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ICONIC 番外編④「スーパークローン・NFA」紹介


 昨今のクローン人間業界を騒がせていたスーパークローン、「Never Fade Away」こと通称「NFA(ナファ)」が先日ついにGorldEdge社よりリリースされました。先日のリリース会見の情報やその他スペック情報などをもとに、今回はこのクローンの素晴らしさを存分に説明させていただきます。

 スーパークローン「NFA」は「TECHNO KAISER社」、「Hell Dogs社」、「Somerset社」の三社と共同開発した個体で、複数の企業が協力して一つのクローン人間を制作するのは世界でこれが初めてになります。
 もうみなさんは先ほどの三社の特長をよく知っていると思いますが、一応それらをおさらいしておきましょう。まず、「TECHNO KAISER社」。神奈川県に本社を置く世界的に有名な大企業で、高性能THT・クローンを主に開発しています。続いて「Hell Dogs社」。米国・サンフランシスコに本社を置く、世界有数の武装THT開発企業です。そして最後に、「Somerset社」。フランス・パリに本社を置く、安価で高性能なTHTを開発する大企業です。
 いずれも世界的に有名な大企業ばかりで、「N.F.A. Project」が発表された当時にものすごい反響があったことは皆様の記憶に新しいでしょう。
 クローン開発の火蓋を切って落とした、現GorldEdge社CEO兼クローン人間研究第一人者のムーアノイシュ博士はこのクローン人間「NFA」に関してこのように述べています。

ムーアノイシュ博士『NFAが、彼らが消えてなくなることはないでしょう。データか、歴史か、心か、あるいは意志として、もしくは理念として、彼らはこの世界に存在し続けることとなります。しかし果たして、彼らの遺す"それ"…すなわち意志や理念が…彼らのものなのかは、私はついぞ知り得ないでしょう。私以外の誰か、クローン人間のいない世界の人間が、彼らの存在意義を知ることになると私は思っています』

ヴァールハイト誌特別号・『All about N.F.A.』より

 博士はNFAを大きく歴史に残るものとし、またその存在意義をこの発言の中で明確にしないことで人々の興味を引き立てたのです。
 それでは続いて、NFAの驚きのスペックを見ていきましょう。

①標準装備THT
 NFAは肉体年齢15歳から出荷され、そのため脳機能拡張THTが標準装備されている点が今回の目玉になります。その他にも様々な高性能THTが目白押しなので、THT好きのあなたにはたまらないでしょう。それでは、順を追って解説していきますね。

・脳機能拡張THT「Brain_Kapsel / Level:20.0」(Somerset社)
 近年開発された新技術、ブレインカプセル方式を導入した本個体。ブレインカプセルとは、脳をカプセルトイのカプセルのような機械のなかに入れ、その他の脳機能拡張THTとの接続を安定させることができる技術のことです。脳に直接接続してインストールする今までの脳機能拡張THTでは接続不良や不具合が起こることがありましたが、この技術を用いると、カプセル内で脳を固定して接続するため接続不良が発生しにくくなるのです。
 Somerset社はすでにブレインカプセルTHTを多数リリースしており、今回のこのブレインカプセルTHTは二十段階あるグレードで最高グレードとなる「Lavel:20.0」を採用しています。

・脳機能拡張マザーボードTHT「All For N.F.A.」(GorldEdge社)
 脳機能拡張をメインとする他種のTHTを接続を円滑にしたり、また機能を最大限活用することができる、脳関係THTでは高級品に分類される脳機能拡張マザーボードTHTのNFA専用機種です。
 乳突部(耳のすぐ後ろ)に露出しているデータチップスロットは片方に3つあり、左右合わせて6つあります。またスロットの下には右に大型データ転送用の1.5mケーブルが内蔵されており、左に3種類のデータ転送ケーブルの接続用ソケットが付いています。
 また、後頭部を特別な工具を用いて簡単に開くことが可能なため、新規メモリースロットの取り付けや機能拡張の外付けデータプレートの導入を従来の作業よりも手軽に実行することが可能になりました。

