波紋を呼ぶM-1の審査を部外者の目で見返してみる。

M-1の審査が毎年恒例ではありますがいろいろ波紋を呼んでいます。
ただ、個人的に世間の反応に疑問というか、ロジカルじゃないな…という違和感を持ちまして、正直まじでどうでもいいとは思いながらですが、ふと思い立ったため細かく見てみようかなと思います。
 
話題の邦ちゃんはいったん後回しにします。
点数をかぶらせない松本人志さんの採点から見てみましょう。
 
■松本人志さんについて
1番手カベポスターに90を置きます。これにより全組がここを上回っても同点を出さずに採点することが理屈上可能で、実際そうなりました。
ただこれも安全なラインではありません。後ろの番手になるほど枠が埋まっていくからです。極端な話、実際に全組が上回っていって90~98が埋まった状態で10番手ウエストランドに回ったら、最高評価か最低評価でない限りどこかと同点になります。
さすがに同点を避けることより評価を優先すると思いますが、実際の場面では下はキュウの86、上は男性ブランコの96で、その間には89、94しか空きがありませんでした。視聴者からすると、仮に95点が付いているさや香が94点(空いているのが95点)だったらウエストランドが95点で松本さん内での順位が変わっていた可能性はないか?という邪推もおこりうるわけです。
これは即時採点の最大のリスクです。
まあ、実際に「いやでもさや香より上なのは譲れないな」と思えば、96、あるいは同点の95を付けるのでしょう。おそらくここでさや香と1対1の審査をした結果の94点ということかと思います。
 
■中川家礼二さんについて
次に中川家礼二さんですが、今回唯一2位を同率2組出しています。ウエストランドを迎える時点で上から97,96,95,94、と隙間なくつけています。すると礼二さんの評価としてウエストランドが5番目以下でない限り、「この4組のどれと同等の位置にいるか」という評価の仕方になります。
そこで「3位95点のロングコートダディより上」で「1位97点のさや香より下」ということだったのでしょう、男性ブランコと同点の2位96点に収まります。おそらく小数点が使えれば優劣は付くのだと思いますが、平均点が高いとこういうケースが起きる確率は増えます。
 
■富澤たけしさんについて
富澤さんも極力散らす点数の付け方で、同点はオズワルドとキュウの90点のみです。彼の場合も松本さん同様、高得点帯は94しか空いておらず、そこにウエストランドが入りました。
それぞれ95点、93点の男性ブランコ、カベポスターと比較してこの位置なのでしょう。95点の男性ブランコは富澤さん内での3位の位置なので、ウエストランドが4位以下が確定しているカベポスターを超えていなかったと感じていた場合、同点にすることにそこまで抵抗はないと思われるので、実際にその序列なのでしょう。
ただ一方で、既に95点がついてしまっている男性ブランコの方は、無意識レベルでの話ではありますが若干有利という順番の妙は考えられるかもしれません。
 
■塙宜之さんについて
塙さんの採点は非常に推測するのが難しく感じました。最初の2組を92点で同点にして優劣をつけないのが不思議ですし、男性ブランコにも同じく92点。10組のうちの3組が同点で引き分けていることになります。
個別の序列付けが甘くなる一方で、最終のウエストランドの番になってもある程度差し込む位置は残っていました。
この時点でヨネダ2000、さや香、ロングコートダディ、の上位3人は96,95,94と同点ナシでつけられており、上位をしっかり順位付けすることに対し下位の順位付けの精緻さは比較的軽視という見方もできます。
まあ、1,2番手をその後が超えてこなかったらどうしていたの、というのはありますが、ウエストランドが抜けていれば97点を付けられるし、甲乙つけがたければ1~3のどれかと被ってもよし(上位3組は確定する)、ということでしょうか。
全体の順位付けより最終決戦に進む3組の抽出の比重がより高い考え方なのかもしれません。もっとも上位3組はほとんどの審査員がちゃんと3組抽出できているわけで、最終決戦同票が発生した場合にファーストラウンドの得点も影響することを考えると1~3は被らないに越したことはないでしょう。
 
