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「物価と名目賃金の循環構造」no.29

   実質賃金率と在庫ストックが生産と雇用の決定に影響する「加速的インフレマクロ経済モデル」を整合的に構築し、インフレ過程の短期的、安定性・不安定性を分析する。そのためには、財市場の不均衡調整変数が実質賃金率であるというケインズ的仮定を放棄しなければならない。財市場の不均衡を調整する変数は在庫ストックの変化である。実質賃金率と同様に在庫ストックの保有も、企業の生産にとってはコストであることは明白である。今日、海外生産と国内生産をフレキシブルに代替させているグローバル企業にとっては、この2の要因は、生産決定態度にかかわる重要なファクターである。生産量は在庫ストックの減少関数であると仮定することは、単純なモデルではあるが、このようにリアリティがある。恐らく、広義の技術革新がなければ、そのコストは逓増的関数となるであろう。 
  インフレ過程の分析にとって、インフレ予想の変化によってシフトするフィリップス曲線を考察することが極めて重要である。この分析装置で、インフレ予想が物価と名目賃金率に転嫁されていくプロセスを分析することができる。以下では、予想インフレ率が部分的にインフレ率や名目賃金率上昇率に転嫁され、経済主体が貨幣錯覚に陥る経済を仮定して分析を進める。実質値で測られ、経済主体が貨幣錯覚に陥る経済の加速的インフレ過程は、無条件には安定にはならない。一般的には不安定である。名目賃金率上昇率がインフレ率を追い越し実質賃金率が上昇していくインフレ経済は、不安定であるのか安定であるのかが、今日、問われている問題である。

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