先生達以外に。
は。そうか。先生か。

「そうじゃ。先生を使うのだ。」

なるほど。確かに、先生なら6年生に負けようはずもない。
しかし、気になる点があるぞ。
6年生は、玄関先で待ち受けてることが多い。職員室はその隣。簡単に職員室への道をあけてくれるとは思えぬ。」

「それに関しては、ワシに良い考えがある。玄関の階段の近くにあるあれを見よ。」

あれは、お悩み相談箱。
なるほど!その手があったか!

「そうじゃ。昼休みのうちに、あのお悩み相談箱に、6年生がいじめてきますと書いた紙を入れるだけでよいのじゃ。さすれば、先生達が6年生を成敗してくれるわ。」

『6年生がいじめてきます 1年生』

これで、よし。
見ていろ。
大きな体にモノを言わせて、傍若無人を働く6年生め。
正義の鉄槌を喰らわしてやる。

そんなことも知らずに、6年生は、呑気に校庭でセンターリングをあげて必死にヘッディングで競り合っておるわ。(前記事の柊野小学校参照)

ふむ。それでは、あの階段の影に隠れて、お悩み相談箱を取りにくる先生を見届けるとしよう。

5分後。

ふむ。まあ、給食食べたばかりですぐに働けというのも酷な話だ。

10分後。

ふむ。テストの採点でもしているのだろう。
先生というのは、忙しいのう。

25分後。

おかしい。1学年3人にも満たないテストの採点にこんなにもかかるものか?

30分後。
まずいぞ。そろそろ6年生が、ヘディングに飽き始めておる。

35分後。
おい、聞こえるか?

「なんじゃ?」

1つ聞きたいことがある。
この学校は、全校生徒13人。
みんな幼き頃から気心の知れた仲。毎週、水曜日の昼休みには、『みんなで遊ぶ日』といって、全校生徒で缶蹴りをしたりケイドロをしたり、月に1回はその月の誕生日の者が、好きな給食を選んで、みんなで図書室で祝いながら食べたりもする。

「そうじゃ。誠に、皆が和気藹々としておる良き学校じゃ。」

さらに、先生は、片手で数えられる生徒しか担当していない。

「うむ。だから、1人1人を理解して、いつもあんなに親身になってくれるのじゃ。」

そんな学校の生徒が。
お悩み相談箱に、悩みを投函すると思うか?

「……。そんなこと夢にも思わぬ。」

しまった。「しまった。」

ましてや、今日も最後の最後までおしゃべりに夢中で、中々給食を食べ終わらない拙僧に、悩みがあるなんて先生方は思ってもおらぬぞ。

「どうする?どうするのじゃ?」

ええい。かくなる上は。

失礼します。先生。先生。
お悩み相談箱に、なんか紙が入っていました。

『紙?ほんとだ。あれ?これって。りゅうた君の字だよね?』

……はい。

ドカン。
職員室が揺れた。

なんたる屈辱。
6年生め。
今に見ていろ。








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