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香りの思い出

初めてシーシャバーに行った
悪いことをしている気分
ご時世的に「行くべきでない」とされている渋谷の
治安が悪い雑居ビルの中
AK-69が流れる薄暗い部屋で
褒められたモンじゃない水タバコ

私はiQOSを吸うけれど、水タバコの良さはわからなかった。たぶん、清涼感の物足りなさ以外にも屈服したくない気持ちがあったんだと思う

少しでも罪悪感をなくすために、帰り道2駅分歩いた。

それはどんまい 結果オーライ
遊んで寝て逃げ切ってちょーだい
それはどんまい 結果オーライ
全てだしきって今の状態
たくさん焦り 少し稼ぎ
俺らはゆっくり育つ盆栽
毎日Monday 余んねい
いらないけど買わされた教材

bonsai/Dodo

家に着いたら服や髪がシーシャのにおいを主張してくる。昔嗅いだことのあるにおいだった。中学生の時に初めて仲良いある子を呼んだ時の残り香だった。

その子は、いわゆるヤンキー。家庭環境は私の知ってる限りトップ5に入るくらい悪かったし、親も強面。でも群れるのが嫌いで、ワガママなときもあるけれどはっきり意見の言えて全力で感情表現する、カッコいい子だった。勉強はしないし授業も聞いていないけど先生から好かれていた。
賛否は分かれていたが私は彼女が好きだった。彼女も私を好きだったと思う。

家に呼んで録画を見たり、小さいチキンラーメンを食べたり、楽しく過ごした。学校では全然気づかなかったけど、彼女は家のにおいが強くてびっくりした。柔軟剤ではない。臭くはないけれど、なんだか嗅いだらマズイ感じの、バレたらヤバいにおいがした。
彼女が帰ったあともにおいは残っていて、案の定親に指摘された。
「これ薬のにおいじゃない!?誰来たの!?もう上げないで!」
彼女の家族が薬をやっていてもおかしくはなかったけど、確証がないのに友達が犯罪に絡んでいると決めつけられたことがすごく哀しくて申し訳なかった。

シーシャから帰ってきた私は、罪悪感と中学生の時の申し訳ない気持ちを洗い流すようにシャワーを浴びた。髪を濡らすと香りが強くなった。友達を馬鹿にされた怒りや、疑惑を強く否定できない申し訳なさ、偏見を持ちたくない気持ち。あの時感じたそれらと一緒にシャンプーの泡は排水溝に流れていった。

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