追悼:小川眞さん、ありがとうございました

昨年夏、菌根ときのこ、そして、炭(バイオ炭)の分野で知らぬ人の小川眞博士が亡くなられた。私も大変お世話になった。昨年(2021年)の菌根研究会大会の講演要旨集に追悼文を書かせていただいたので、ここに転載する。菌根研究会の要旨集がアップされたら、重複するので削除するつもりです。

小川さんの「菌を通して森をみる」は、学生時代に読んだ本の中でももっとも印象に残った本の一冊であった。実際にお会いするのは、1983年秋。東北農業試験場(当時)の駆け出しの研究員であった私は、つくばの林業試験場(現在、森林総合研究所)の小川眞さんの研究室を訪問し、アーバスキュラー菌根菌(当時はVA菌根菌と呼ぶのが普通だった)の取り扱いの手ほどきを受けた。これが私と菌根菌との出会いであり、そして、今に至るまで菌根菌と付き合うことにになった。この時に、ディスカッション顕微鏡を使って、根内のアーバスキュルやヴェシクルを説明していただいたが、小川さんの軽妙な説明を聞いていると、まるで顕微鏡下の根の中で菌がどんどんと伸びていくように感じられた。多くの研究者や学生が、このような小川さんの語り口に魅せられて菌根研究に関心をもつようになったのではないだろうか。その後も折りにふれて、数々のご助言をいただいた。

それから約10年。1994年、菌根研究会大会が、新設された宇治の関西総合環境センター・生物環境研究所で開催された。非常に多くの参加者があった。堀越先生(当時・広島大学)は、大会のお祝いのご挨拶で、「まるで小川さんという教祖さまの下に集まる信者の集会」とお話しになったが、まさに小川さんを中心に、多くの研究者が集まり。熱気あふれる大会であった。

それからさらに四半世紀。昨年(2020年)秋、共著者の協力を得て「菌根の世界」(築地書館)を出版することができた。これも小川さんの声がけがなければ出版には至らなかった。その経緯については、同書の編集後記に記した。ここ数年は白内障を患っておられ、数回にわたって手術を受けられたと聞いていた。そのような中で、同書の最終章に「菌根共生の進化を考える」を書いていただいた。この原稿をいただいて、わずか1年余りで逝去されることになるとは思ってもいなかった。この原稿は、次のように結ばれている。

「新型コロナウィルスが収束してくれたら、もう一度、野外へ出て、素直に自然のあり方を観察してみよう。自然は常に遠大な存在であり、偉大な師でもある。」

 

小川さん、どうもありがとうございました。安らかにお休みください。

 

 

齋藤雅典 (元・菌根研究会会長)

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