脱法ジンのすゝめ

ジンは薬用酒にルーツを持つ酒であり、ジュニパーベリーに由来する針葉樹の爽やかで、かつ甘くもスパイシーな香りが特徴的だ。中世において病は瘴気に起因すると思われていたので香りの良いものはそれだけで薬たりえたのだろう。

だが、スッキリとした飲み口ににもかかわらず蒸留酒よろしくアルコール度数が高く、かつてはその安価さも相まって低所得者を中心にジン中毒をもたらした悪名高き酒でもある。時代が違えばセカンドサマーオブラブの主役はLSDなどではなくジンだったかもしれない。

そんなアウトローで危険な魅力を持ち合わせたジンは日本の酒税法上はスピリッツに分類される。

酒税におけるジンの定義

ジュニパーベリーを蒸留した一般的なジンは酒税法ではスピリッツに分類されるが、スピリッツの定義は以下のような蒸留酒のオルタナティブをまとめたものである。

二十 スピリッツ 第七号から前号までに掲げる酒類以外の酒類でエキス分が二度未満のものをいう。

酒税法、第1章 3条より。

ジンのようなものを指し示す表現は酒税法の3条連続式蒸留焼酎を定義する条文の中に例外の定めというネガティブな形で以下のように存在する。

「ニ アルコール含有物を蒸留する際、発生するアルコールに他の物品の成分を浸出させたも」

酒税法、第1章 3条の九より。

つまり何が言いたいかというとジンを定義する法律は存在しない。

だが、もちろんジュニパーベリーをアルコールと共に蒸留してジンを作る場合はスピリッツとなるし製造には免許が必要になる。この国では酒税法という悪法によって免許なしでの酒類の製造は禁止されている。

みなし醸造について

ところで梅酒を家で作ったことある人はどれくらいいるだろうか。酒類と水以外の混和も法律上は酒類の製造にあたるが、自家製梅酒のように自家消費を目的とした混和は規制の対象にはならない。

11 前各項の規定は、政令で定めるところにより、酒類の消費者が自ら消費するため酒類と他の物品(酒類を除く。)との混和をする場合(前項の規定に該当する場合を除く。)については、適用しない。

酒税法、第8章 43条の六より

つまり何が言いたいのかというと、ジンも混成酒として自家消費の範囲内であれば自由に作れるのではないか?ということである。なので次に混和を認められている物品を見ていこう。

混和できるものについては以下二つの法令でこの様に定められている。

14 法第四十三条第十一項に該当する混和は、次の各号に掲げる事項に該当して行われるものとする。
一 当該混和前の酒類は、アルコール分が二十度以上のもの(酒類の製造場から移出されたことにより酒税が納付された、若しくは納付されるべき又は保税地域から引き取られたことにより酒税が納付された、若しくは納付されるべき若しくは徴収された、若しくは徴収されるべきものに限る。)であること。
二 酒類と混和をする物品は、糖類、梅その他財務省令で定めるものであること。
三 混和後新たにアルコール分が一度以上の発酵がないものであること。

酒税法施行令、第8章 50条より

3 令第五十条第十四項第二号に規定する財務省令で定める酒類と混和できるものは、次に掲げる物品以外の物品とする。
一 米、麦、あわ、とうもろこし、こうりやん、きび、ひえ若しくはでん粉又はこれらのこうじ
二 ぶどう(やまぶどうを含む。)
三 アミノ酸若しくはその塩類、ビタミン類、核酸分解物若しくはその塩類、有機酸若しくはその塩類、無機塩類、色素、香料又は酒類のかす

酒税法施行規則、第13条より

脱法ジンのすゝめ

さあ、ここまで来たら感のいい人は気づいているかもしれないが、僕が提案したいのは「ジュニパーベリーを買ってきてお酒に漬け込む」ということではない。

製品のジンも試作段階では各種のボタニカル別で蒸留し割合を決めたりするが、アルコールとジュニパーを別々に蒸留し調合した場合それはジンとは呼べないのだろうか?ということである。

つまりはジュニパーベリーの蒸留物を既に蒸留されたアルコールと混和することでジンを作成できるのではないか?という脱法ジンのすゝめである。

生憎、蒸留機なんて新幹線に乗るより安い値段で落ちているし、質の高い原料アルコールも自分で醸造・蒸留したら個人では到底払えない設備と光熱費が必要になるが、ネットショッピングにはガソリン10リットルほどの値段で落ちているのである。

ジュニパーベリーをはじめとした各ボタニカルを水蒸気蒸留もしくは乾留し出来た精油ないしはハーブウォータを47度ほどにわる。昨今ビアボールという炭酸で割ることで作れるビールが流行っているが、逆にアルコールで割ればジントニックになる清涼飲料水の開発すら可能である。

2010年台中盤から始まったクラフトジンブームからそれなりに時間が経ったが、未だにジンのムーブメントに陰りは見えない。それにはこの酒の定義のファジーさ、トライできることの裾野の広さが一役買っているような気がする。ジュニパーベリーによって香り付けがされていればアルコールの原料も、一緒に蒸留するボタニカルも何が入っていても構わない。それは作り手にとっても自由な気運を纏った酒であるが、その扉は個人で蒸留を楽しみたい人にも開かれているのではないだろうか。

今後春が来たら山には山菜のシーズンが到来し色々な野草を蒸留できる様になる。それらの実験結果もnoteに書き起こしていきたい。

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