合掌

どうしてもと 手を引かれ
最後は甘い香りと旗とで
その場所へたどり着いた

入ってすぐ おやっと気づいた
ふさふさの縞模様の子たちが
隅の箱にそっと寄せられていた

働き者と見込まれて
いつの間にやら運ばれて
目も眩むようなお花畑で
夢見心地で過ごしたのだろう

春の味覚を堪能できるのは
無数の命と引きかえなのだ
分かりきったことなのに
あまりに鈍感だった

子どもの頃に行った先では
もれなく練乳を渡され 苺そのものの味は
正直のところ わからなかった
蜂を見かけた覚えもない
きっと 時代の流れなのだろう

花に近づき
じっくり見ると
まだ蕾 咲きかけ
満開 散り際
色づきはじめ
おすすめ 熟しすぎ
これらが同時進行

遠目には良さそうでも
よく見ると悩む

このつるを引っ張ると
離れたところで
悲鳴があがる

そんな気がして
ためらいがちに押さえ
へたを外し
目をつむって口に運ぶ

予想どおりの
みずみずしさ

美味しいねぇ
こっちも きっと甘いよ
大丈夫自分で選ぶから
そんなおしゃべりをしながら
中腰で一周

まだ時間は残されていたが
私達には 十分すぎる
贅沢なひととき
早めに切り上げることにした

生きとし生けるものへ
手を合わせ
言葉にならない
祈りを捧げ

長い期間をかけて
ここまで育て
皆が楽しめるようにと
尽力される方への
感謝を胸に

忘れ得ぬ出来事が
また1つ














この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?