在宅医療とオーダーメイド エラーと対立を超えて
在宅医療は、「オーダーメイド的」に行うことが1つの特徴だと言える。
「オーダーメイド的」とは何か。患者さんの病状はもちろん、好み、住環境、家族の介護状況、生活の時間等に応じて、医療内容をデザインすることである。
医療内容のデザインは多岐にわたる。点滴1つにしても、点滴の量・種類は当然として、滴下速度、開始と終了の時間帯、穿刺する針の種類、針の固定の仕方等、患者さんと介護者に合わせてよりよい方法を探る。
入院医療でも行われていることではあるが、在宅医療の場合はこれを1つの「ウリ」としていると言える。私も日々オーダーメイド医療を目指している。
しかし、難しい問題に直面することも少なくない。
問題の1つはエラーが多くなりやすいことだ。
患者さん1人1人に対し違ったやり方を行う。また同じ患者さんでも曜日によって内容を変えたりする。対応している症例がごく少数なら何とかなるかもしれないが、数が多くなると複雑になる。
また、在宅医療にはいろんなメンバーが対応し、多職種が関わることが多い。患者さんや家族の要望も変わりやすい。
すると、伝達のエラーはどうしても生じやすい。
伝達のエラーを低減させるため、私たちの診療所では、LINE WORKSというビジネスチャットアプリを積極的に活用している。アプリによって、現場で起きたことを送信して関係者で共有し、掲示板機能を使い、写真をアップロードし、時にはビデオ通話を行う。
こうしたデジタルツールの良いところは記録が残るとともに検索もできることだ。
話言葉だけだとうまくいかないことが伝わり、後で検索して確認することでエラーを回避できることがある。
しかし、限界もある。患者さんとのやり取りの微妙なニュアンスは表現しにくい。関わるメンバー間でうまく伝わらないこともある。
また、オーダーメイド医療は対立も生じやすい。どこまでオーダーメイドでやるべきなのかは、チームメンバー間でも意見の相違がある。
ある人はできる限り患者さんや介護者の要望に応えるべきだと考えるし、別のある人はチームのケア提供の効率性や安全性を重視するかもしれない。当然その中間の人もいる。
エラーに関しては、私は「一定の許容をする」ことが大事だと考えている。
「まちがえる脳(櫻井芳雄著、岩波新書、2023)に分かりやすく詳述されているが、人間の脳は元々間違えるようにできている。
しかし、間違えることが別のよりよりデザインを生み出すことがあるのが在宅医療だと考えている。
道具を間違えて持って行ったけれど、「ああ、こっちの方が良かったな」となって、次からやり方を変える、というようなことはしばしば起こる。それはプラスに考えたいと思う。
もちろん、患者さんの健康状態に直結するようなエラーは避けなければならない。だからそのためにビジネスチャットアプリのようなツールはフル活用するべきだ。ただ、その目的は安全性の向上に絞るべきだと思う。患者さんや家族の考え方、及びそれに対するメンバーの考えが伝わるとは考えない方がよい。
自分の流儀と違う、ことにイライラすることもある。ただ、自分の考えるやり方とは違ったやり方を他のスタッフがしていたとしても、多くの場合、参考にすべきところがあるものである。対立するのでなく、新たなソリューションを見つける機会としてとらえることが大事だと思う。
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