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深夜の往診、超音波検査(エコー)で絞扼性イレウスを発見

ボクシングの井上尚弥選手が5月6日、4団体統一王者をかけた戦いにおいて、 ルイスネリ選手の挑戦を退けてチャンピオン防衛しました。
今までダウンしたことがなかった チャンピオンの井上尚弥選手が、1ラウンド30秒で挑戦者ネリ選手の左フックを浴びてダウン。
しかし、そこから冷静に立ち上がって、確実に相手を圧倒していって、最終的に6ラウンドでTKOで勝利するという展開をしました。
初めて井上選手がダウンしたのに驚きましたが、とにかく今までの井上選手の試合と違っていました。
普段井上選手は、左ジャブ等の軽いパンチで相手との距離を測りながら徐々に自分のペースを掴んでいき、相手と戦うのに一番いい距離を掴んでいったところで攻めに行く戦法をとっているのに、
今回は初回からどんどん仕掛けていって、とにかくノックアウトで勝利を狙うんだ、見ている人に最高の試合を見せるんだという姿勢でした。
その結果深く入りすぎて、1ラウンドでパンチをまともに食らってしまったという展開でした。
井上選手の中では観客がわくわくする内容で勝ちたいという意識がすごく現れていてたと思います。
リスクをとりに行って、失敗もあったけれど、そのリスクと失敗を楽しむように試合をして、最終的に圧倒的に勝利する。その力にただただ感服しました。
医療者としても見習うところがあるかと思います。

今日は、深夜の往診で絞扼性イレウスを発見した症例の話をしたいと思います。

夜1時半に、70歳の男性の方の家族から急な腹痛と嘔吐があるからということで往診依頼がありました。
普段、どこにも病院・診療所にはかかっていないと。救急病院に電話したけれども、明日朝一番の外来で来てくださいと言われたそうです。
でもだんだん痛みが強いし、動けなくなっているからどうしたらいいんだろうと。
この方は今までに一度も診察したことはないのですが、すぐ近所に私が訪問診療に行っていて、私が訪問をやっていることを知っているから電話をかけてみたと言います。
気になったので深夜ですが往診をしました。意識レベル問題なし。バイタルサインは血圧が痛みのためか180/110mmHgと高い。
腹痛が続いていて、嘔気があって 臍のやや上に圧痛がある。腹壁は軟。腸蠕動が弱い。
行った時は、歩行などはしっかりできている。本人は今日は鮎を食べ過ぎたと言っている。とにかく痛いのだけ何とかして欲しいといいます。
鮎を食べすぎたせいで、急性胃腸炎?と一瞬思いましたが、痛みは続いているのが気になりました。

携帯型の超音波検査で見ました。心臓の動きは良好。腹腔内にエコーのLowなところはない(腹水や腹腔内出血はなさそう)、腹部大動脈は拡張なし。
肝内胆管拡張なし。膵臓腫大なし。胆石なし。小腸が限局的に拡張していて液体貯留がある。3つくらい、丸い腸管拡張像が並んでいました。
イレウス(腸閉塞)を疑いました。痛み止め、嘔気とめを注射した後、CTが必要と考えて地域の基幹病院に連絡して救急で受診してもらうことにしました。
絞扼性イレウスで緊急手術になったそうです。

紹介状の返事を見た時、ほっとしました。じわーと喜びがありました。
診察ではお腹も全体的に軟で、腸蠕動はある程度ありました、鮎をたくさん食べたという話に引きづられて、急性胃腸炎と診断してしまっていたらとぞーとします。
超音波検査(エコー)を当ててなかったら診断できませんでした。

こういう症例に会うと、本当に往診は改めて怖いと思います。しかし、やはり見に行ったからこそ、こういう勝利というか、患者さんの生命を左右する病態を発見することができた とは思います。

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