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ギク川霊のぎっくりしゃっくり昼下がり 23年冬 - 2
そういうことである。
その2である。
その1のつづきである。
はいっ!
ということで、前回は童話っていうことについてお聞きしてきたわけですがっ! わけですがっ!
は、はい ……けっこうな圧ですね
次に行きますよ、よござんすか?
……よござんす(苦笑
はいっ! ということでっ! ……あっ、
どうしました?
そういえばgeekさん、
はい
童話のことを考えてる時って、肝心のおはなしのアイデアって考えてたんですか?
……いい質問ですね。考えてなかったです
そうなんですか!?
そうなんです
書くアイデアもないのに童話のことを考えてたっていう……
ふふっ、そうなんです。ちょっとおかしいですよね
あのー、それはいったい……
なんと言いますかこう、そうですね、ステップを踏まないと、物事を進める方向がズレちゃう気がしたんですね。そういうことを考えなくてもできちゃう人もいるでしょうし、それはそれですごいなと思うんですけどね
はい
極端なはなし、小林秀雄みたいな評論のアイデアとか、超絶ナゾ解きミステリーとか、まあ仮にそういうアイデアを思いついたとして、そのアイデアをふくらませて童話っぽくしようとしてもちょっとむずかしいと思うんですよね。今言ったくらい離れてたらさすがに無理だってわかりますけど、あとから「方向のズレたアイデアだな」となるのは避けたかったんですよ
そーだったんですか
そーだったんですよ
じゃあ童話ってどういうものかがわかってから、おはなしのアイデアを考えたってことになりますね
そうですね。順番はそうなります。
アイデア、すぐ出てきました?
ん〜、そうですね、わりとすぐに
そういうものなんですか?
たまたまだったと思いますけどね
アイデアってわりとすぐにたまたま、出るんですね……
ふふっ、そうみたいですよ。はい。ひとことで言えば、コミュニケーションにまつわることを書いてみようと思いました。
コミュニケーションって、会うとか、話すとか、あとは、そうですね、スマホとかSNSみたいな? ってことですかね??
あーそうですね、なるほど。えーとですね、もうちょっと具体的に言うと「自分の思っていることが伝わるとか伝わらないってどういうことだろう」ってことですね。
お話のかたちで出てきてたってことですか?
いやいや、そんなことはなくてですね、伝わるとか伝わらないってどういうことだろうって思ってたんですが、そのうちに「伝わる」を書いて「伝わらない」はわかりづらいけれど、「伝わらない」を書いて「伝わる」は表現できるかな、と思ったんですよ。よくあるアプローチかな、とは思いますけど
じゃあ登場人物とか場面とかってそのときにだいたい頭にあったんですかね
ん〜、まだですね。「伝わらない」を童話としてわかりやすく伝えるにはどういうかたちがいいだろう、としばらく考えてました。大人になるまえの人が読んでも、コミュニケーションのことを考えたくなるようなのが、できるといいな〜と思いまして、ええ
なにかヒントになったものとかは、
あー、小川未明と新美南吉の童話集はパラパラとみました。小泉八雲も。しばらくしてから宮沢賢治とか。
童話って感じですね!
そうですよね。でも、そういうのばっかりみてるとアイデアが借り物っぽくなりそうで。アイデアというより、書くというアプローチについて学びたかった気がします。学べたかどうかはわかんないですけどね、ははっ
じゃあ、これで童話が書けるようになったぞと!
いえいえ、そんなことはなくてですね、童話集を見てアイデアに目がいくと、どうしてもそっちの魅力に引っ張られちゃう気がしたので、途中で見るのをやめて澁澤龍彦、色川武大、深沢七郎とかを眺めてました。
……あのー、geekさん
はい?
アイデアっていつ書けるようになるんですか?
おお、そうですよね。えーー、まだです
くわっ! まだですかっ!?
そうですね。このときはまだ、童話に合った、話をまとめるための言葉遣いというか、アイデアを童話スタイルに落とし込むためのツールってどんな感じなんだろうと思ってました。
日本語のえらびかたとか、漢語とやまとことばのバランスとか、外来語は極力つかわないとか、そういう外側の体裁のことを考えながら、それぞれの作家の書いたものを漠然と眺めてた感じです。
それって、童話を書くのに近づいてるんですかね
うーん、わかんないですけどね。人それぞれやり方があると思うので。いきなり書き始められる方もいらっしゃるでしょうし。
わたしの場合はなんといっても童話を書いたことが無いですから、少しずつこんなのかな、あんなのかな、と想像しながら「これで書けそうだぞ」というところまで行かないと書いてもヘンなものにしかならないよね、と思ってたんですね。
そういうものなんですか〜
さあどうでしょう、他の方に聞くと全然違う答えが返ってくると思いますよ。わたしが書くまでのアプローチが一般的かどうかもわかんないですし。そもそも「おはなしの書き方」とかそういったセオリー自体、学んだことがありませんから。自分でも「ほんまに書けるんかぁ?」とか思ってました。けっこう長い間。
えっ? そうなんですか!
そうなんですよ。まあ、振り返ってちゃんとしたものになってたら、そのやり方はたぶん間違ってはないんでしょうね、きっと。正しいかどうかはわかんないですけど。
は〜、ギク川ちょっとわかんない世界ですけど、
そうですよね、わかんないですよね。
ところでっ、お話のアイデアからストーリーまでってどんな感じでまとまっていったんですか
ああ、何でしたっけ……えーっとそうか、ぱっとアイデアが出て、伝わるとか伝わらないとかってことでしたよね。そうですね、伝わらないってことをどう表現するかって考えた時に、言葉のやりとりができないっていう形でどうだろうか、と思いました。
どういうことですか?
