2.任意整理(その2)


 早速影山の携帯に電話する。
影山『はい、綺羅星金融の影山です』
藤原「弁護士津山義博の事務所の藤原です」
 考えれば不思議ない言い回しだ。普通、何とか銀行の〇〇ですとか、何とか物産の◻︎◻︎ですとか、企業の名前を全面に出すものだ。法律事務所なら「△△法律事務所の××です」というべきではないか。
 これは法律事務所特有の慣行だ。事務職員はたいてい事件絡みで電話するものだ。となると、弁護士の誰が代理人であるか、どの事件について連絡しているのか、それを相手に明瞭に伝えるため、こんな風変わりな名乗りになるのだ。
影山『ああ、これはどうもどうも。早速連絡いただいて』
 イメージしていた高利貸しとは全く異なり、影山はとても愛想が良かった。もっとコワモテのヤクザまがいの人間を想像していたのだ。
 聞くと、どうにも首が回らなくなった客の相談を受けて、ウチに紹介してくれると言うではないか。
藤原「どうしてウチに紹介してくれるんです?客が飛んだら影山さんとこの損失でしょうに」
 この時、街金の生態に関心をすこぶる掻き立てられた。昔読んだ漫画でしか知らない世界だからだ。
影山『確かにそうなんですけどね。でも任意整理なら元本の大半は回収できることが多いし。また回収できなくとも、客を大事にしていると知り合いを紹介してくれたりするんで、トータルでは儲けになるんですよね』
藤原「なるほど。よく考えられてますね」
 さすが金融屋、したたかな計算を働かせている。
影山『闇金の連中なら、債務者が女なら風俗に沈め、男ならタコ部屋に送り込むなど、人身売買まがいの荒技で回収するんでしょうけどね。ウチは登録金融業者なんでね、これでも。法律は守りますよ』
 え、そうなの?それらは街金の通常の業務範囲内かと思っていた。闇金はさらに凄まじく、債務者の内臓を売買したり、生命保険に加入させて、ということじゃなかったか?

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