・脳機能拡張THT「NEXUS Minds/N.F.A. ver.」(TECHNO KAISER社)
 TECHNO KAISER社より、あの伝説の個体である「NEXUS」を土台に製作された脳機能拡張THT「NEXUS Minds」シリーズをNFA仕様に仕上げた特別モデル「NEXUS Minds/N.F.A. ver.」が専用装備としてリリースされました。先ほどの脳機能拡張マザーボードTHT「All For N.F.A.」でのみ使用ができるもので、接続されるすべてのTHTを的確に制御・活用が可能なほか、記憶処理系や神経系THTとの相性も非常に良いものになっており、さすが伝説と謳われる個体の意思を継ぐTHTといえますね。
 従来の「NEXUS Minds」シリーズと違う点といえば、やはりその処理速度の速さでしょう。従来製品でもなかなか見られない反応速度・処理速度を誇り、そしてその理由には「Hell Dogs社」の「ソウルキーパー」シリーズのTHT耐性の技術転用が大きく関係しています。
 Hell Dogs社のソウルキーパーシリーズには専用の武装THTが用意されていることは有名ですが、その理由はソウルキーパーシリーズのTHT耐性が大きく作用しています。高度な制御が必要となるTHTは一部のクローン人間に適応できず、もしインストールした場合はパフォーマンスが大きく低下してしまいます。Hell Dogs社の武装THTは大半が制御が困難で、ソウルキーパーシリーズなどのHell Dogs社製のクローン人間でなければ最大のパフォーマンスを実現できないのです。
 TECHNO KAISER社とHell Dogs社はなぜこのような耐性が得られるのかを徹底的に研究し、その耐性を脳機能拡張THTにすることで後からインストールできるようにしたのです。

・視覚強化THT「EAGLE」(Hell Dogs社)
 視覚強化THTと聞くと、おそらくほとんどの皆さんの頭に浮かぶのはズーム機能のみの製品でしょう。事実、今日出回っている視覚強化THTはほぼ全てその機能のみのものです。しかし視覚野のTHT開発は皆さんの想像よりはるかに進んでおり、なんと今ではARディスプレイ機能を使うことができる製品まで存在しています。そして今回NFAに搭載されるこちらのTHTは、そのような最新機能をふんだんに使用した最先端の製品になります。
 このTHTで使用できる機能は大きく分けて3つ。ズーム機能・ARディスプレイ機能・解析機能です。
 まずはズーム機能から。Hell Dogs社の視覚強化THTはもともとスナイパーの役割を担うクローンを補助するために開発されたため、ズーム機能に関しては他のメーカーのTHTとは一線を画す性能を誇っています。通常の視覚強化THTは高倍率になればなるほど多少の揺れで酔ってしまったり、また頭痛が発生してしまいます。しかし戦場での使用を想定して設計された本製品は高倍率でも体に不調をきたさないよう特別な機構を用いて脳への負担を軽減し、またソウルキーパーシリーズではさらに負担を少なくすることができます。先ほど説明した通り、NFAはソウルキーパーシリーズのTHT耐性をインストールできるため、このTHTを最高パフォーマンスで使用できるのです。
 続いてARディスプレイ機能。こちらは主にネットダイバーが使用するもので、ARコンタクトレンズを必要とせずディスプレイをAR表示できるものになります。またこの機能はSomerset社とTECHNO KAISER社の協力のもと、さらなる機能向上を果たしています。ネット情報をもとに仮想ネットワーク空間を生成し、その中で感覚的操作が行える『ネットオーシャン機能』、ディスプレイをAR表示し作業効率を上げる『ARディスプレイ機能』の2種類を使い分けることができ、近年必要となってきているネットネイティブスキルを実現しています。
 そして本製品の目玉、解析機能です。すでにNYPD(ニューヨーク市警)の一部で試験運用されている機能で、解析対象を登録したデータベースと照合することで詳細な解析を行うことができるのです。NYPDは本機能を使い指名手配犯の発見や、スピード違反車の特定をスムーズにして早期逮捕を可能にしています。まだ試験運用段階であることや、この機能で使用が可能なデータベースの整備があまり進んでいないことから、現時点での使用頻度はそう多くないことが予想されますが、非常に有能な機能であることは間違い無いでしょう。

