ご先祖さま

私が生まれるよりも前に
他界した祖父は
箪笥職人だった

父が末っ子だったことから
その面影は わずかな写真で
ちらっと垣間見た程度

父の桐箪笥は祖父の作で
深夜に列車が通ると
引き手の金具がかたかたと 
音を立てていた記憶がある

嫁いだ先で 子ども用の
軽くスライドするタイプの
整理タンスの引き出しが壊れ
しばし修理に出すことになった

一段分が空いたままという光景に
なぜか心がざわついたのは
きっと 祖父の息遣いを感じたのだと
今にして思う

ご先祖さまに見守られつつ
私達は 今この世界を 
懸命に生き抜いている

時を遡れるならば 
祖父がどんな手で
簞笥をこしらえ
どんな声で
どんな時に笑っていたのか
この目と耳で確かめたかった

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