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Mendelian Randomization 勉強日記 8. MRの結果の解釈~外的妥当性の問題~

mendelian randomization
methods for causal inference using genetic variants chapter 6の勉強まとめ

「遺伝的バリアントの変化による暴露の変化は、提案された介入による暴露の変化とどの程度類似しているか?」(e.g. CRPを変化させる遺伝的バリアントと、抗IL-6抗体による介入はどの程度類似しているか?)

MRの結果を解釈するにあたって、たとえ操作変数に妥当性があっても外的妥当性の問題がある。


1. タイムフレームと発達の問題

 MRは受胎の際に決定する遺伝的バリアントの有無を考慮している。
すなわち、MRが想定する介入は一生続く暴露の変化の結果を表している。
しかし、多くの介入は期間が決まっている。
 例えば、スタチンを1年内服することで虚血性心疾患のリスクは約10%減少するが、5年内服するとリスクは約25%減少するというdose-response relationshipがみられる。MRで推定する因果効果はさらに長い期間(一生涯)の暴露の変化を表す。
 さらに、多くの介入は成人を対象としている。しかし、成人となったときには疾患の進行は止められないかもしれない。逆に、発達に伴って暴露に対して代償的な変化が働くかもしれない(canalization)。
 このような介入の時期の問題の一例としてビタミンDと多発性硬化症の関係が知られている。幼少期のビタミンDが多発性硬化症の発症抑制するために重要と示唆されている。MRでビタミンDが多発性硬化症のリスク因子であるというエビデンスがあっても、成人期のビタミンD補充は(幼少期を過ぎているので)疾患発症のリスクを抑制させないかもしれない。
 このように、MRの結果の解釈においては介入する時期や期間を考慮することが大切だ。

2. 暴露が通常範囲か病的な範囲か

 MRが対象とするのは通常範囲の(あるいは"平均的な")暴露がアウトカムに与える影響であり、刺激に対する急性応答の影響を調べるのに適していない。(例: 感染症による急性の炎症性バイオマーカーの上昇が及ぼす影響)つまり、短期間の病歴レベルの介入(暴露)がアウトカムに与える影響をMRで検証することはできない。

3. 小さな差を外挿してよいか

 MRにおいて、遺伝的バリアントが暴露に与える影響は通常小さい。進化論的な理由で、遺伝的バリアントが臨床的にrelevantなレベルで暴露に変化を与えることは稀である。これまでのMRで用いた遺伝的バリアントが暴露を説明する割合は1-4%だった。もしターゲットとする介入が広い集団を対象に小さい介入を行うことであれば、MRはrelevantな効果の推定値をもたらすかもしれない。しかし、ターゲットとする介入がもっと大きなものであれば、MRで得られた推定値を外挿 (extrapolation)する必要がある。このとき、用量反応関係が線形であるという仮定が妥当でないかもしれない。また、empirical dataでこの仮定を検証することができないという問題もある。

4. 異なる機序

 遺伝的バリアントとターゲットとする介入が暴露に与える変化は同じでも、そのメカニズムが異なる可能性がある。例えば、FTO遺伝子のバリアントは満腹感を通じてBMIに影響を与える。このため、食事摂取以外でBMIに影響を与える介入 (例: 運動など?)の効果は、FTO遺伝子のバリアントを操作変数として用いたMRで推定される効果と異なるかもしれない。また、ターゲットとする介入の効果は暴露の変化以外の効果を持つかもしれない。例えば、bariatic surgeryをすると確かにBMIは低下するが、ほかの生活習慣や食習慣の変化がアウトカムに影響するかもしれない。どこまでがBMIの変化による影響でどこからがBMI以外の要素の変化による効果か切り分けることは難しい。

5. 集団の違い

 MRは集団全体への介入を想定している。しかし、ターゲットとする介入は必ずしも集団全体を対象としていない可能性がある。例えば高血圧に対する介入を考えたとき、ターゲット集団は臨床的に診断された高血圧症の人だけを対象としているかもしれない。


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