西の叔母が死んだ

「叔父さんが亡くなりました! ばんざい!」

 メッシーナ1347、プラハ、アンダーウォーターシティ等を生み出し今や押しも押されぬ人気デザイナー、チェコの巨匠ウラジミール・スヒィは初期作「おかしな遺言」のルールブック冒頭で非常に興味を引く、非道徳的な導入を加えた。上記がそうである。まちがっても私は叔父が亡くなって喜んでいる訳でもない。そもそも一人っ子と一人っ子に生まれた私に叔父はいない。

 日々時間を浪費してボードゲームに明け暮れるボードゲーム蛮族にはいらない説明だったかもしれない。「知ってらあ!」と多くの読者が思うだろう。なにしろここはボードゲームアドベントカレンダーでも場末の第13日目、酔狂な人間しか見ないかーんの日である。それでも現代は不謹慎に敏感である、政治が分からなくても東に燃えそうなネタがあれば、行って火をくべてやり、西に疲れた初心者がいれば、行って余計なDMをしてやるのが現代ボードゲーマーであるのだから、燃えないためにこれくらいの予防線は必要である。

 なんの話だったか、そう、不謹慎。ボードゲームは何をやってもいいためしばしば不謹慎なネタであふれる。黒い帽子の司祭が宿屋で人を埋めていたりポンペイ人を火口に投げ入れたりゲームマーケットで18禁ブースを作らないと売れないものまで様々で、その「不謹慎なボードゲームの歴史」の中には「遺産目当てで争う」というものが時々顔を出す。おかしな遺言は2011年のゲームだが、1994年にはそのまんま「遺産相続」なるゲームがラベンスバーガーから登場し、「家系図を使って自分が秘密裏に担当する人物に沢山遺産を相続させた人が勝ち」という身も蓋もない内容であった。当時のドイツ人の家族はどんな気持ちでこのゲームをやったのであろうか。

 近年もGPから「遺産は俺のもの」、同人でも「愛人に私の財産の半分を遺贈する」等枚挙にいとまがなく、脈々と(?)受け継がれる由緒正しきテーマである。その中でも今日紹介するのは上記のような有名所ではない。先人(ここでは先の日程においてアドベントカレンダーでゲームを紹介した人々の略)のような面白いゲームの紹介は出来ない。今日インターネットの端で紹介するゲーム、名を【叔母の遺産】という。

 

 はっきり言って不謹慎なゲームの紹介など私は心苦しい。幼少時その清らかさは郷里の里を七色の光に照らしたとされる私がなぜこんなことをしなきゃいけないのか、しかも、別に面白くないのであるから、努々頑張って探し出して遊んでみようなどと思わないで欲し。ただ、このゲーム、アバカスの小箱の癖に終了条件が面白いのでそこだけ「ふーん」と思って明日にはぜひ面白いアドベントカレンダーを読んでいただきたい。

~~~~~~~~~~~~
 昔々あるところにマリーという女性がいた、きっと多分おそらくマリーという名前であるから母親はマリア・テレジアもかくやの寵愛を注いで育てたのであろう、当然マリーは遺産を受け継ぎお金持ちとなり、数十年後には近隣の名士はみな知っているような大富豪となる。今やマリーは沢山のお金・親戚・彼氏に囲まれて過ごしているが、寄る年波には勝てず、ふと昔のことを思い出し、甥・姪に自分の資産を残しておこうと思うようになった。しかし同時に、自分がかつて受け継いだ金額以上の遺産を常日頃から望む卑しい親族を、彼女は恨めしくも思っていた…
~~~~~~~~~~~~

 上記が叔母の遺産のテーマ(多分)である。もっともらしく書いてみたが、ようは必要以上に点を取ってはいけない競り+セットコレクションである。やり方は下記の通り。

①遺産カードを3枚めくってほしい。この時遺産カードの数字か色が3枚揃うと...


