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清澄白河カフェのキッチンから見る風景 : やんちゃな音楽

いつの時代にも、やんちゃな音楽というものはありまして、突然変異的な前例のないことをやってみた奴らがおります。完璧な前衛などというものは、聴いて面白いものでもないので興味すらありません。そんなのどうでもいいんです。新しいだけということには価値を見出せません。

価値があると思えるものの中でも、後から時代が追い付いたような先進的なものがいくつもありまして、まず思いつくのはジミヘンでしょう。革新的という意味ではもっと上を行く人間もいたかもしれませんが、芸術点や斬新さという面では抜きん出ていると思います。新しいロックをやろうとしていた、それなりに上手いギタリストのやる気を削ぐような斬新さがありますよね。

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もう一つ、パンクの嵐を巻き起こしたセックス・ピストルズも斬新という意味では相当のものです。既存のフォーマットではありますが、それまで先進的だった反体制音楽であるロックを、一気にすべて過去のものにしてしまう斬新さは評価すべきでしょう。今聴くと随分ポップだなと思いますが、しっかり商業性も持っていたとしたら、やはりプロデュース力の勝利でしょう。マネジメントが追い付いていなかった部分は否めませんが、時代をゴロッと動かしたパワーは認めます。

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もう少し古い音楽でタイニー・グライムスの「コーリン・ザ・ブルース」というアルバムがあります。ブルー・ノートあたりにありそうなジャケット・デザインですし、ジャズ・レーベルのプレスティッジから出ているのでジャズ・ギターかと思いきや、いきなり聞こえてきたのはロックンロール的なフレーズです。恐らくリリースされた1958年7月の時点では、チャック・ベリーの「ジョニー・B・グッド」が大人気になっていた頃ですから、弾いてみたくなったというのは理解します。

しかしこの人、アート・テイタムやチャーリー・パーカーといった有名どころとも鎬を削ってきたジャズ・ギタリストなんです。よくぞここまで一歩踏み出したものです。時代を考えればハードバップ全盛期、ジャズが最も熱い時代です。その時期に、まだ評価が定まる前の目新しくも騒々しいロックンロールのフレーズを臆面もなく弾いてしまう勇気、一応ヴェテランと言っても過言ではない年齢で、これだけやんちゃなことができるその柔軟さ、そこがどういうわけか、気になって仕方がないんです。果たしてこの盤の評価や価値は如何なるものだったのでしょう。

ロックもジャズも、世の中には何万枚というレコードがありまして、その中から我が家にお迎えするには、それなりに理由があるものです。大抵は好きなアーティストの盤だから、好きなアーティストが参加しているから、好きな曲が入っているから、などといった理由です。その動機は容易に想像できます。そして時々はジャケットが格好良いからなどという、理由にもならない理由でお迎えします。ジャケ買いというやつです。実は「コーリン・ザ・ブルース」、中身を知らずに買ったわけですから、思い切りジャケ買いです。そして自宅に持ち帰って聴いたときの驚きたるや…。「なかなかやんちゃな奴だな」という言葉しかありませんでした。

そして時は経ち、モノの本でもいろいろ紹介されている中で、この盤の中身を正確に書き表しているものの少ないこと…、いや皆無ですわ。誰も評していない。30年くらい見てますけど、ない。だってこれ、ジャズでもなければロックンロールでもない、中間があるならそれでもいいですけど、そんなの他にないわけで、圧倒的な醜いアヒルの子ではないですか。これ、誰が聴くんですか?…今となっては、私の大好きな盤の一枚なんですけど。こんど、ブルースのイベントがあるから、かけてみましょうかね?誰かいいとか悪いとか言ってくれますかね?どう考えてもブルースでもありませんけどね…。

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