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「金融財政政策雑感」no.25

 日本銀行が政策金利(日銀当預の付利)をマイナスに決定した、2016年初頭のころ、ある研究会でその政策的是非が論争になった。その論争の詳細はともかく、こうした論争の時に、その前提となる仮説を、頭から否定して得意になる論者がいることである。その要諦は、こうである。マイナス政策金利を採用することにより、既に十分に低水準にある市中貸出金利の一層の低下を誘導する金融政策の有効性を問題にすること自体に意味がない。その理由は言い古されたものである。投資の利子率弾力性が極めて低いという実証結果もあり、日本の大企業は内部留保の水準が相対的に大きく外部資金依存度が相対的に小さい。然して、その政策効果は期待できないと主張される。筆者は、この議論は完全に誤謬であると考えている。この考察自体を敷衍することは、別稿に譲りたい。利子率は現実的効果もさることながら、経済動向の多様な情報を伝達している。上記の主張のように一刀両断するほど単純な問題ではない。
 ともあれ、投資を含む多様な経済活動水準に利子率が情報的非情報的影響を及ぼすことは、金融政策の有効性を議論するときの大前提である。その際、政策のチャネル変数は名目利子率ではない。実質利子率である。この点が重要なポイントである。それも、物価予想を考慮した実質利子率である。実質利子率が経済活動水準に影響を及ぼし、その反作用が実質利子率に及ぶことにより、実質利子率の動学プロセスは不安定となるのかが上記のような政策効果の有効性にとっては、重要な分析内容である。今回、分析するのは、動学的実質利子率モデルとでも呼ぶべきモデルである。実質利子率の議論にとって実質利子率の定義は、極めて重要な論点であり、従来の定義に対する代替的な定義を仮定した場合も分析する。

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