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「日本の経済成長率について」no.8

 高齢化の問題と少子化の問題は、人口動態においては表裏一体の問題である。経済成長においても、高齢化は深刻な影響を与えているが、少子化は将来の経済成長に影響及ぼす。成熟経済は経済の長期停滞の泥沼に陥りがちである。少子高齢化は蟻地獄と同じで、それを抜け出すのは至難の大事業である。いくつものトレードオフ関係を克服しなければならない。今回は、この問題を既存の成長理論の枠組みで扱うとどのようになるかを明らかにしたい(米国や欧州がそうであるように、成熟国病の最先端日本においても、移民政策しか解決策がないとう主張もある。ロボットはモノを買わないが移民はモノを買う)。
  相対的に長いタイムスパンでの成長過程において、1人当たり所得の推移がどのようなパターンを辿るかは、発展途上国ばかりでなく中所得国である新興工業国においても大いなる関心事である。実は、1人当たりの所得がすでに相対的に高水準に達している成熟先進国においても、その推移に関して分水嶺にさしかかっているので、重要な問題となりつつある。格差の問題で、労働分配率が注目されているが、国家間の格差に関する1つの指標はこれであろう。中国が、2010年に日本を追い抜きGDPで世界第二位の経済大国になったときに、祝意を表す日本政府首脳に対して、中国政府首脳は、謙虚に、日本に肩を並べ追い越したというのは、褒めすぎであると語っていたのを記憶している。その当時、中国政府首脳には、まだまだ外資依存の経済成長であるとともに、1人当たりの生産(所得)が先進国と比較して相対的に低水準であることが頭をよぎったと思われる(購買力平価で測ったドルべースの水準の国際比較が通常なされる)。      
                              1人当たりの所得(生産高)=所得(生産高)/人口

 上記の指標を、2019年GDPベースで見れば、日本は上位37カ国中21位、米国は第5位、ドイツ第10位、英国は第17位、仏は、第16位、カナダ、第15位、イタリア第18位である。この7カ国が、G7の構成国である。中国は37カ国内にすら入らず70位前後あたりにランクされている。2018年では、日本の25%弱で、ロシアよりも低い。つまり、1人当たりのGDPで見れば、先進国とは言い難いのである。G20のスペイン、オーストラリア、ロシア、大方のEU諸国、韓国、よりも下位に位置している。もちろん、人口が圧倒的に少ない国でこの指標が著しく高位になる傾向にあるし、中国のような人口過剰国では、1人当たりの所得は小さく出る傾向がある。インドではこの傾向は顕著に表れている。したがって、過大には見れないが、中国の経済発展は新常態とはいえ、この指標でみれば、まだまだ新興工業国のグループでる。 しかし、 BRICsの中では、ロシアと肩をならべている。中国政府首脳が謙虚にならざるを得ない根拠の1つである。この日中の経済力関係は、現在では米中関係が同じ位相にある。2000年代に入り、中国が強力に進めてきた1人っ子政策は、この過剰人口の調整による1人当たりの所得を上昇させる政策でもああった。
  中国政府は、現在、格差すなわち富の偏在の是正を最重要の経済改革の1つに挙げている。プロパガンダは、「共同富裕」構想である。ここで、労働分配率と1人当たり所得の関係をみておこう。
      
                     労働分配率=(名目賃金率×雇用)/名目所得
                                        =実質賃金率/雇用1人当たりの実質所得
                                        =実質賃金率/労働生産性
 
  労働分配率が上昇するためには、労働生産性の伸びを実質賃金率の伸びが上回らなければならないことを、この式は意味している。これはよく知られた関係である。中国政府が「共同富裕」をスローガンとする以上、このフローの指標だけでなく、ストックの資産についても、全資産の中での(被)雇用者1人当たりの保有資産、という指標を参照していることは明らかであろう。格差是正という問題は、フローとストックの両面から議論されるべきであるが、概して、前者に力点が置かれることが多い。
   それでは、上記の2つの指標が、何と繋がってるのか。これが問題である。実は、それが高齢化の問題なのである。この高齢化こそ、経済成熟国である先進国の病の1つなのである。日本は、そのフロントランナーである。最近では(2021年現在)、東南アジアで急速に高齢化が進行している。アジア諸国の経済成長の過程を特徴づける専門用語として「雁行形態論」というのがある。雁行形態型成長の先頭を走るのが日本である。その後を、韓国、中国、シンガポール。マレーシアなどが、キャッチアップしようとしている。その姿が雁行に似ていることからつけられたネイミングである。しかしながら、これは新興工業国や一部発展途上国で、IT技術進歩によるリープフロッグ型成長が急浮上し、先進国の技術革新を追い抜く傾向が出ている中で、筆者の見解では再検討が必至である。
  それはさておき、 議論の前に高齢化の定義の明確化が必須である。それは、現状では、人口に占める65歳以上の人の割合が上昇することによって定義される。(15歳以上)65歳以下の人口を生産年齢人口と定義する。就業者と失業者の合計を労働力人口と定義するので、必ずしも、この二つの指標が一致するわけではない。前者の比率が上昇することで高齢化を定義するのが一般的である。以下では議論を単純化するために、この二つの指標の量的差異は無視し近似的に一致すると仮定する。簡単にわかるように、この定義による高齢化率は、二つの要因に依存していることは自明である。それらは、
人口/生産年齢人口・比率、幼少人口/人口・比率、である。15歳未満を幼少と表現する。

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