■博多大吉さんについて
その点でひそかに問題をはらむのが博多大吉さんです。
全組を90点台にまとめつつ、抜けて高い点数を出さなかった結果、後半得点の隙間がなく同点が多発しました。2組間の同点が4つ、計8組に同点の相手が出ています。
上述の考え方からすると点差が小さく、同点が多くても、最終決戦進出の3組が選べればよいということになりますが、大吉さんの場合は3位タイが2組、つまり上位3位が4組残り、最終決戦進出組を絞ることをしていません。
さらに解釈に困ることに、3位タイの片方が最終組のウエストランドです。すると、その「同点の相手オズワルドとウエストランドでどちらが良かったか」を選び、ウエストランドであればカベポスターと同点の2位タイに、オズワルドであればウエストランドを92点のロングコートダディ、真空ジェシカと同点の4位タイにすればよかったのではないか、という疑問が生まれます。
こうなると序列も細かく別けず、最終決戦候補も絞らずで、もはやみんな優勝でいいじゃない、といったニュアンスの審査になってしまいます。大吉さんらしくて素敵ではありますが…。
考えられることとしては、採点というよりもランク付けでいくつかの段階にブロック分けする、という方法を採ったという可能性はあるかもしれません。
これはこれでネタの評価法として間違いだとは言い切れません。ただこの賞レースという場でそれを全員が行うと、実際に大吉さんがそうだったように総得点の同点者が多発し上位が絞り込めない可能性があります。
あるいは(純粋な審査員としては問題ではあるものの)「いずれにせよ大勢に影響しない癒し枠」としての仕事だったのでしょうか。
 
■山田邦子さんについて
さて、波紋を呼んだ山田邦子さんですが、結果として数字を見る限りは下限と上限が最初の2組に来ただけでした。実際に10組中5組が80点台中盤であり、最高点の95点も審査員中では最も低い数字です。
得点の幅自体も松本さんや志らくさんと変わらないので、採点自体は至極まっとうな付け方になっています。
やはりそんな中でも84点という数字が悪目立ちしているのが騒動の大きな要因なのだと思いますが、平均が低いことを考えると松本さんも86を出しているように相対的におかしな差の付け方にはなっていません。むしろ真空ジェシカが他の審査員より刺さったということなのだと思われます。
例えば、見やすいように平均値に合わせて採点を補正してみるとしましょう。あくまでシミュレーションであって、実際に採点のボトムが上であったらもう少し開きを小さくする気がしますが、総得点の平均値920点に合わせて倍率を掛けてみましょう。

実際の採点
各審査員の合計得点を平均値の920に調整した数字(小数点以下四捨五入)

いかがでしょうか。1,2位評価の2組が他の審査員に比べ高いという特徴はありますが、その分カベポスターが異常に低いということはなく、数値の収まりとしては違和感がありません。
よく見ると、上位5組と下位5組の間に少し空白があります。ある程度大枠でのボーダー上下を仕分けしている節があるのです。
全体的には評価の高低自体は他の審査員平均とも連動しているものの、不利と言われるトップバッターが単独最下位評価であることがかえってバイアスを生みやすくなっているかもしれません。
そこを均すのがいいのか悪いのかはかなり難しい問題に思えますが、あえて名指しをするのは心苦しいものの、キュウが85点以下であればある程度抑えられたのかもしれません。そういう忖度が必要なのか、というところも今後注目されるところでしょうか。
 
■立川志らくさんについて
最後に志らくさんですが、実は得点をすべて足し上げた時に一番大きな数字になります。平均値が高いものの、付け方の特徴は邦子さんと共通するところがあり、下位3組をそれ以外と明確に分断しています。これはより極端で、6位タイまでが94点の高水準であるのに対し、7位タイのカベポスター、キュウは89点と実に5点の開きがあり、言ってしまえば足切りラインをつけるような採点傾向になっています。
とはいえ上位3組は全審査員総合でも他7組にそれなりの差をつけており、志らくさん一人が順位に与える影響は極めて限定的です。
 

結果的に個別で見るとメリットデメリットのある採点を取っていますが、総合上位3傑は前述の通り明確に一歩抜けており、かなりバランスの取れた結果に収まっているのではないでしょうか。
決勝に一組も「推し」がおらず(しいて言うなら志らくさんがあまり好きでないです)、特段自分の中での順位付けもしていないきわめて客観的な立場に近い視点からは、そのように感じられる審査でした。
 

以上


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