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武骨なマエストロ ポール・スコールズ
激しい爆裂音。フットボールスタジアムでそんな音を体感したのは初めてだった。2002年6月7日、2002年W杯、イングランド対アルゼンチン。グループリーグで最も注目されていた因縁の対決のプレミアムチケットを運よく入手できた私は、熱狂の札幌ドームでこの大一番を観戦した。冒頭の爆裂音の正体は、ポール・スコールズが放ったミドルシュートの音(右足がボールを叩いた瞬間の音)である。シュートは惜しくもゴールを外れたが、スコールズの代名詞ともいえるミドルシュートの破壊力に戦慄が走った。
ポール・スコールズ。ライアン・ギグスやデイビッド・ベッカム、ガリー・ネヴィルらとともに1990年代にマンチェスター・ユナイテッドの黄金時代を築いたレジェンドである。主に中盤の攻撃的なポジションでプレーし、正確無比かつ創造的なパスでゲームを支配しつづけ、味方に決定的なスルーパスを供給するとともに、チャンスがあれば強烈なミドルシュートをゴールに叩きこむ。貴公子ベッカムなどと比べれば見た目の華やかさに欠けるため、きらびやかな輝きを放つことはないが、ピッチの中心で常に最上級の“匠の技”を披露していた。
見た目はアニメ『ピーナッツ』(スヌーピー)のチャーリー・ブラウンに似た風貌。チャーリーのように性格はシャイで、マスメディアにもほとんど登場しない。クラブや代表で長い時間を共に過ごしたベッカムも、ピッチ外でスコールズと深い話をしたことはほとんどなく、チームメイトであっても彼の携帯電話の番号を知る者は数少なかったといわれる。
一般的なフットボールファンには少し地味な印象を抱かれているかもしれないが、同時代を戦ったスーパースターからは絶大なリスペクトを受けている。ジネディーヌ・ジダンは「最も手強かった相手。彼の世代で最も素晴らしい選手」と賛辞を贈り、ティエリ・アンリは「プレミアで最も素晴らしい選手。彼はなんでもできる」と絶賛している。スペインのシャビ・エルナンデスとアンドレス・イニエスタもファンを公言し、イニエスタはUEFAチャンピオンズリーグで対戦した後にユニフォームを交換している。
「プレイヤーズ・プレイヤー」(選手に愛される選手)であるスコールズには、共にプレーしたことのある選手にしかわからない“特別な凄み”があるに違いない。
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