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【ショートショート】

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自分で書いたオリジナルのショートショート(超短編小説)
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記事一覧

【ショートショート】自由な発想のAIロボットアーティスト

 突如現れた無名のアーティストの作品に世の中が震撼した。  きっかけは、インターネットのSNSで公開された作品。アイという名前のアーティストの作品で、最初はほんの数人がたまたま見つけただけだった。そしてその作品を見て面白いと思った人が「既存の概念に全く囚われない斬新な絵」という感想をSNSに投稿して拡散し、それを見た人が更に拡散し、有名になっていった。  アイは作品について何も語らなかった。多くの人がアイと直接にコンタクトを取ろうとしてコメントを書き込んだりメールを出したりし

【ショートショート】大人気アイドルライブレポート

 人気急上昇中のアイドルグループ「チェリーケーキ・バナナジュース」、愛称「チェリバナ」の全国ツアーのライブを初めて見た。  メンバーは、マイ、ナナミ、サクラ、ユリ、アヤメの5人。  可愛いメンバーが綺麗なドレスを振り乱して激しいパフォーマンスをするらしい。私ももちろんグループ名は知っていて興味があったが、取材が決まってから今日のライブを最高に楽しみたいと思い、最低限の基本情報だけ確認して、ライブに関する事前情報はほとんど入れずにライブに来た。  ライブ会場の付近は、公式グッ

【ショートショート】タイムマシン

 天才技術者の男が仕事を引退した。  男は時代の先駆けとなる様々な新しい発明を世の中に送り出し続けた天才技術者で、良いことも悪いことも何でも依頼があればやっていた。莫大な財産を築き、若い頃に結婚して妻はいるが、子供はいなかった。引退に際して、持っていた特許のほとんどを売り払い、更に莫大な大金が入った。  引退する理由は、「タイムマシンの開発に専念するから」  だが、それは表向きの建前で、本当の理由は別にあった。  最近ずっと妻の体調が思わしくないことを男は心配していた。そし

【ショートショート】バレンタインのプレゼント

「ねぇ?あんた知ってる?」 「なに?」 「モモちゃんとソラくんが付き合い始めたんだって」 「何それ。似合わねー。笑い死ぬって」 「モモちゃんから告白したらしいよ」 「笑い過ぎて息できん。笑い死ぬって」 「もうすぐバレンタインなのにね」 「もうちょっと待てよ。フラゲすんなっつーの」 「モモちゃんってああいうタイプ好きだったっけ?」 「モモは誰でもいいんだよ。年中ずっと盛ってるからなぁー」 「正直、うるさいよね」 「警察が取り締まるべきだな」 「ははは。盛り過ぎ罪で捕まったりして

【ショートショート】シンデレラ、その後

 シンデレラは悩んでいた。 「この結婚は正しかったのかな?」  あの夜の出来事を「運命の出会い」と言えば素敵だが、実際のところ、1回会っただけなのだ。  王子はパーティーで会っただけの外見の綺麗な女に惚れるチャラ男で、権力を使って会いたい女を探すようなストーカー気質の権力依存男。冷静に考えれば、王子だという身分が凄いだけのボンボンのクズ。  そして、シンデレラは自分で気づいていないようだが、シンデレラもなかなかのクズである。  お城のパーティーに行って王子様に会いたいだけの

【ショートショート】最高の晩御飯

 朝日が眩しくて目を細めながら、まだ人の少ない街並みを颯爽と歩いていく。無機質なビルに囲まれたこの街にも、たくさんの人の暮らしがあり、様々な動物が息づいている。毎日、同じ道を歩いているが、同じ風景を見ることは一日たりともない。  でも僕の頭の中は、いつも同じだ。 「今日の晩御飯は何かな?」  晩御飯の楽しみが、僕の一日の活力になっている。  有名なお店で外食の予定があるわけでもない。仲の良い友達との飲み会があるわけではない。自宅の晩御飯が楽しみなのだ。むしろ外食の誘いは全て断

【ショートショート】旅立ちの日

 田舎の駅のホーム。  僕はこれから片道切符で電車に乗る。夢を叶えるまで実家には帰らない。 「行ってきます」 「元気で頑張ってね」  そう言って僕を見送る母は、目に涙を溜めている。父はいつもと変わらず寡黙だが、今日は優しい目をしている。僕は両親の息子で本当に良かった。暖かい愛情をたくさん感じられた。決して裕福な家ではなかったが、いつも僕のやりたい事をやらせてくれた。  母が、父から見えないようにこっそりと僕に封筒を渡してきた。 「どうしても困った時には、この封筒を開けてね」

【ショートショート】電車は地動説か?

 かつて人類は、空にある太陽や星が動いており、地球は止まっていると思っていた。これが「天動説」。  その後、動いているのは地球のほうで、空にある太陽や星は止まっていることが判明した。これが「地動説」。  さて、ここで問題である。私が乗っているこの電車は、「天動説」か?「地動説」か?どちらが正しいのか?  私は50年以上、電車で通勤していた。若い頃は仕事で疲れてしまい電車の中では寝てばかりいたが、最近はようやく余裕が出来て、ゆっくりと外の景色を眺められるようになった。しかし余

【ショートショート】ストーカーには捕まらない

 自宅への帰り道。ずっと私をつけている男がいる。まこうと思ってわざと人通りが多い場所を選んでさりげなく回り道や寄り道をしても、一定の距離を保ったままずっと私をつけてくる。これがストーカーっていう奴なのだろうか。どうしよう。  おそらく、私がユウ君とお別れしたのを知って、私を狙っているのだろう。私がユウ君とお別れしたのは数日前だ。いつから私をつけているのか。ずっと私を見ているのか。怖い。ユウ君に連絡したい。助けて欲しい。でも、もう連絡はできない。  お別れした原因は、ユウ君の

【ショートショート】雑草刈りのお手伝い

「シロー、何してるの?暇?」  子供が母に駆け寄った。 「なに?お母さん」 「ちょっとお手伝いして欲しいんだけど」  シローは「お手伝い」という言葉を聞いて、ムッとする。 「いやだなぁ……」 「でも暇でしょ?」 「暇じゃないよ。僕は絵を描くのに忙しいんだよ」 「何描いてるの?見せてよ」 「いいよ。はい」  シローは書いてる絵を母に見せた。  母は絵を見ながらシローの頭を撫でた。 「上手ね。ここの人達の表情が素敵。あとここの赤い色が綺麗ね。上手」 「えへへへ」  シローは得意げ