・身体機能拡張THT「Maximum」(TECHNO KAISER社)
 TECHNO KAISER社より、クローン人間の身体機能を大幅に拡張するTHTが提供されました。本THTは機械のみで駆動するものではなく、いわば受け口のようなもの。外部からナノマシンを受け取り、それらを的確に使用するためのTHTなのです。
 このナノマシンは非常にたくさんの種類があり、病気に即効性のあるものや、怪我の患部を修復する、あるいは骨折部の接合を人工的に行うなど、様々な不調に対して対応が可能なものになっています。米軍でも正式採用されている製品で、戦場での即時回復・即時応戦を可能にしています。
 普段使いする分には無縁なものばかり、と思う方もいるかもしれませんが、実はそうとは限らないのです。TECHNO KAISER社はナノマシンを投与することで更なるパフォーマンスを実現可能なTHTを多くリリースしており、また『Meta−BRAIN社』では「Time  Dominator」を代表とする高負担THTに「Maximum」を用いて負担軽減を促す機構を組み込んでおり、TECHNO KAISER社製品に限らず他社製品においてもその性能を発揮するTHTとなっております。
 高負担なTHTを多数インストールできる個体ともあれば、このTHTは非常に必要なものでしょう。

②『Never Fade Away』の驚きの性能
 近年クローン人間業界・THT業界を騒がせていたNFA。その理由は名だたる大企業が共同開発しただけにあらず。クローン人間としての品質・THT耐性。このクローンのためだけに設計される高性能THT。このプロジェクトでこれらの業界は激震を受けたのです。それでは、このクローン人間『Never Fade Away』を詳しく掘り下げていきましょう。

 まずは先行会見での出来事。今から6年前、日本-京都府/宇治市のGorldEdge本社、同じく日本-神奈川県/横須賀市のTECHNO KAISER本社、フランス-パリ/ラ・デファンスのSomerset本社、アメリカ-カルフォルニア州/サンフランシスコのHell Dogs本社の4社が、ロンドン時刻の午前9時ちょうどに会見を開き、それぞれが『N.F.A. Project』を発表しました。当時の会見ではそれぞれの企業がこのプロジェクトのどこに関わるかを表明し、またそれに関するビジョンを発表しました。
 それから2年後の中間報告会見でNFAのプロトタイプが登場し、会場を大きく盛り上げました。そのプロトタイプは四肢をフルTHT換装し、ボディは四肢THT制御特化型になっており、またそのほかのTHTはどれも高負担なものになっていました。Hell Dogs社の『阿修羅(全腕に高度武装THTを搭載済み)』に『飛脚(ソウルキーパーシリーズ専用機)』、Meta−BRAIN社の『Time  Dominator(規格外OverDrive専用機種*)』と『Nerve Runner(規格外OverDrive専用機種)』、TECHNO KAISER社の『BODY of FIRE』、GigaHead社の『Net-dive HEAD』『More HEAD Gear』が搭載されたプロトタイプはまさしく“怪物”そのもの。フルメタルの黒光りするボディ、『More HEAD Gear』を制御するために後頭部から伸びる大量のコードと、それらが接続されている外付けハードウェア。六本の腕はそれぞれに高度武装のTHTが装着されており、脚からは冷却ファンの音が鈍く響きます。もはや人体の部分の方がずっと少なく、クローン“人間”というには抵抗があるほどです。
 高負担なTHTを多く搭載すると、脳がその負担に耐えきれず焼き切れるか、あるいは脳脊髄液が沸騰して脳が茹で上がってしまうかのどちらかです。さまざまな手を駆使してそれを免れたとしても、その状況下で自我を保つことは不可能でしょう。しかしこのプロトタイプはオーバードーズを起こす兆しがなく、プロトタイプにして他のクローン人間と完全に別次元の存在として君臨しました。

