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「物価と名目賃金の循環構造」no.28

 2024年3月19日、日本銀行はマイナス金利付き異次元量的金融緩和の新金融政策を転換した。YCCも廃止した。金融政策の正常化に向けて歩みだした。その理由は、2013年初頭の政府・日銀共同の政策目標である2%のインフレ目標を安定的かつ持続的に達成することへの確信を深めたことである。すなわち、政策転換の条件が整ったと判断したということであろう。特に、物価と名目賃金率の上昇の好循環の実現をその条件としていた(隠れた潜在的条件は、株式市場の安定的上昇であったと思う。その証拠にETFの新規購入を停止した)。政策転換の条件など、慎重に市場と対話を重ねながら、市場にサプライズとならないように進めた政策対話は見事であったと思う。日本銀行の金融政策運営は並々ならぬ力量を兼ね備えていると高く評価されるべきである。
 問題は、実質賃金率の上昇(もしくは定常状態)がこの好循環の中で生まれるかである。また、労働分配率と経済成長率の好循環は達成可能なのか、ということも問題となるであろう。もちろん、これらの問題は、金融政策のみが背負うものではないことは明らかである。今回は、これらの政策課題と金融財政政策の有効性を理論的に分析する。

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