夜を畏れる
夜が怖かったのはいつまでだったろうか。
子供の頃、夜が怖くてたまらなかった。
昼間はなんでもない椅子が、取り残された椅子が夜の闇を纏った途端、それは化け物になり変わるのだ。
夜が怖いのではない、闇が怖いのだ、と言えばそうかも知れない。
けれど、夏のいつまで明るいのだろうか、という日の長い季節であっても、薄暗くなった世界から漠然とした恐怖が僕に入り込んでくるのだった。
夜は危険、というのは生物の本能であるのかも知れない。
夜を得意とする生き物であれば、逆に昼が怖い、ということになる。
僕らは夜、遠くまで見ることができない。
太陽に照らされてはじめて、僕らはそれを認識することができる。
けれど、闇を纏った途端云々だ。
木下さんにそんな話をすると、へへ、と笑った。
何がおかしいんですか、心外です、と僕は訴えた。
また、へへ、と笑って木下さんは教えてくれた。
夜が怖いのは、エロチックが怖いということだよ。
よく意味がわからないけれど、僕はそれを否定することなく、はあ、と曖昧にうなづいていたのだ。木下さんは間違いなく、夜を克服し、エロチックに足を踏み入れていたところだ。
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