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「金融財政政策雑感」no.24

  マンデル=フレミング・モデル(以下、MF・モデル)が仮定するように、内外債券収益率が瞬時に均等化すると仮定する。自由な資本移動と内外債券の完全代替が仮定される。この条件で、外国利子率が外生変数で、短期的に自国通貨建て予想名目為替相場が与えられれば、自国利子率が名目為替相場を決定する。MF・モデルは、この名目為替相場決定理論を、標準的なIS/LM・モデルに接合する。自国利子率を決定する分析装置は伝統的なLM曲線が使われて、モデルは所得、利子率、為替相場の同時決定モデルとなる。この固定価格(物価が外生変数という意味)モデルから、簡単に、金融財政政策有効性の比較に関する有名な命題が導出される。その命題は為替相場の予想と現実が一致する(定常均衡を意味する)最終均衡にて成立する。
 筆者が提起する論点は、このモデルには、名目為替相場と名目利子率決定に関する両義性が常に存在するということである。この両義性を明確にし、論理的選択肢のいずれを採用して分析するのかを明確にしなければ、およそ整合的な分析はできないはずである。後者の両義性の論点は、このシリーズでも十分に検討してきたので、ここでは、前者に絞って議論をする。
 MF・モデルを解説したテキスト(名著、西川俊作編須田美矢子・浅子和美・その他・著、経済学とファイナンス,東洋経済、1995年)でも、この問題は潜在的に表れている。債券の内外収益率の均等化条件で、外生変数とされているのは、外国利子率はもちろん名目為替相場の予想変化率である。前述した標準的モデルでは、名目為替相場水準とその予想は分離されているが、これはその予想変化率が内生変数となるとみなすこともできる。前述した標準的解釈から為替相場水準の予想という定義を放棄することを意味する。「パーセント」で予想するのは金融投資の変数としては現実的である。このように解釈すれば、内外債券収益率の均等化条件が決定しているのは、名目為替相場の予想変化率(上昇率と下落率)である。つまり、内外利子率格差がこの予想変化率を決定している。このモデルの存在はかねがね言われてきたことである。しかし、実際に実行した人は皆無だと思われる。お墨付きのないリスクのあることは一般にはやられない。今回は、このことをやり切ろうと思っている。このことによって、MF・モデルは為替相場決定理論ではなくなる。為替相場予想の適応的仮説も放棄され、予想と現実が一致する単一調整方程式は存在しない。つまり、その一致は一般的には存在しない(2016年9月、金融政策総括的検証 日本銀行, 参照)。
 伝統的なMF・モデルは、周知のようにLM曲線が重要な役割を果たしているが、近年、金融政策による長短利子率の操作は、菅・民・学で、常識となっている。テイラー・ルールの研究の蓄積は膨大である。テイラー・ルールのマクロ経済モデルへの接合は、潜在的にはLM曲線の放棄は意味しないというのが筆者の見解である。この分析装置を接合することにより、このモデルの固定価格の伝統的仮定は、マネタリストの笑止の的であったが、加速的インフレモデルに再構成し新しいMF・モデルを再構成することができると筆者は考える。

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