見出し画像

「物価と名目賃金の循環構造」no.24

 筆者は、これまで、開放マクロ経済分析のキー変数である名目為替相場について、データ・ベースを反映した定式化を重要な構成要素として分析してきた。名目為替相場変化率と内外金利(格)差との間には、相関があることは言うまでもないが、現実データ的には、タイムラグが存在する。それを無視し、同時決定の直接的影響を仮定してきた。その難点を回避し、理論的に興味ある論点は、内外金利差によって予想名目為替相場変化率が影響を受けるという定式化である。これまで、予想は為替相場についても適応的仮説を仮定してきたが、これを為替相場については放棄する。その結果、名目為替相場変化率について、予想値と現実値は一般的には一致しない(貿易収支が均衡し内外名目利子率が均等化する場合に一致する)。
 もう一つの重要な変数の実質為替相場は短期では硬直的で時間が経過するにつれて変化していく動学変数である。財市場の不均衡調整プロセスでも実質為替相場は名目為替相場及びインフレ率の変動とともに変化する。その反作用が及ぶ財市場の不均衡調整過程が市場均衡に到達するかどうかを分析する。そのことによってはじめて、インフレ率の予想と現実が一致する最終均衡の安定性が分析することができる。そして、加速的インフレ過程でインフレ予想が決定的に重要であるかどうかが分かる。インフレ予想が内生的に変化しない調整過程は安定で、インフレ予想が内生的に変動する調整過程は不安定であるとすれば、インフレ予想が不安定性の重要な要因であることが明らかとなる。このように予想によって決定的に変わるという分析は好まない人もいるであろう。筆者もその一人である。だが、経済法則に関して、「神はサイコロを振らない」という経済学者もまた皆無であろう。

ここから先は

2,744字

¥ 700

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?