言葉の使えない人を真ん中に置いたら、まわりのひとはどんな風に動いてくれるだろうって考え始めたんですよ
そうだったんですか
ええ、そうです。ひとことで「伝わらない」っていっても、気持ちがすれ違うとか、そもそも言ってることが解らないとか、いくつかの場面が思い浮かぶんですが、童話として成り立たせようと思った時、わかりやすい形にする必要があると思ったので。気持ちのすれ違いも「伝わらない」のひとつの形ですから、書ける人なら童話として仕上げられるでしょうね。わたしはシンプルに「喋らない」ということで伝わらなさを表現できるかな、と思いまして、はい
そうやってキャラクターが決まったんですね!
ええ、そういうわけで黙ったままの人の話にしてみようと決めました。三年寝太郎ってあるじゃないですか、あれの喋らないバージョンみたいな。
やっと登場人物が! ギク川、待ってた甲斐がありました! くーっ!
……はい、出てきましたね。まだこの時点では、コミカルな話になるのかシリアスな話になるのかぜんぜんわかってないんですが「どうやら何か書けそうだぞ」という感触だけが先にあったんですね。
そうなんですか!
そうなんです、ふしぎですよね。しばらくしたら、頭の中に別の人物が出てきて「喋らないってどんな気持ちかな」みたいなことを言い始めたので、だれがどんな感じでしゃべってるんだろう、と少し待ってみることにしました。
そんなこと、あるんですか?
うーん、あったからしょうがないですよね、ははっ。
そうしたらしばらくしてそれがお爺さんと孫娘だってわかったんですよ。
大きな木の根元に腰掛けて、お爺さんが話をし始めまして。その話のなかに、喋らなかった友だちのエピソードが出てきたんですね。
どんどん話が!
そうなんですよ、この人たちどうすんのかな、と思ってたら、大きな木は桃の木で、その木の下でふたりが言葉のない世界にいるってどんな気持ちなんだろうって、話をしていたんですけどね。
お爺さんの話に出てくる友だちは「はやてこぞう」と言われていて、一言もしゃべんなくてちょっと不思議なやつなんですよね。小さい頃は近所にいたんですが、ある日しゃべらないことがきっかけで何か大きな出来事があったんでしょう。ふっといなくなっちゃう。
そして、ふたりの背中にある桃の木は、彼がいなくなってから葉っぱが逆立っちゃった、みたいな。だからきっとはやてこぞうと桃の木の間にはなにか秘密があるんですよ、きっと。
じゃあ、もうあとは書くだけに!
ええ、このふたりに連れていってもらえば何か話はできるだろうと思ってnoteに下書きメモをいくつかしたんですよ。
やったー! 完成ですねっ! ギク川も読んでみたいです!
あっ、まだお読みじゃなかったんですね。別にいつ読んだっていいんですけど。読まなくっても大丈夫ですけどね。
それはさておき、話を書き始めたんですが、どうにもうまくいかなかったんですよね。
なんと! そんなこともあるんですか
あるんですね。ふたりの会話がこなれてこないのと、喋らない人はかつて村にいた少年ということになると思ったんですが、ちょっと輪郭がおぼろげなままはっきりしてこなくてですね、そうなると、お爺さんと孫娘は違う話ばっかりしちゃうんですよ。
えっ? たとえばどんなのですか?
いや、ふつうのことですよ。
今年もこんな季節になったとか、話を書き始めたのは秋だったのでトンボが飛んでるねとか、川の流れる音を聞きながら「おなかへった」とか、もう夕方だから帰ろうとか、そんなのです。
さすがにこれじゃあ童話にはならないかな、と。
確かにその会話だと、童話じゃなさそうですね〜
桃っていうのはいいアイデアだな、と思ったんですけどね。古事記にもイザナギイザナミの話に出てくるので、昔からあるものだし、魔除けのイメージもあったんでうまく使えるといいなと思ったんですが、
ですが……?
われわれが知ってる桃って、あるじゃないですか。夏に出回るおいしいやつ。あれって品種改良されて明治時代以降に栽培され始めたみたいなんですよね。それに、桃の木ってすごく幹の太いものってあんまりない気がしたので。
ってことで昔の桃なんてどんなのかわかんないし、そうなると童話とはいえシンボルになるような形では使いづらいなぁ、と思いまして
そんなこと考えてたんですか?
そうなんですよね。で、ボツにしました。
なんとっ!
自分でヘンだと思うものは出せないですしねぇ。そのまま進めても、募集するウミネコ編集長や他の応募作に対してもちょっと恥ずかしいと思ったので。
うーん、なるほど〜。たしかに力作の中に自分で納得できないものは出せないですよね
人から見た出来とか評価はわかんないですけど、自分で「これならいいかな」と思えるものにはしたいな、と思ってたんですよ、いちおう。
童話って、言ってみれば架空の話なのでいろんなことを気にしなくてもいいと言えばいいんですけどね。むかしむかし大きな桃がどんぶらこと流れてくる話もありましたし。
とはいえ、なんだかしっくりこないのと、どっちかというと本当っぽい話の方がいいかな、と思ったので。
じゃあやり直しに……
はい、やり直しです。ものを書く人にとってはこういうのって普通のことなんだろうな、とか思いました。自然と。
なんだか自分ってもの書きみたいな体験してるな、とおこがましくも思ったりして
……えー、ということで、ここまで来てぜんっぜん話の内容に入らなくてびっくりのギク川でございますがっ!
ははっ、ほんとですよね
次回に続きまっす! よござんすね?
あっ、……よござんす