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「日本の経済成長率について」no.6

 分析の代替的枠組み
 
経済成長率の理論的実証的枠組みを、2つ説明してきた。簡単に要約すると以下のようになる。理論は仮説にしかすぎないので(これは経済学でも物理学でも同じてある)、経験科学である以上、それが実証可能であるように定式化がなされなければならない。つまり、仮説を体現したモデルを本質を損なわずにオペレイショナルなそれに変形する単純化がなされる。主流的な分析枠組みの中で、(マクロ)生産関数を使い生産要素という供給サイドを取り上げて、経済成長率と各生産要素の成長率の関係を、後者から前者への因果関係として分析する枠組みが存在する。供給サイドから見た経済成長率の分析の典型であろう。当該経済のデータで直ちに実証可能である。しかしながら、エビデンスは見つかるが、その因果関係を分析する理論的枠組みとはならないであろう。つまり、エビデンスの説明は主観的なものになる。前述したように、東アジアの経済成長に関する「クルーグマン論争」などが、その典型であろう。
  第2の主流的分析枠組みは経済のディマンドサイドに焦点を当てる枠組みである。マクロ経済の需要構成は、内需が家計部門の消費需要と企業部門の投資需要、政府の財・サービスへの対内需要に分けられる。外需は、ネットの輸入差し引いた純輸出で示される。これらの需要は付加価値で示される国内総生産の需要側から見た構成要素であるので、経済成長率は、国内総生産(GDP)の成長率であり、各構成需要の成長率との関係を、後者から前者への因果関係として見る分析枠組みで、これが需要サイドから見た経済成長率の分析の典型であろう。この仮説も、当該経済のマクロ需要データより、直ちに実証可能であるし、それに沿った解説がしばしばなされる。これも同様に、成長率を構成需要要素の成長率に分解し、その大小のエビデンスを把握しただけで、理論的な分析枠組みとはならない。元々、主張されている因果関係の説明は、分析者の主観とならざるを得ない。
 いずれも、恒等式の左辺と右辺は相互に依存している部分が必ず存在し、真の因果関係は、相互に依存しない相対的独立変数を後者の成長率を決定している要因として見出さなければならない。独立変数の選択には時間的視野が必要であり、それを明確に仮定して、見出さなければならないというのが、筆者の主張である。時間的視野が変われば、独立変数も変わるであろう。したがって、その独立変数は状態変数となり、より長期には内生化される。
  マクロ一般均衡モデルでの経済成長率の分析が代替的分析枠組みの本命であると考えるが、それだけが代替的分析枠組みではないことは、経済学の歴史が証明している。分析枠組み間では、共通的要素も存在するので、それにも注目しなければならない。以下、代替的分析枠組みを紹介しておこう。

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