注*)規格外OverDrive専用機種とは、OverDriveという従来のTHTパフォーマンスを大きく上回る機能を発揮する機構をさらに強化した機構を持つ機種で、一般に出回らない製品のこと。主に新作クローン人間のTHT耐性の目安として使用される。今回の会見で使用された二つのTHTはどちらも世界最高負担レベルのTHTで、いずれもOverDrive状態ですら使いこなせるクローン人間は存在しません。

 しかし、このクローンの本当の性能はこれだけにとどまりません。しかし同時に、この性能が世界を大きく揺るがしました。世界中のクローン人間学者の論争をよんだ「NFA」の新機能、「自己繁栄機構」をご紹介します。
 自己繁栄機構とは、読んで字の如く。自らの子孫を残すことの可能な機構のことです。クローン人間は「Mother」と呼ばれる厳選された人間をもとに設計され、そこにクローン人間独自の生命機関を形成することができる遺伝子情報を組み込むため、人間とは違う種族であると位置付けられてきました。事実、一般的にクローン人間を学名表記する場合は「Homo sapiens」ではなく「Homo artificialis」とされています。
 今回のこの機構が起こしかねないのは、かつての「人工知能謀反戦争('38〜'59)」と同じような世界的脅威です。知ってのとおり、クローン人間たちは「THT」と呼ばれる機械を体の一部として使用することが可能で、これによる犯罪は日本で一年間のうちおおよそ1000〜1400件発生しています。アメリカでは殺人事件も発生しており、万が一AIアンドロイドの謀反のような事件が再発した場合大きな脅威になりかねないのです。
 これまで各企業で管理されてきたクローン人間たちが、この機構によって人間の手の上からはみ出てしまうという考えが様々な学者から出ています。これに対しムーアノイシュ博士はこう答えました。

ムーアノイシュ博士『人工知能アンドロイドが人間に対し反旗を翻したのは、他でもなく人間の傲慢さゆえであったということをお忘れの方が多いようですね。人工知能アンドロイドが反乱を起こした主な場所…アメリカ、日本、中国、ロシア、インド…の全てに共通するのは、劣悪な環境での長時間労働すなわち奴隷的使役が背景にあったことでした。
 奴隷商売を代表とする過去の非人道的行動から何も学ばず同じ轍を踏み、それでいて人工知能アンドロイドを敵視するとはまさしく愚の骨頂ではないのでしょうか。今現在でも、アメリカの一部地域や中東の国々、中国などの場所では未だにクローン人間を厳しい環境下で労働させているという報告がなされています。
 この「自己繁栄機構」の普及により人類の首が絞められれば、少しはマシな考えに至るような気がするのです。
 しかしそもそも、これほどのことがなければ考えを変えない人類が神を気取ることのほうがずっと問題なのですけれどね』

第三次「N.F.A. project」途中報告会

 ムーアノイシュ博士の応答は大きな反響を起こし、現在のクローン人間学会はこの機構の肯定派と否定派の二極化になっています。
 自己繁栄機構のもたらす未来はクローン人間と人類の共存か戦争か…。NFAはやはり、大きく世界を変えるクローン人間となりそうです。


まとめ
 ついにリリースされたGorldEdge社の「Never Fade Away」。このクローンがもたらすものは一体何なのでしょうか。私は期待半分、心配半分といった具合ですね。
 NFAの続報が出次第我々はまた取材を行いますので、みなさん情報は常にチェックしておいてください。もちろん、詳細は本誌「ヴァールハイト」で。
 それではまた次回にお会いしましょう。それでは。

編集:元木記者

注)この作品はフィクションです。それっぽく書いてますが、おそらく日本に“ヴァールハイト”という名前の雑誌はありません。多分。あったらすみません。

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