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最後の王様 ズラタン・イブラヒモビッチ

「俺は誰にも似ていない。ズラタンはオンリーワンだ」

 フットボールの世界に真の王様がいなくなって久しい。かつてはペレ、プラティニ、マラドーナのように、クラブチームでもナショナルチームでも絶対的な存在感を放ち、ゲームを支配するエースがいた。しかし現在のフットボールでは規律や連動が重んじられ、“違いを生み出し続ける”我の強いプレイヤーは敬遠される傾向にある。メッシやネイマール、ロナウド(ブラジルの怪物ではないほう)も王様タイプだが、かつての王様たちと比べればスケールも存在感も小さい。

 こうしたなか、ズラタンは自他ともに認める真の王様だろう。冒頭の言葉も本人のものである(自伝より)。1981年10月3日、ボスニア人の父、クロアチア人の母のもと、移民の子としてスウェーデンに生まれる。南部のローセンゴート地区で育ち、2歳になる前に両親が離婚。少年時代は万引きや自転車泥棒を繰り返すワルで、貧しくトラブルの絶えない家庭環境のなか、一人で歯を食いしばって生き抜いてきたという。

 “ジプシーコート”と呼ばれる荒れ果てたミニサッカーコートでボールを蹴り始めた少年は、地元の少年フットボールクラブを転々とした後、名門マルメFFのトライアウトに合格してプロデビュー。以降、アヤックス、ユベントス、インテル、バルセロナ、ミラン、パリ・サンジェルマンといった欧州を代表するビッグクラブでプレーし、全クラブでリーグ優勝を勝ち取る。得点王は5度獲得し、スウェーデン代表の最多得点記録も保持している。

 身長195cmの巨漢ながら足元のボールさばきも器用で、ゴールだけでなくポストプレーもできる万能型FW。ゲームでは本能で動く獣のようにスペースを自由に動き回り、抜群の身体能力を駆使して誰も真似できないようなマジカルかつミラクルなゴールを繰り出す。“俺様キャラ”にふさわしく、時には監督との確執もあり、とりわけバルセロナ時代はペップ・グアルディオラとのバトルを展開し、自伝ではペップを酷評している。

 真の王様も現在40歳。フットボール界の勝者として、また最後の王様として全速力で駆け抜けたズラタンの物語も間もなくエピローグを迎える。だが、フットボールが平準化・均一化していくほど、そのオンリーワンの生きざまがファンの心で熱く蘇るだろう。


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