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アイナ・ジ・エンドの話

私は9月11日、アイナ・ジ・エンドの武道館ワンタンライブへ足を運ぶ。関西からはるばる東京へ観に行く理由は1つ。
今観ておかないと一番の輝きを見逃すからだ。
推しとなった一番の理由は昨年12月に生で観たRADIO CRAZYでのステージ、その一部始終を覚えている限り語ろうとしよう。

そもそもBISH時代から異質なアイドルだと言う認知で、気になる存在であったのは間違いない。Mステで椎名林檎の「罪と罰」をカバーした時も凄いアーティストだと感じていた。解散後のソロ活動でも数多くタイアップを耳にする度頑張ってるなーと感じていた。そんな2023の冬、レディクレで遂に生で観れる事になり、迎えた2日目のR-stage。

開演前は私の目の前にいた高身長男性がどうやって見ようかと、うろちょろ模索していた私を見かけて、前へ譲ってくれた事を思い出す。優しいファンの後押しで前から6.7列目という好位置に付けた。そして始まったステージ、始めに思ったのはド直球に言うとエロいだ。色気のある服装に身を纏う姿に釘付けになりながら1曲目「ハロウ」が終わる。実を言うとソロ曲は沢山聞いてる訳では無いので半分にわか状態であった。でも2曲目は知っていた「ZOKING DOG」が来た。ここではオーディエンスと一緒に犬の真似をするアイナが見られて、可愛いなと微笑ましく観ていた。

3曲目は「サボテンガール」。ここら辺でダンサー”アイナ・ジ・エンド”の本領が発揮されてくる。この前の藤井風の時も思ったが、歌い踊り詞を書いてはステージを構築していくアーティストのことを何と表現したら良いのだろうか。シンガーソングライターの言葉では足りないほど、踊りの要素を無視できないほど彼女のステージは元アイドルらしさに満ちている。4曲目は今ソロで一番再生数がある薬屋のひとりごとedの「アイコトバ」。アイナが持つ曲調は大きく分けてスピード感あるダークな曲調と緩やかで優しい曲調だと思うが、後者の方が高く評価されている事は嬉しく感じる。5曲目は「静的情夜」。詞、曲ともアイナ自身でアレンジに亀田誠治が入っている。2分半の短い曲だが、女という性に生きる苦しみを仄めかす歌詞は考えさせられるものだ。

そして、6曲目が機動戦士ガンダム水星の魔女のed「Red:birthmark」がやってきた。MVの時点でこの曲の異質さは知っていたし、イントロが流れた時点で覚悟した。どんな狂気が襲い掛かるのか。だが、そんな覚悟もゆうに越した化け物みたいなパフォーマンスだった。がなり声は大きく轟き、ダンスの定型を超えたような、狂気がそのまんま表れているかのような踊り。ステージを転げ回り、長い髪が左右前後に大きく揺れる。圧巻だった。観客が手振り身振りを忘れる程にだ。本物だって天才だって知っていたが、改めてこの時は本物だ…と声を零した。

その「Red:birthmark」が終わった時だ。鳴り終わりと共に倒れる演出だったが、拍手が止んで10秒ほど経っても立ち上がる気配が無い。ステージ袖からスタッフが駆けつける。まさかとは思った。そしてスタッフがジェスチャーで×を作ったその時、思い出したくない事が思い浮かび重なりだした。まずこの時のアイナの状態から話そう。本人は照明にやられて目眩が…と言っていたが、私には酸欠倒れたようにも思えた。詳しい症状分からないが、「Red:birthmark」でのパフォーマンスが命を削り過ぎた。私はそう捉えている。それはあれだけの事をしたら倒れるのも無理は無い。命を懸けるとは軽々言えるが、倒れるまで追い込める人はそうはいないだろう。そうやって良いように言えるが、別の言い方を言えば彼女は死地を知らないとも言える。音楽にのめり込むあまり、命を費やしてしまうのではないか?それ程の危険性も感じた。この命との瀬戸際で魅せる限界値オーバーなのかも分からないパフォーマンス。私が彼女を推しという最大の理由はそれを軽々と魅せる狂気、それに尽きるだろう。