【マリー叔母さんの彼氏が変わる】
何を言っているか正直分からないがマリー叔母さんの彼氏が変わる。正直我々の人生には関係ない気もするが、これがのちのち大きな展開となることはその時は思ってもみなかったのである。

②親プレイヤーはめくられた遺産カードと手元の遺産カードを1枚交換できる。この時遺産カードの数字か色が3枚揃うと...


【マリー叔母さんの彼氏が変わる】
何を言っているか正直分からないがマリー叔母さんの彼氏が変わる。叔母さんはタップルかティンダーを使っているため男の回転が早いのである。何故遺産スロットが当たりを出すと彼氏が変わるのかは現代科学をもってしても謎とされている。

③親プレイヤ―以外が競りを行う。 
ごくごく標準的なパスか上げるかの勝ち残りを決めるタイプだ。競りは1・2・3・4各4枚ずつの内訳からなる競り用のカードを提示し、残った1人がこのラウンドの遺産を全て貰う方式。カードは減る一方だが余らせる必要もない。競り用のカードは一応「叔母さんのための付け届け」であろうイラストをしている。

④親プレイヤ―が隣に移る。
親プレイヤ―が隣に移る。

⑤上記を繰り返し、山札が亡くなったら終了。得点計算。
 1・持っている遺産カードを合計し、50点を超えているプレイヤーは素点を全没収される。つまりこの50点は叔母がかつて自身が相続した時の金額を表現しているのだ。イカロスが太陽に近づきすぎて落ちたように、人には超えてはいけない領分があるということだろう。
 2・持っている遺産カードを合計し、50点を超えていないプレイヤーもとりあえず30点没収される。叔母から見るとつつましすぎる人間も、それはそれで気にくわないらしい。とはいえとりあえずマイナス点になることはないので安心してほしい。
 3・色と数字のセットコレクションがあるので、それらを合計したプレイヤーの勝ち

実は遺産は全部書き下ろし

上記の通りである。なんとも味気ないルール・味気ないゲーム、ボードゲームのルールだけ読んで採点する奇人がこの世にはいるがこれだけ見たら泡を吹いて倒れるであろう。

…ところがこのゲーム、例外が存在する。先ほどまでちらちらしていたマリー叔母さんの囲いたちを覚えていただろうか。

おおいねん

叔母さんの彼氏がすげ替えられるスピードは、運とゲーム展開によって風のごとしから真夏のミミズのごとしと幅広いが、この彼氏が全部めくられるとどうなるか?

結婚する


箱絵の人物と違くないか?と思ってはいけない。 
 この年で独身だと思う事があったのであろうか、それとも遺産目当ての年下に身をほだされたのか、とにかく幸せな行事であることには違いない(どうだろうか)。そしてなんと結婚してもゲームが終わる。そしてなんと得点計算が変わる。結婚し幸せになったマリーは全てがどうでもよくなったため好きなだけ遺産をくれるようになり、持っている遺産カードの数字を全て合計し、セットコレクションの点を足して一番高い人の勝ちに得点計算が変更される。今のマリーは幸せそのものであり、50ポイントがどうこうなどどこ吹く風、周りに遺産を配り始めるありさまである。遺産を奪い合う親族なんていなかったんや。

 1997年のアバカスキャラメル小箱、なんとマルチエンディングが実装された競りゲー、これが叔母の遺産の正体であり、システムオタクが喜びそうな珍品である。
種明かしをしてしまうとだからといって絶賛されるゲームではないであろう。古株のゲーマーは「どこかでタダで貰った」という人もいるのではないだろうか。

それでも

我々が過去今将来遊ぶ面白いゲームは、こうしたゲームの積み重ねの上に出来ているのである  終


※この記事はボードゲームアドベントカレンダー2022、13日目の記事です。昨日はキャッチーぬんの看板娘でした。あれ俺も15人戦やったことあるけど最高なんよ、思い出に残ります。
明日の担当はやぎ子です。ここ一週間くらいずっとメンバーが仲良し数珠繋ぎだな!!それでは〜


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?