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前立腺肥大症:男性ならば宿命?上手に付き合うには??

前立腺肥大症(benign prostatic hyperplasia:BPH)と呼ばれる疾患があります。男性にしかない前立腺ですが、こちらの臓器が加齢とともに漸増してきます。

別に大きくなる分には全く問題ないんです。よく勘違いされますが、前立腺肥大がひどくなると前立腺癌になる、とか、そういうことは全く関係ないんです。

何が問題になるのか??
前立腺の中を尿の通り道である尿道が貫いているんです。そのため前立腺が大きくなって尿道を押しつぶすと、尿の勢いが弱くなったり頻尿になったり夜何回もトイレに起きたりと、日常の生活の質(Quality Of Life:QOL)が低下してしまうんです。

今回ホスピタというサイトにBPHについて文章を書きましたので、その文章に自分の意見を追加しながらまとめてみます。

前立腺肥大症はどんな病気?

前立腺は会陰部のところにある男性にしかない組織で、尿の通り道である尿道を取り囲むように存在しています。
個人差がありますが前立腺は加齢とともに、中を貫く尿道の周囲組織が肥大してきます。
その肥大したサイズや形態によって、尿道が押しつぶされ狭くなるために排尿に時間がかかる・若い頃と比べて尿の勢いが弱い・残尿感などの症状が出て来るのが前立腺肥大症と呼ばれる疾患です。

前立腺肥大症の症状

前立腺肥大により尿道が狭くなると、尿の勢いが弱くなり排尿時間が長くなります。また腹圧をかけないと出てこない・何度も尿が途切れる・し終わっても残尿感がある、などの症状が出てきます。
そのほか、尿意を感じてからトイレに行くまで我慢できない切迫感が出てきたり、夜間何度も排尿のために起きる必要が出てくることもあり、これらは生活の質をかなり低下させます。
治療しないまま肥大が増悪すると、したくても排尿できなくなる尿閉や、常に残尿が残るため膀胱内に結石が溜まったり細菌感染を起こしやすくなることがあり、このような場合は早期治療を考慮します。

症状を見ていただくと、結構しんどいことがわかります。特にQOLを下げるのは夜間頻尿と切迫性失禁です。

夜間1回までは排尿で起きるのは正常です。2回以上だと異常となりますが、やはり3回を超えてくると日中の生活に影響してきます。寝ているときにはレム睡眠という浅い睡眠と、ノンレム睡眠という深い睡眠を交互に繰り返しながら朝の覚醒を迎えるのですが、3回以上起きる方はまとまって3時間寝られません。睡眠が分断されるため睡眠の質が低下し、翌日常に眠気と戦うことになります。

トイレに行きたいと思っても、通常我慢できます。外出中でも、その間に公衆トイレを探して列に並んで、、と時間をかけても十分間に合うのですが、切迫感のある方はその我慢ができません。行きたいと思ったらすぐに排尿しないと間に合わず、漏らしてしまうんです。これが切迫性尿失禁です。

前立腺肥大症の原因

加齢により男性ホルモンを女性ホルモンに変換させるアロマターゼ活性化が高まります。これにより若い頃とは体内の男性ホルモンと女性ホルモンの比率が変化するのですが、これが前立腺組織の肥大を促進することがわかっています。
また慢性疾患などが原因で前立腺組織に慢性炎症や血流障害が増えてくると、肥大が増悪することがわかっています。

やはり加齢とともに前立腺は大きくなります。ただし大きくなる形態は様々です。見た目が大きくなっても、中の尿道を潰さなければ排尿障害は起こりませんし、見た目が大きくなくても尿道側が大きくなっていれば通路は狭くなり症状が増悪します。

特に、下葉と呼ばれる前立腺内の尿道通路下側が、膀胱内に突出するように大きくなっているときには排尿症状が悪くなり、内服治療も効きにくいですので手術を考えます。超音波で形態は判断できます。

前立腺肥大症の検査と診断

かつては前立腺のサイズが大きいほど重症と考えられていましたが、実際に排尿症状に影響するのは前立腺そのものの大きさではなく、肥大のせいでどれだけ尿道を狭めているかという形態のほうが重要です。
そのため超音波でサイズを測定するのは重要な検査ですが、治療介入するのはいかに困る症状があるかのほうが重要です。

