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「物価と名目賃金の循環構造」no.27

 総需要が生産量を決定するというケインジアン・マクロ経済モデルで、労働分配率が定常値に収束するかどうかを分析してきた。ケインジアン・モデルは、この連載記事no.15で、短期新古典派モデルは、no.16で取り上げて分析してきた。いずれも条件付きであった。それが、安定条件でその経済的意味が重要である。二つのモデルとも、あくまで筆者のオリジナルな構成であり、一般にケインジアン、新古典派と認められたものではない。
 総需要決定モデルは、容易に実質賃金率、労働生産性を内生変数として組み込むことができる。したがって、労働生産性の変化も取り入れるならば、実質賃金率や労働分配率も状態変数としてくみこむことができる。労働分配率が短期では硬直的でが定常値に収束するモデルで、定常均衡の安定性を問う。今回は、実質賃金率と労働生産性の相対関係に注目するのではなく、インフレ率および名目賃金率変化率の決定を需給ギャップと予想インフレ率に関係づけて定式化する。実質賃金率をコストとだけみ人的投資とみなような企業は、持続的な人手不足の環境で今後生き残ることはできないのではないかという経済界の発言もあった。そのような経済では、労働分配率が定常値に収束するかどうかは極めて重要な問題であると考える。筆者は好循環ばかりが注目されるが、賃金、物価の悪循環もこの際明確に定義されて議論がなされることを期待したい。

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