次にその様子を見た時に重なってしまった思い出したくなかった事についても書こう。あれは2023年10月下旬の頃だったか。あのロックスターの訃報が届いた。ビジュアル系ロックバンドのBUCK-TICKのボーカル櫻井敦司さんが死去された。お母さんが大好きで名前と数曲くらい知ってるだけの存在ではあったが、私にはあまりにもショックだった。それは亡くなった事実と言うより、亡くなり方に対する感情だ。10月に行われたファンクラブ限定のライブの3曲目で倒れ、スタッフに運ばれてライブは中断。病院に搬送されるも、その日の内に脳幹出血でこの世を去った。当時からライブ好きで色んなアーティストを観ていた私だが、もしアーティストが目の前で倒れた事を考えると、とてもしんどくてその恐怖は計り知れない。そして、このニュースから2ヶ月しか経ってない時に私はアイナ・ジ・エンドが目の前で倒れる様子を目撃してしまった。それはもうフラッシュバックするかのように櫻井さんの事を思い出した。嫌だ…嫌だ…と言っても何も出来ないまま時間が経つあの時はとてもしんどかった。そういった事を頭に巡らせながら、スタッフに介護されるアイナを心配に見つめて4分ほど経っただろうか。幸いな事に、退場するほどの症状では無かったのでステージは無事再開された。

MCから再開された。目眩いがしてごめんねだとか少し弱い声で話していたが、いきなり声色が変わって震え声のような声になった。
「本当は…BISHで憧れのレディクレのステージに立ちたかった…」と涙声で。
何だよそれ…ズルいってそんなん今言うの…。多分当時はそんな感じに思っていながら涙が自然に零れていただろう。そんな記憶がある。会場はそんな涙に暮れるアイナに暖かい拍手で慰めを送った。良いファンだらけだ。私もこの拍手を絶やすまいと強く強く手を打ち付けた。

そして、最後の曲になる。7曲目、「きえないで」はアイナが初めて作詞作曲をした思い出の楽曲という紹介と皆消えないでねまた会おうねという呼び掛けを添えて始まった。 曲中何度も「きえないで」という歌詞があるが、それを聞いた時私が思っていたことはひとつ。そのセリフはこっちのセリフだって…。そんな危なっかしいパフォーマンスで倒れているのにこっちには消えないでねと呼びかける。何と矛盾していることか。アイナこそ消えないでくれ。心からそう願った。この曲を聞いてる時ももちろん涙は零れていた。そしてアイナは無事歌い上げ、ステージは幕を閉じた。観客が次のステージへ移動を開始する中、私は20秒ほど動け無かった。色んなアーティストのライブを今まで見てきたが、ここまで感情をぐちゃぐちゃに喜怒哀楽全てを生み出された公演は初めてだった。

妖艶さに惑わされ、可愛さに見蕩れ、ダンスのキレに驚き、自由奔放さに笑いが込み上げ、狂気に似た踊りにもはや恐怖を覚え、いきなり倒れる彼女を本気で心配し、MCで泣かされ、きえないではこっちのセリフだよと愛から来る苛立ちも感じつつ、歌声に惚れ続けた40分間。

そして、決断した。彼女が死ぬまでにワンマンに絶対に行くと。早死にしてしまいそうなくらいに音楽に命を懸ける彼女をいつまで見れるか分からない。だからこそはるばる東京まで行ってまでも観に行く価値があると思ったのだ。彼女にとっても特別に感じている武道館公演。どれほどまでのパフォーマンスを魅せてくれるかは予想もつかない。ただ、目の当たりにすると慄くだろうという事だけ分かる。そのパフォーマンスにはそれほどまでの破壊力と命が籠っているから。あと2日、とても楽しみだ。

(余談だが、レディクレでアイナの後に見たのはサンボマスターであり、そちらもボロ泣きした事を恥じずに書いておこう。お前ら!絶対死ぬなよ!と叫ぶ山口のセリフは全てアイナを思い浮かべながら聞いていた。


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