【入院指示の語呂合わせ】日本語版を考える

入院時の指示


病棟で働く医師は、患者さんが入院したら入院時指示を記載する必要があります。電子カルテの普及により、大部分はクリニカルセットで決められたものを展開し、患者さんの状態に合わせて変更すればよいものとなりました。しかし、クリニカルセットには含まれないものの、頻繁に使用する指示もあります。必要な指示が漏れていて病棟の看護師さんが困ることのないように、入院時にどんな指示を出す必要があるか把握しておくことが重要です。

入院時に出しておく指示は多岐にわたり、すぐに覚えることが難しいです。そこで、入院時に指示すべき内容のmnemonics (語呂合わせ)が普及しています。例えば, ”ADC VAN DISMAL" (https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2019/PA03309_03)
や"ADCVADIMAL Call" が紹介されています (https://ykitano5min.hatenablog.com/entry/2019/05/08/122231)。
語呂合わせを覚えることで, 包括的で漏れのないマネジメントができます。

日本語で語呂合わせを考える

しかし, 既存の語呂合わせが英語であり, かつ文字数が多いことから覚えられませんでした。そこで日本語での語呂合わせを考えてみました。

「蛇もうにょうにょ バケツめし 泣いてんと ケリつけようか あかんけど」

🐍[一般指示] へびもうにょうにょ バケツめし
 (へや) 入院する病棟, 部屋
(びょうめい) 入院時の病名, 診断
(もしも) もしものとき [急変リスク, code status, CVカテーテルや機械換気]
(うごけるか) 安静度[ベッド上, 病室内, フリー], 清潔度[清拭のみ, シャワー]
にょ (にょうりょう) 尿量測定, 体重測定, ドレーンやストマからの排液
(うにょ)
(ばいたるさいん) バイタルサイン測定の頻度, モニターの有無, call基準
けつ (けっとう) 血糖測定, インスリン[スライディングスケール, 固定打ち]
めし (飯=食事, 飲水)絶食, 絶飲食, とろみや食事形態, 飲水制限

😢[治療や検査のプラン] 泣いてんと ケリつけようか あかんけど

ないてんと =治療(くすり)について 
ない
(ないふく) 内服薬 [持参薬継続, 中止, 新規の内服薬]
てん (てんてき) 輸液, 抗菌薬 その他点滴
(とんぷく) 頓用薬 [疼痛時, 発熱時, 不穏時, 不眠時, 便秘時など]

けりつけようか =少し先のプランについて 
(けんさ) 検査オーダー [血液検査や画像検査など]
(りはびり) リハビリオーダー [PT/ST/OT]
(つけよう)
(かるて) カルテ記載 [入院時サマリ, 他科へのコンサルテーション, 紹介状の返書]

あかんけど =把握し, 共有すべき事項について
あ (あれるぎー) アレルギー, 薬物過敏の既往
かん (感染症) B型肝炎, C型肝炎, 梅毒, HIV. MRSA, ESBL, VREなど多剤耐性菌の保菌歴
(血液型)
(ど)

英語の語呂合わせとの比較

意味が通りづらい語呂になってしまいましたが、なるべく入院時に考える順番で語呂を作りたかったので、英語の語呂とできるだけ順番を合わせました。英語版との相違点を列挙します。

  1. 英語では"Vital sign" に血糖測定の有無も含まれているが, 日本語版では "けつ" (血糖) で独立した項目として作った。
    【理由】電子カルテのオーダリングシステムで, バイタル●検, モニター有無, 安静度, 食事・飲水, 尿量・体重測定, call指示[HR ●以下 Dr.callなど]はセットになっていることが多いが, 血糖測定はルーチンのセットには入っていないことが多い。このため, 急いでいるときなど, 本来血糖測定が必要な患者さんに指示が漏れてしまうことが起こりやすいと考えたため。

  2. 英語では投薬は"Medication"で内服と点滴が一緒になっているが, 日本語版では"ない" (内服) と"てん” (点滴) を分けた。
    【理由】電子カルテのオーダリングシステムで、内服・貼付薬の処方と点滴(静脈注射, 皮下注射, 筋肉注射)のオーダリングが分れていることが多いため。逆に, 英語では輸液は"Intravneous" "Ins"など一つの項目になっているが, 輸液のオーダーは抗菌薬やその他の注射薬剤をオーダーするのと同じ画面で考えるため, 日本語版では "てん” (点滴)として輸液も抗菌薬その他の注射薬剤も同じ項目にまとめた。

  3. 英語にリハビリテーションのオーダーの項目がないが, 日本語版で"り" (リハビリ) の項目を設けた。
    【理由】高齢者では急性疾患の種類によらず, 廃用症候群を防ぐために早期からリハビリを依頼する必要があることが多いため。

  4. アレルギーは重要であるが, 入院時に指示簿に記載するというよりは, 電子カルテのプロフィール欄や食事の依頼時に登録することが多い。すなわち,  他の指示とは入力欄が異なっていることが多い。このため, 同じくプロフィール欄で表示されることが多い重要な項目である 感染症・血液型に関する項目を追加して「あ(アレルギー) かん (感染症) け (血液型) ど」と一つの節にまとめた。

まとめ

入院時の指示の語呂合わせを考えました。電子カルテが発達した現在, 入院時指示はセット展開するだけで機械的にできてしまう側面があります。しかし, 入院時に指示すべきことは多岐にわたります。一晩に複数人の入院担当となり, 忙しい中で指示を入れないといけないことがあります。その際, ルーチンのセットに含まれない指示が必要な際に抜け落ちてしまい, 病棟から問い合わせが来ることはないでしょうか。例えば, 糖尿病の既往がある方の尿路感染症の際に血糖測定指示を入れ忘れて, 病棟から電話がかかってくることがないでしょうか。語呂合わせに沿って指示の漏れがないか確認することで, 指示忘れを減らせるかもしれません。

また, 入院時だけでなく, 入院後の経過を追うときに注目すべきことも分かるという利点があります(https://ykitano5min.hatenablog.com/entry/2019/05/08/122231)。

さらに, 入院時には必要だった指示も患者さんの状態がよくなれば不要になるかもしれません。その際, 日々指示の見直しを行うことで, 不要な指示による患者さんや看護師さんの負担を軽減することに繋がります。

病棟業務を開始した研修医の先生にとって少しでも参考になれば幸いです。



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