まずは上記の症状などをIPSS質問用紙などでスコアリングします。
これまでの持病・手術歴などから前立腺肥大症以外に排尿困難の原因がないかを除外します。
前立腺癌が隠れていないか、直腸ごしに前立腺を触診し、大きさや硬さを確認し、PSAという前立腺癌腫瘍マーカーもチェックします。
尿の勢いやかかる時間を尿流測定で確認し、前立腺サイズや排尿後の残尿を超音波で確認します。

PSAや直腸診、場合によってはMRIなども用いて、前立腺肥大症のなかに癌成分が含まれていないかは十分に検査します。
前立腺肥大症と前立腺癌は全く別物で、肥大症から癌に進む、ということはまったくないのですが、肥大症の患者さんの前立腺に癌が隠れている可能性はあるわけです。その場合は同時に二つの疾患があったと考えてください。

なぜしっかり癌を除外するかというと、もちろんひとつは癌を見逃して、後々進行したら困ると言うことです。前立腺癌は進行が極めて遅いので、最近は見つけてもすぐに手術をしないで注意深く経過観察する、というやり方もあります。
しかし症状が出にくい癌なので、気づいたときには骨にも転移していて完治しない状態になっていることもあるので、治療開始時の精密検査は大事です。

もう一つは手術治療を行ったときに、肥大症と癌では全くアプローチが異なることです。
肥大症では尿道から内視鏡を入れて、前立腺の内側の尿道に出っ張っているところだけ削ったり溶かしたりして尿道を広げる手術をします。前立腺の外側の組織はそのまま残るのですが、前立腺癌の多くはこの外側の組織にできるため、肥大症の手術をしても癌成分が残ることが多いんです。

前立腺癌では前立腺すべてを開腹手術やロボット手術で取りきるやり方なので、前立腺はすべてなくなります。たとえ肥大症もあっても同時に狭い部分は取りきれます。

肥大症の手術をしたら癌が見つかり2回め癌の手術をするのは負担が大変です。なるべく一度の手術で済むように注意深く調べるのです。
ただし肥大症の手術のときには癌がなくても、その後残った前立腺部分に癌ができることはありえます。

前立腺肥大症の治療方法

薬物内服治療と手術治療があります。

薬物としては以下のものを症状・サイズに合わせて使い分けます。
前立腺肥大部の筋肉を弛緩させて狭窄を解除するα1ブロッカーは狭窄症状が強い方に効果があります。副作用にはめまいや射精したときに精液がでにくくなる逆行性射精などがあります。
前立腺サイズが大きくて症状が強い方は前立腺のサイズを縮める5α還元酵素阻害薬を使用します。効果が出るまで数ヶ月かかることと、前立腺腫瘍マーカーであるPSAが見た目低下しますので、前立腺癌検診の時は内服していることを必ず医師に伝える必要があります。
前立腺や膀胱の慢性炎症がある場合はPDE5阻害薬を使用します。前立腺や膀胱周囲の血流を改善させることで炎症をおさえ、排尿を改善します。心臓の持病が在る方では使用できないことがありますので、事前に医師に確認して下さい。

手術治療として、現在開腹手術はほぼ行われません。尿道から内視鏡を入れて、身体に傷をつけずに大きくなった前立腺を削ったり焼灼して尿道を広げることができます。
電気メスを用いるTUR-Pは歴史があり、行われる病院が多いです。
そのほか最近では肥大した前立腺の内部をレーザーで完全にくり抜くHoLEPや、肥大部をレーザーで蒸散させるPVPやCVPといった術式を行う施設も増えています。

治療としては上記の方法がありますが、それぞれにメリット・デメリットがあります。
特に肥大症で手術を考える壮年期の方では性機能も重要です。
内服薬や手術方法によっては勃起機能・射精機能などの男性機能に影響を及ぼすものもありますので、治療後の排尿機能の改善のほか、ご自身の必要な性機能の温存も含めて担当医とご相談しながら決めるのがいいと思います。

まとめ

前立腺肥大症のまとめは以上です。
英語でbenign、良性とついていますが、進行したときのQOLの低下は強いです。
また、BPHによらず、排尿困難症状があると、実はEDの原因になることもあるんです。
上記の症状が若い頃と比べて出てきた、困っているという方はかかりつけの泌尿器科ドクターに相談してみてください。
当院へメール相談してくださっても、詳しくご説明いたします。

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