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春を負う

春を背負って歩いている。
おばあさんは、ほとんど無意識のまま春を背負ってどこへいくのか。
わからない、誰にもわからないけれど、その無口のおばあさんは、歩いている。

しばらく見守っていた人々はやがて飽きて生活に戻る。
春を背負って歩く老婆はそれほど珍しいものではない。
生活に戻って、そういえばあのおばあさん、春を背負ってたなあ、と眠る前に思い出すのだ。

おばあさんは、人々のことなんかお構いなしだ、当然。
自分が信じた道をいく。その先に何もなくとも、断崖絶壁だったとしても。
死ぬことは怖くないよ。
妥協したことの方が怖い。
と起業家はいう、おばあさんはそんな意識が高いわけではない、当然。
なんの崇高な考えもない、ただ、春を背負って歩くというだけだ。
そこに意図も、打算もない。

おばあさんが止まるのは、ただ疲れた時、喉が渇いて懐にしまっている水筒を開ける時、サワガニが横切っているのを待つ時だけだ。

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