田舎はみんなが家族?

田舎出身だと言うと、都会の人達に
「田舎に住む人達は、みんな家族みたいな感覚でしょ?」

これは本当によく聞かれます。
1番聞かれることかもしれない。

芸人さんが一般の人に
「誰みたいになりたいんですか?」

これと同じぐらい聞かれます。

そして、これと同じくらい
「田舎は、みんな家族でしょ?」は、答えに困る質問です。

田舎でも、家族の基準は、血の繋がりと戸籍です。

家族みたいな感覚もよくわかりません。

だって、柊野の人達と毎日一緒にご飯を食べることもないし、チャンネルの取り合いすることもないし、お風呂掃除をやってくれたこともありません。

まあ、家族ではないにしても仲間意識が強いことは確かです。

例えば。
自分の住んでいる地域の道路を、知らない車が走っているとしましょう。

東京では、当たり前の光景です。
僕も今住んでいる近くの道路は、知らない車がいっぱい走っています。
むしろ、知っている車なんて1台も走ってません。

しかし、柊野では少し違います。


友達と道を歩いてる時に、道路を知らない車が通ります。
すると、2人とも口を揃えてこう言います。

「誰?今の誰?」

わかりますか?
知らない車が通ることの非日常が。

柊野の人は、車が通ると絶対に見ます。

「なぜ絶対見るのか?」

答えは、簡単です。
車の運転手に、手を振らないといけないからです。
全部が知り合いの車なので、通る度に手を振るのが当たり前です。

ただ小学生の僕でも落ち込んでいて、知り合いに手を振る気が起きない時もあります。

その時は、車とすれ違わないようにダッシュで家に帰ります。

そして、学校からの帰り道の途中に、柊野の入り口に入ってきた車が見えて、何度も先に家まで着くようにダッシュして。
そして、間に合わず。
何度もハアハア言いながら、手を振ったことがあります。

そんなこと言わないでください。
そんな簡単じゃないのです。
手を振らなければいいでは済まないのです。

さらに、知らない車が通る以上に、柊野を混乱に陥れる出来事があります。

それは、救急車が柊野に入ってくることです。

救急車の音が聞こえると、柊野中のカーテンとドアの開く音が聴こえます。

そして、救急車がどこで止まるかに耳を澄ませます。

あの辺で音が止まるということは、おそらく誰々さん家だという捜査会議が始まります。

そして、次の日の晩御飯にて。
各家庭の父親警視長から
「昨日の救急車は、誰々さん家の誰々さんがこういう症状で運ばれました。入院はされておりません。」
という事細かな説明があります。

1日足らずで患者の症状と誰が救急車を呼んだかまでもが判明して、柊野全域に広まります。

1リツイートで、柊野の奥まで届きます。

この行事は、柊野だけではないかもしれませんが。
柊野の夏の風物詩と言えば。
もちろん小学生達による国語の教科書の読み聞かせです。

柊野は、吉永商店のマイクから有線が、各家庭に繋がっています。

吉永商店とは。
柊野で、唯一のお金を支払って食料などをもらえることが出来るところです。

その吉永商店のマイクを使えば、柊野の全家庭に声を届かせることが出来るのです。
このマイクを使って、様々な行事や注意事項の報告があります。

そして、8月の18時からは、小学生による国語の教科書の読み聞かせが行われるのです。

小学生が、柊野のみんなに、国語の教科書に載ってる物語を1つ読んで聞かせるのです。

なんと微笑ましく、なんと憂鬱で、なんと鬱陶しい行事なのでしょうか。

割り振られて、1日3人ほどが教科書に載ってる物語を読みます。

1番読まれる物語は、金子みすゞさんの「私と小鳥と鈴と」です。

これほどまでに
知名度と短さと読んでる感の三拍子の揃った物語があるでしょうか?

3人連続で「私と小鳥と鈴と」もざらにあります。

2位は、「三年峠」です。
「三年峠で転ぶでないぞ 三年峠で転んだならば 三年きりしか生きられない。」
がよく柊野に響きわたっていました。

この読み聞かせは、3年生から参加になるのですが。
初参加で肩に力の入った3年生が、「スイミー」にチャレンジすることがあります。

勘弁してくれ。
頼むから。
早く目になってくれ。

テレビの音が、全然聞こえない。
今日の忍たま乱太郎は、
久しぶりに「ひえたはっぽうさいの回」なんだ。
とイライラすることもしばしば。

かく言う、僕も。

なぜか力太郎に、のめり込んでいた時期がありました。
力太郎こそが俺のバイブルであると。
みんな、もっと力太郎の魅力を知れ。
力太郎の中でも、
石コ太郎が、僕の推し太郎でした。

そして、ついに「力太郎」を読んでやろうと決意したのです。

いざ、本番。

意気揚々と「力太郎」とタイトルを読み上げます。

おじいさんが、垢を擦り出した頃にはとっくに後悔していました。

そして、力太郎が石コ太郎を仲間にした瞬間。

「6年生 前野隆太」

と言ってのけました。

力太郎に友達が2人できただけの話にしてやりました。

僕以外にも、「モチモチの木」に挑んで。
「じさまが、お腹が痛いまま」終わる奴もいました。

こんな物語を聞かせたり聞かされたりしてる関係なので、家族ではないにしろ。

簡単に、他人とは、言い切れないかもしれませんね。











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